誰も気付かない要求にどう応えるか
初代「iPhone」開発に学ぶ、革新的モバイルアプリ“発明”の方法
いまだかつて誰も、その用途や機能を経験したことがないような斬新な新製品を生み出すには、どのような要件を定義すべきだろうか。潜在的なユーザーニーズに気付く秘訣を探る。
ユーザー操作性の要件を定義するための最適な方法とは何だろうか。
この質問に答えるには、2つの要素について考える必要がある。“操作性”と“ユーザー”である。また、操作性という要素は、少なくとも2つの観点から検討する必要がある。全般的な観点と個別的な観点である。米Appleの初代「iPhone」の要件定義は、既存製品のアップグレードの際の要件定義と比べると天と地の開きがあったと思われる。
真に革新的な製品の要件を定義する場合を考えてみよう。いまだかつて誰も、その用途や機能を経験したことがないような斬新な新製品の要件を定義するのである。潜在的なユーザーはその製品に関する予備知識を持ち合わせていないので、彼らの要望を聞くことはできない。自動車は今日、日常生活の一部になっているが、ヘンリー・フォード氏はかつて、自動車の大量生産を始める前にこう語ったといわれている。「もし人々に何が欲しいかを尋ねていたら、『もっと速い馬が欲しい』という答えが返ってきただろう」。フォード氏にとって最も重要な要件は、自動車とは何の関係もない事柄だった。彼が目指したのは労働者に高賃金を支払うことによって、彼が作った車を労働者が買えるようにすることだったのだ。
同様に、米Xeroxが複写機の発明に取り組んでいたとき、人々はそれを必要としているわけではなかった。潜在ユーザーはカーボン紙による複写に慣れており、それ以外の方法の必要性を感じることがなかったのだ。複写機が人々に受け入れられたのは、Xeroxが企業のオフィスに機械を設置して無料試用サービスを開始した後のことである。試用期間が終わるころになっても、人々は複写機を返却しようとはしなかった。実際にはずっと必要としていたにもかかわらず、以前は気付きもしなかった要求を満たしてくれる機械を手放せなくなってしまっていたのだ。
もちろん、モバイルアプリケーションの要件の多くは、関連する操作性(GUI型コンピュータの使用など)から派生したものである。「iPad」にしても、GUI志向の強いAppleのコンピュータや、競合OS(Windowsなど)を搭載したコンピュータが進化した形態だといえる。GUIのコンセプトを生み出しながらも、それを商業的成功につなげることができなかったのがXeroxであることを覚えている人は少ない。Appleも最初の挑戦では失敗している。
イノベーターは潜在ユーザーに成り代わって考えることによって、ユーザー操作性の要件を“発明”しなければならない。予想される主なユーザーのタイプ/階層/人格を特定し、これらのユーザーの行動、特に、ユーザーがどんな風に行動し、それについてどう考えるのかをきちんと把握しておく必要がある。現実の潜在ユーザーは自分が想像できないものを使用する上での要件を特定できないため、イノベーターがこれらのユーザーの立場に立って考える必要があるのだ。
これをうまくやるための秘訣は、ユーザーが価値を実現するために“何”を達成しようとしているのかという部分にフォーカスすることである。自分が作りたい製品やアプリの機能を設計することではない。イノベーションにとっては、ユーザー操作性の要件とは、価値を実現するための障害になるものを特定し、それを克服することに関係する。機能やユーザー操作性などの要件が確定したら、次の課題はこれらの要件を満たす製品機能を設計することだ。これがビジネス分析のあるべき姿である。これは今に始まったことではなく、またモバイルアプリだけに限ったことでもない。
今日、米Ford、XeroxおよびAppleにとってイノベーションの重要性はやや薄らいだ感があるが、ユーザー操作性の要件は現在でも、競争力を維持する上で重要な問題である。新たな概念が確立すれば、ユーザーの実際の操作性が、関係する要件の主な源泉となる。斬新なイノベーションはユーザー操作性要件を定義する要素の1つではあるが、実際の操作性に対するユーザーの反応の方がより大きな要素になる場合が多い。これは短期的には有効かもしれないが、長期的には限界がある。既存製品とあまり代わり映えのしない最新版にアップグレードすることによってユーザーの気持ちを引き付けるのが難しくなるからだ。
そうした場合にイノベーションの基盤となるのがユーザー側である。すなわち、イノベーションの次の形は、ユーザーの側に立って新たな利用形態と操作性(これまでになかった体験)を発明することなのである。例えば、最近では自動車はモバイルデバイスとして宣伝されることが多いようだ。一方、複写機はスマートフォンの写真アプリなどによって取って代わられつつある。
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