レスポンシブサイトという選択
モバイルアプリの社内開発が頓挫、その時、中小企業が動いた
iPhoneなどのスマートフォン、モバイルデバイスの利用が広がり、一般企業でもモバイルアプリケーションを開発することが増えた。しかし、企業にはモバイル対応のレスポンシブサイトという選択肢もある。
不動産会社の米8z Real Estateは2012年、デスクトップPCから物件リストを検索するユーザー数が伸び悩んでいることを受け、外出中の潜在顧客を取り込みたいと考えた。8z Real Estateには26人の従業員が勤務し、コロラド州とカリフォルニア州北部の不動産仲介人が90人所属している。同社は、物件情報をただ掲載するだけではない、独自の機能を備えたアプリが必要と考えていた。不動産物件を探している人には、地図機能とGPSが必要だ。だが、このモバイルアプリの開発は、構想するよりも実行する方がはるかに難しかった。8z Real Estateは半年間にわたり社内開発を試みたが、結局、サードパーティーの開発者を雇い、不動産物件検索アプリ「HomeSpotter」を完成させた。
その結果はいかに? 8z Real Estateの創業者でCEOのレーン・ホーナンCEOによれば、2013年7月に「iTunes」と「Google Play」でHomeSpotterを公開して以来、5000人以上のユーザーがこのアプリをダウンロードしており、そのうち1000人近くがアクティブユーザーだという。
ガートナーイベント チケットプレゼントキャンペーン
2014年5月22日、23日の2日間、東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)で開催されるガートナー ジャパン主催イベント「ガートナー ビジネス・インテリジェンス&情報活用 サミット 2014」のチケット(通常価格8万9000円)を5名様にプレゼントします。下記のサイトからご応募ください。
モバイルアプリか、レスポンシブサイトか
8z Real Estateにとって、「モバイルアプリを開発する」という決断は正解だった。同社のマーケティングアソシエイト、ステイシー・ストリエニツク氏によれば、現在、物件リストへのトラフィックのうち約15%をモバイルデバイスが占めているという(ただし、滞在時間は長くない)。モバイルデバイスの浸透ぶりや不動産購入の性質からして、この数字は数年後には50%にまで高まることが予想される。運転中や近所を散歩中に「売り出し中」の看板を見つけた人は、家に戻るのではなく、その場で詳細を知りたいはずだ。
モバイルアプリ開発の風潮に乗ったのは、8z Real Estateにとっては賢明な選択だった。だが、全ての中小企業経営者にとってこれが正しい顧客戦略とは限らない。モバイルアプリを開発するよりも、モバイル対応のレスポンシブなデザイン(※)にサイトを設計し直す方が得策な場合もある。
※レスポンシブデザイン:単一のHTMLでPC、スマートフォン、タブレットといった画面サイズが異なるデバイスへ対応できるWebサイト制作手法
フリーランスのコンサルタントとクライアント企業を結ぶマッチングサイトを運営する2013年5月創業の新興企業、米SkillBridgeも、そうした中小企業の1つだ。同社のマーケティングとコミュニケーション部門を統括するスティーブン・モース氏によれば、同社はコンサルタントとクライアント企業が相互に検索し合えるモバイルアプリの開発も検討したが、結局、モバイルデバイス向けにWebサイトを最適化することに決めたという。
SkillBridgeの潜在ユーザーは、MBA(経営学修士)を持つ優秀なフリーランサーとそうした人材に関心を持つ雇用担当者が大半を占める。そうした潜在ユーザーが「あまり頻繁には使用しないアプリをダウンロードしてくれるか」を検討した結果、同社はモバイルアプリを開発するという選択肢を取り去った。
「当社はニュースサイトではないが、利用者は1日に何度か情報をチェックする必要がある。モバイル対応のレスポンシブなサイトを用意し、利用者が最新の情報を入手できるようにする方が容易だ」と、モース氏は語る。モバイルアプリを開発するとなった場合のデータセキュリティの問題や、複数のモバイルOS向けにアプリを開発する手間も懸念事項だったという。
米調査会社Forrester Researchの副社長兼主任アナリスト、ジェフリー・ハモンド氏にとって、SkillBridgeの判断は納得がいくもののようだ。同氏によれば、コンテンツベースのサイトや電子商取引(EC)サイトは、レスポンシブデザインに設計し直すのが理想的な場合が少なくないという。「そうしたサイトでは、利用者がデータを大量に入力するわけでもなく、オフライン時にデバイスにデータが置かれている必要もない」と、同氏は語る。
レスポンシブサイトが向いているのは、顧客が何かを読むためにサイトにアクセスしてくるような企業だ。SkillBridgeの場合は、目まぐるしく変化するコンテンツも、レスポンシブサイトを選ぶもっともな理由となった。ハモンド氏によれば、アプリストアの承認を得るには苦労するケースも多い。そのため、モバイルアプリにはそれほど頻繁に変わらないコンテンツの方が向いているという。
SkillBridgeのモース氏によれば、サイトをレスポンシブにしたことで、モバイルデバイスからの直帰率(※)が改善し、これまでの50%から今では30%にまで下がったという。
※直帰率:最初のページだけ見てすぐに別のサイトへ移動してしまう閲覧者の割合)
モバイルアプリを開発する場合の留意点
これからモバイルアプリを開発しようという中小企業経営者向けに、8z Real Estateからの助言を幾つか紹介する。
「外注を検討する」
「モバイルアプリに関しては、自社開発の難しさを過小評価すべきでない。ユーザーを誘い込める独自のモバイルアプリを開発したいのであれば、なおさらだ」と、8z Real Estateのストリエニツク氏は指摘する。上述した通り、同社は2012年にHomeSpotterアプリの社内開発に着手した。2013年1月、既に開発に4カ月を費やしていたにもかかわらず、初版のリリースまでにまださらに半年ほどかかることが予想された時点で、同社はアウトソースを決断した。「われわれはリーチを広げてユーザーを獲得するための何かをすぐに用意する必要に迫られていた」と、ストリエニツク氏は当時を振り返る。
社外のアプリ開発者に頼ったのは、スピードだけが理由ではない。サードパーティー開発者であれば、独自のアプリをより迅速に開発できるだけでなく、初版の安定性も高まる。「バグが残る完成度の低いバージョン1.0を提供するより、すぐに役立つアプリを提供する方が理にかなっている」と、ストリエニツク氏は語る。
「独自の有用なアプリを開発する」
8z Real Estateは、ユーザーのスマートフォンにもう1つアプリを追加してもらうためには、地図機能を優先する必要があると考えていた。「家を買おうという人たちには、スマートフォンで不動産物件を探している人たちも多い。そのため、まず優れた地図機能をアプリで提供することが極めて重要だった」と、同社のホーナンCEOは語る。
HomeSpotterは不動産業者向けの情報ネットワークMLS(Multiple Listing Service)のIDX(Internet Data Exchange)データフィード機能を活用し、スマートフォンのGPS機能を使って、現在地近くにある不動産物件の情報(価格や面積など)をユーザーに提供している。「それが、このアプリならではのセールスポイントだ。当社の市場は在庫水準が低い傾向にあるため、こうしたロケーションベースの物件リスティング機能が極めて重要となる」と、ストリエニツク氏は語る。
「モバイルアプリとWebサイトは別々に分析する」
HomeSpotterアプリは人気だが、8z Real Estateはまだ利用状況やコンバージョン率(※)については明確なデータを把握していない。モバイルアプリを経由した問い合わせを、Webサイトや電話からの問い合わせと一緒くたに扱っているからだ。
※コンバージョン率:Webサイトへのアクセス数のうち、Webサイトで獲得できる最終成果(商品購入、資料請求、会員登録など)に至る割合
ストリエニツク氏によれば、8z Real Estateのコンバージョン率は大半の不動産サイトよりも高い。業界平均は1%未満だが、同社のサイトは20%だという。モバイルアプリによるコンバージョン率を把握できるよう、8z Real Estateは1年後をめどに分析ツールを導入したいという。同社は目下、アプリストアの検索結果でトップに表示されるためのマーケティング計画に取り組んでいる。
「何をすべきかをしっかり理解するには、試行錯誤で前に進んでいくしかない。HomeSpotterは新しいアプリだ。われわれにはまだ学ぶべきことややるべきことがたくさんある」と、ストリエニツク氏は語る。
結論
モバイルアプリの開発を検討中の中小企業は、「ターゲットとなる顧客がアプリをダウンロードしそうかどうか」や「ダウンロードする価値があるほど十分に独自機能を備えたアプリとなるか」を検討する必要がある。情報にアクセスするだけでいいのなら、恐らくユーザーにはモバイル向けに最適化されたサイトの方がアプリよりも役立つはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社マクニカ] アイカ工業に学ぶ脆弱性対策 情シスが把握できずにいたアセットも正確に把握 -
製品資料
[株式会社マクニカ] 「脆弱性総まとめ」解説 被害事例から考える必須の対策ポイント -
製品資料
[Splunk Services Japan合同会社] サイバー脅威「トップ50」完全解説ガイド、新たな攻撃手法に対抗するには -
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」完全ガイドブック:メリットから資格取得のポイントまで -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] はじめての「自治体/官公庁入札」 必要な知識がすぐに学べる入門ガイド
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
2
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
3
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
4
「世界一給与にハングリー」な日本のエンジニアが“雇用の安定”を求める理由
-
5
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
-
6
「VMwareのコスト」に悩んでいるユーザー企業に送る、VMwareを残す・捨てる基準
-
7
後付けガバナンスの崩壊 PayPalが設計段階からデータを縛る理由
-
8
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
9
迫る“インフラ崩壊”の危機 米英を相次いで襲った「PLC悪用攻撃」の全貌
-
10
「GPTかClaudeか」だけでは不十分 AI選定で情シスが見るべき3つの仕組み
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
8
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
9
Macの安全神話は崩壊? 最新の脅威動向から見えた攻撃のトレンドと有効な対策
-
10
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー