消費者に何を・いくらで・どのタイミングで提供するか。小売業者が競争を勝ち抜くためのSCM構築は、マーチャンダイジング(MD)との連携が必要だ。すなわち、SCMの計画と実績管理は顧客ニーズの把握から始まる。
消費者は、価格が高くてもこだわりを持って購入する一方で、品質に問題がないという前提で徹底的に安いものを求める。同じ個人であっても目的や用途によって消費の使い分けがあり、市場の二極化が進んでいるといわれている。そして政権交代の政情、温暖化気象、さまざまな分野での異業種からの参戦など、市場は予期せぬことが多い。そのため、企業には「いつ、何が売れるのか」「どうすれば売れるのか」、そして「売り時の商品ライフサイクルをどう組み立てるべきか」といった課題が付きまとう。また、サプライチェーン上のそれぞれのプレーヤーをどのように迅速・柔軟、かつ効率的に運用するかを考えなければならない。常にコストを最小にして最大の利益を上げるために、売る側としてタイムリーに自社の特徴を最大限生かし、勝負の土俵に上がるためのプラットフォームを備えるには、今まで以上に深く戦略を練らなければならない。まさに、「最も強いものや賢いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残る」(ダーウィン『種の起原』)のだ。
このような中、国内企業は製造や調達、あるいは販売を海外に求める場合が増えてきている。しかしSCM(Supply Chain Management)システムについては、国内における社内の部門間調整の仕組みしか用意されておらず、海外対応は別で考える(例えば、リードタイムを多く取った単なる受発注業務で対応する)傾向がしばしば見られる。そのため、グローバルSCMとしては各プロセスの可視性は乏しく、計画変更も多くが硬直的な運用になり、結果として在庫増大や売上機会の損失といった大きな課題を抱えることになる。筆者はコンサルティングを通して、このようなケースを多く見てきた。
関係者が多くなればなるほど、範囲を広げれば広げるほど、SCMの難易度は上がる。そのため、グローバルでの連携を行う場合は、より一層調達から販売まで一貫したコンセプトで構築していく必要がある。もちろん、仕組みを作ればよいという問題ではなく、仕組みを作った上で、プロセスを回しながら熟成を重ね、改良を加え、常に個々企業に最適な形を求めていかなければならない。
この度、グローバル展開を見据えた小売業のSCMについて、今回を含め計3回の連載を書かせていただくことになった。第1回となる今回は、SCMの「計画立案と実績管理」について考える。
例えば、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)を行っているアパレル小売業では、デザインから販売までのリードタイムは平均で4〜12カ月といわれている。つまりデザイン前の時点で、「数カ月以上先に単品で何が幾つ売れるか」を予測しなければならないわけだ。もしその後の工程で修正が一切利かないということであれば、大きなリスクを内包した運用といえるのではないだろうか。しかし、現実にはこれに近いことが行われている。ちなみに同業界のマークダウン(値下げ)率は30〜50%といわれており、ここにしわ寄せがきていることになる。これは言うまでもなく、売上高・利益率ともに低下する要因となる。
この解決に近道はなく、まずは原点に戻って「顧客ニーズを知ること」から始めるべきだ。IBMが2008年5〜8月に国内外393社にインタビューを実施した「IBM Global Chief Supply Chain Officer Study 2009」によると、国内企業の74%が顧客との親密性、つまり「顧客ニーズを正確に把握することが重要」と考えており、ここがSCMの中でも最重要課題であることが分かった。中でも、製品開発と需要計画の両面において、「協働によって顧客ニーズをつかむための取り組みが遅れている」「今後この分野に積極的に取り組みたい」という意見が多く聞かれた。
顧客ニーズは、POSや会員カード、コールセンターなどの既存の仕組みからはもちろん、新たに店舗モニターを設置して顧客導線や反応を収集するなど、さまざまな取得手段がある。しかし問題となるのは、それらで得たデータをいかにリアルタイムで科学的に分析するかだ。これこそが顧客マーケティングであり、「顧客ニーズに適応する商品を、適切な価格・タイミングで提供する」ことを考えるマーチャンダイジング(以下、MD)だが、現状はSCMとの連携は少なく、販売管理のみに使っている企業が多いようだ。今回はSCMの目線で、顧客ニーズに沿った商品やサービスを提供する最も効率的な方法を探るところから触れてみたいと思う。
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