「持たざる経営」をうまく活用した物流コストと在庫の最適化方法グローバル展開を見据えた小売業のSCM【第2回】

小売業がグローバル展開を行う際には、拠点配置、在庫配置、輸配送ネットワークを同時に考えていく必要がある。そのため、物流コストと在庫を最適化するためには外部連携の利用を積極的に考えていくことが重要だ。

2010年01月14日 08時00分 公開
[近藤倫明,アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス]

 物流コストの削減、商品・サービスごとに掛かる物流コストの明確化、在庫削減・適正化。筆者はコンサルティングの現場を通して、最近これらの課題解決がテーマのプロジェクトの引き合いが急増していることを実感している。その背景として、あらゆる面で変化の激しい今日は市場動向に応じた形のロジスティクスが求められており、その中でも特に物流コストと在庫に関しては、変動費化の要素が強く期待されていると思われる。確かに現在のような不景気では、効果的かつ即効性のあるコスト削減施策がトレンドとなる。

 また、在庫についてはこれだけ商品の改廃が激しくなると、複数の課題が混在してくる。店舗での棚割りの最適化、物流センターでの在庫適正化、店舗で売りたい商品と物流センターに滞留している商品の不一致、店舗や物流センターの在庫偏在、物流センター間の横持ち(寄り道工程)など、一筋縄では解決できない事態が複数生じ、どこから手を付ければよいか分からないという声をよく聞く。しかし、欠品と売上機会損失のどちらも減らして商品の回転率を上げることは小売業の使命であり、利益向上のために避けては通れない道だ。

 これらに加えて、海外で生産もしくは販売をしている場合はさらに複雑になる。文化やコミュケーションという目に見えない部分はもちろん、輸送リードタイムの問題が加わると、在庫切れあるいは在庫過多、緊急輸配送コストの増大などの問題も生じてくる。その対応が定常化しているという小売業者もしばしば見られる。

 今回はこのように旬の話題になることが多い、物流コストの削減と在庫最適化の2つのテーマについて取り上げる。

物流コスト最適化の第一歩は構成要素の分解から

 まずは物流コストから考えてみよう。

 課題として「物流コストの明確化」があった場合、目的には業務改善・物流コスト削減がまず挙がる。その目的を遂行するためのアクションは、商品別・顧客(店舗・店舗タイプ)別、あるいはサービス別といった物流費の把握や、煩雑な物流条件下での外部業者に対する見積もりの基準化になる。

 これらに求められる共通項は、「物流コストの分解作業を避けて通れない」ということだ。もし物流費が支払い物流費だけでしか見えないのであれば、どこを改善するか見当を付けることも不可能だ。物流コストの分解では、例えば、輸送、包装、荷役、保管、流通加工、情報流通の機能別費用ぐらいは最低限押さえておきたい(※)。

(※)これらは1997年に旧運輸省が策定した「物流コスト算定統一基準」に基づくものであり、他社との比較を行う場合の基準になる。

 しかし、実際の改革を行う場合はそれだけでは十分とはいえず、活動原価の要素を追加する必要がある。そのためにはABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)分析で実測データや一定の配賦基準を使って分解していく。これにより、もうかっていると思っていた商品に想定以上にコストが掛かっていたため実際には利益が出ていなかったり、あるサービスに想定以上のコストが掛かっており、取引先との条件見直しが必要だったりといったことが判明する。

 もちろんそれが分かったとしても、実際には高コストで利益の出ない商品・サービスをすぐに廃止するわけにはいかない場合もあるだろう。ただ、個々の状況によってふさわしい改革方法を考えるべきポイントを絞れることは確かだ。逆にこのようなデータに基づく数値がないと、取引先に対して価格低減をお願いするにも説得根拠の乏しい提案になる。

画像 適正サービスレベルの設定方法。サービスごとのコスト構造を把握し、収益を勘案しながらサービスを取捨選択していく

 ここで注意しなければならないことは、活動原価の実測方法と配賦基準だ。実測方法については、代表例を摘出して作業時間をタイムウオッチで計る方式や、情報システムを利用してリアルタイムにデータ蓄積を自動的に行う方式、あるいはその混合型がある。

 情報システム利用の一例として、倉庫作業の領域ではWMS(Warehouse Management System:在庫管理システム)が有効だ。無線端末を利用して作業の開始と終了を入力させることで、自動的に作業生産性データを入手し、労働生産性を管理する機能が備わっているソフトウェアパッケージもある。ただ、どんな場合においても実測データだけですべては埋めきれず、配賦基準を任意に決めていく科目は出てくる。ここについては、専門家の意見や書籍などを参考にし、最後は社内関係者が納得する基準を作ることが必要になる。

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