初期投資を抑えつつ、迅速にITシステムを展開できるSaaS。その一方で、システムを所有することが長い目で見るとコスト削減につながる場合もある。どちらに投資すべきか、その選択基準をヒト・モノ両面で定めよう。
情報処理システムの活用において、「所有から利用へ」といった流れが着実に進んでいることは確かなようである。情報処理システムも今後、電気・ガス・水道などといった社会インフラと同じような道筋をたどり、ユーザー企業は自社で情報処理システムをまったく所有しなくなるという見解さえある。だが一方で、ある程度長い目でトータルコストを見ると、「所有」の方が負担は少ないのではないかという声もある。「レンタカーは便利だが、毎日車に乗るのであれば自家用車を購入した方が安上がりである」という例えを耳にした方も少なくないだろう。
こうした疑問を明らかにするためには「所有から利用へ」という抽象論ではなく、社会インフラや車とは異なる情報システム固有の特性を踏まえることが重要だ。さらにユーザー企業が判断を下す場合には、自社固有の事情を組み入れる必要がある。
そこで今回は、ユーザー企業が「SaaS(Software as a Service)と自社内運用のどちらを選択すべきか?」を検討する際に役立つ考え方を解説する。
本題に入る前に、「SaaSとは何か?」をあらためて明確にしておく必要がある。一般にSaaSというと、従来のASPと対比する形で以下のように定義されることが多い。これを「狭義のSaaS定義」と呼ぶことにする。
狭義のSaaS定義 |
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ベンダーが所有するソフトウェアをユーザーがネットワーク経由で利用するサービス。カスタマイズ実現度、ユーザビリティの高さ、マルチテナント技術の応用などの技術的な裏付けから、従来のASPとは区別されるソフトウェアの提供形態 |
上記の定義の中の「ソフトウェア」は、主に「業務アプリケーション」を対象としている。だが、現在のSaaSは単に業務アプリケーションをサービス化したものにとどまらない。例えば、コクヨS&Tが提供する「@Tovas(あっととばす)」は「ファイルを安全に送り、かつ監査証跡を取る」というサービスである。つまり、「ファイルを送る」という行為自体をサービス化したものといえる。このように、SaaSとして提供されるサービスは、ユーザー企業の業務全般に広がってきている。こうした状況を踏まえたものが、以下の「広義のSaaS定義」である。
広義のSaaS定義 |
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ユーザーが情報処理システム上で行う業務をインターネット越しに実施し、提供者側が業務実施に付随するさまざまな管理業務を請け負うことで対価を得るソフトウェア利用環境の提供形態 |
SaaSの活用を検討する際は、広義の定義にまで視点を広げることが大切だ。「業務アプリケーションをインターネット越しに利用する」という狭い範囲にとどまっていては、自社が必要とする本当のSaaSを見つけ出すことはできない。
SaaSの広いとらえ方を把握できたところで、実際にSaaSの投資対効果について詳しく見ていこう。一般的に、SaaSは「コスト削減に有効」「安価に導入・運用できる」と言いはやされることが多い。しかしコストといっても、サーバハードウェアなどの「モノの対価」もあれば、情シス担当者が日々行う「ヒトの作業」にかかわるものもある。また、考慮の対象となる情報処理システムが新規に導入するものなのか、既存システムのリプレースなのかによっても判断基準は大きく変わってくる。
このように、情報処理システムの「コスト」はさまざまな要素で構成されている。「ハードウェアを購入しないで済むという理由でSaaSへの移行を進めたが、他システムとの連携に多大な作業コストが掛かってしまった」などといったことがないように、コストを構成する要素を網羅的にとらえておくことがまず大切である。
以下では、上記の「情報処理システムのコストを構成する主な要素」を踏まえながら、一般的にいわれている「SaaSによって期待できる主な投資対効果」について解説する。
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