接続デバイス数の増加や利用シーンの多様化によって新たな課題が浮上する無線LAN。新規格の「IEEE 802.11ax」と「IEEE 802.11ah」がその課題をどのように解決できるのか説明する。
1人当たりの利用デバイス数の増加や、IoT(モノのインターネット)による屋外での接続デバイスの多様化を背景に、新たな無線LAN規格の標準化や実用化の動きがある。
2013年に標準化した「IEEE 802.11ac」の進化版として、標準化団体IEEE(米電気電子技術者協会)のタスクグループ(TG)において審議が進んでいるのが「IEEE 802.11ax」。無線LANの普及促進を図る業界団体、Wi-Fi Allianceが無線LANを世代別に見分けるために2018年10月に発表した表記法によれば「Wi-Fi 6」、つまり無線LANの第6世代に当たる規格だ。第5世代に当たるIEEE 802.11acのデータ伝送速度は最大6.93Gbpsまで高速化している。だがデバイスが密集した環境ではトラフィックが混雑してスループット(実環境におけるデータ伝送速度)が出にくくなる。それを解消するための技術がIEEE 802.11axに導入される。
2016年に標準化が完了した「IEEE 802.11ah」(Wi-Fi Allianceの認証プログラムでは「Wi-Fi HaLow」)は、屋外でのIoTインフラに適した規格だ。こちらは法整備の遅れもあり、国内ではまだ商用化していない。ただし通信事業者やメーカー、学術団体などが2018年11月に「802.11ah推進協議会」を発足させ、実用化に向けた動きを強めている。
これら無線LANの新規格について、2018年11月に開催されたマイクロ波関連イベント「MWE 2018」のセミナー内容を基に整理する。
一般的に利用される無線LAN規格としては、最近では2009年に「IEEE 802.11n」、2013年にIEEE 802.11acが標準化し、企業での導入が進んでいる。IEEE 802.11axもこれらの規格と同様、スループットの向上を目指している。問題は同一の周波数帯が混雑することだ。無線LANは2.4GHz帯の利用が一般的で、IEEE 802.11n以降の規格で5GHz帯の利用も広がっている(図)。IEEE 802.11axが対象とする周波数帯は1GHz〜7.125GHzだが、製品化は2.4GHz帯または5GHz帯が基本になると考えられるため、混雑は今後も広がるとみられる。そのためIEEE 802.11axは、混雑した中でいかにスループットを出すかという点に主眼を置く。
MWE 2018で講演したNTTアクセスサービスシステム研究所の井上保彦氏は、IEEE 802.11axについて、「これまでとは異なる方向性で進化を目指している」と説明する。これまでの無線LAN規格は、複数のチャネル(データの送受信に用いる周波数帯)を束ねる「チャネルボンディング」という方法によって、伝送速度を高速化してきた。
それに対してIEEE 802.11axが重点を置くのは、複数ユーザーのデータ伝送をいかに効率化するかという点にある。それによって同一周波数帯を使う無線LAN接続が密集した環境でも高スループットを実現する、というのがこの規格の特徴だ。以下で井上氏の説明に基づき、複数ユーザーによるデータ伝送を効率化する要素を説明する。
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