「COBOL人材の不足」はメインフレームの危機ではない その真意は?これからのメインフレームに必要な議論【後編】

メインフレームを扱える人材が希少になる中、企業が目を向けるべき戦略や、取り入れるべき技術とは何か。メインフレームをリスクではなくチャンスに変えるためには。

2024年10月21日 07時30分 公開
[Dale VileTechTarget]

 私がメインフレームについて調べ始めたとき、メインフレームの管理を担う人材が失われていくリスクをどう低減するかばかりを考えていた。これに対して異議を唱えた人がいた。その議論を通じて、私は「メインフレームをリスクではなくチャンスとして捉えるべきだ」という主張の真意を知ることになった。

「COBOL人材の不足」はむしろチャンス その真意とは?

 メインフレーム「IBM Z」とOS「Linux」の専用機「IBM LinuxONE」のワールドワイドエコシステム担当バイスプレジデントを務める、IBMのメレディス・ストウェル氏は、ある可能性に期待を寄せる。AI(人工知能)技術がメインフレームのスキルを変革することだ。ストウェル氏は、人の補助と育成にAI技術を活用することについて次のように述べる。「これはAI技術を部分的に活用するだけではなく、アプリケーションの開発と運用の在り方を根本的に変えることを意味する」。IBMはこの考え方を「AIファースト」と呼ぶ。

 ストウェル氏が思い描くのは、メインフレーム運用チームが実施するさまざまな作業に、AI技術を組み込むことだ。こうした活用は分散型システムの分野で進んでいる。プログラミング言語「COBOL」で書いた巨大なアプリケーションの保守や最適化を例に考えてみよう。まず実行するのは、ソースコードを調べて、何をどのように処理しているのかを明確にすることだ。現在はその作業を支援するAIツールがあり、ソースコードからビジネスプロセスを抽出することも任せられる。そのような作業の対象になるソースコードは、次々に入れ替わるさまざまな開発者が、年月をかけて記述してきたものだ。そうしたソースコードを読み解き、必要な操作を自動で実行することにAI技術の最大の価値があると同氏は考える。ジョブを制御するためのプログラミング言語「Job Control Language」(JCL)で記述したジョブや、IBMが開発したメインフレーム用プログラミング言語「REXX」のプログラムに対しても、同じ使い方ができる。

 経験者が引退する際、スキルと経験だけが去るのではなく、チームが蓄積した記憶も失われることを考えれば、ストウェル氏の主張は良いポイントを突いていると言える。失われたスキルや経験をAI技術が完全に埋め合わせることはほぼ不可能だが、説明できる部分を拡大したり、専門家アシスタントを実装したりすることで、喪失の影響を緩和することは可能だ。IBMは、LLM(大規模言語モデル)やそれを活用したチャットbotが脚光を浴びるよりも前に、同社のAI技術を活用した製品・サービス群「IBM Watson」でそのようなアシスタントを実装していた。

補完対象はスキルだけではない

 大事なのはメインフレーム関連スキルの下支えやモダナイズだけではない。メインフレーム運用チームとITチームが、アーキテクチャやプロセス、そして何よりも人材の面で連携することが重要だ。

 ストウェル氏は、企業がメインフレームをハイブリッドクラウド戦略の対象に含める上では、チームの枠を超えた共同作業や知識共有を促進することが不可欠だとアドバイスする。具体的には、メインフレームの専門家とクラウドアーキテクトを集めた、部門横断的チームを作ったり、メインフレームと分散型システムにまたがる共通のツールやプロセスを導入したりすることが必要になる場合がある。

 「サイロ化(連携せずに孤立した状態になること)の打破」の対象になるのは、技術やプロセスだけではない。考え方も対象だ。メインフレームとメインフレーム以外のIT専門職が協力し、お互いから学び、共同でイノベーションを進めるように促すことで、スキルギャップを埋めるとともに、多様な技術や形態が共存するシステムの可能性を引き出せるようになる。

メインフレームはリスクではなくチャンス

 私はストウェル氏との対話を通じて、すでに感じつつあったことを確信するに至った。メインフレームに関するスキルの議論をリスク管理の観点から捉えるのは、望遠鏡を逆さまにのぞき込むのと似ている。反転させて、逆側に目を当てると、チャンスが明確に見えてくるということだ。

 「新たな人材の投入、プロセスの簡略化、オープンソースツールの導入、AI技術と自動化の活用は、スキルギャップを解消し、メインフレームのビジネスへの貢献を加速させる」。ストウェル氏はそう述べる。これこそが、メインフレームに関するスキルへの投資を正当化する真の根拠なのだ。

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