米Facebookが主導する、データセンターのハードウェア設計をオープンソース化するプロジェクト「Open Compute Project」。一部の専門家は、同社がプロジェクトを牛耳ることを警戒している。その理由とは?
オープンソースのアプローチは、ソフトウェア開発で大きな成功を収めてきた。その考え方をデータセンターハードウェアの開発に適用しようとしているプロジェクトが、「Open Compute Project」だ。非営利団体のOpen Compute Project Foundationが進めるこのプロジェクトでは、マザーボードや電源、サーバシャーシ、キャビネット、バッテリーエンクロージャの仕様開発と機械設計が行われている。この取り組みは、サーバコストを低減し、新しい大規模データセンターの展開を容易にする可能性がある(関連記事:Facebookの「Open Compute Project」は省エネデータセンターを実現するか?)。
Open Compute Projectは、ソーシャルネットワーキング大手の米Facebookが強力に後押ししている。同社は10億人のユーザーをサポートする世界最大級のデータセンターを構築していたとき、さまざまなベンダーのサーバコンポーネントを組み合わせるのに苦労したことがある。
「一部のユーザー、特に新しいソーシャルメディアクラウドサービスの先端を行く企業は、エンタープライズITのコンシューマライゼーションがなかなか進まないことに不満を感じている。彼らは、もっと自分たちの未来をコントロールしたいと考えている」と、米451 Researchの創業者で主席アナリストのジョン・アボット氏は語った。「何年か後には、GoogleやAmazon、Yahoo!、Facebookのような企業は巨大なインターネットデータセンターを構築する際、大抵は従来のサーバベンダーを介さずに、自前のサーバを用意するようになっているだろう」
Facebookは2011年4月にOpen Compute Projectを立ち上げ、自社のプロプライエタリなハードウェア仕様の一部を同プロジェクトに寄贈するとともに、ベンダーや大企業に同プロジェクトへの協力を呼び掛けた。
同年10月には、同プロジェクトの推進組織としてOpen Compute Project Foundationが発足した。Facebookのハードウェア設計およびサプライチェーン担当副社長のフランク・フランコスキー氏が、この団体の理事会の会長兼議長を務めている。
Open Compute Projectの目標は、データセンターハードウェアの設計をオープンソース化することで、これらのハードウェアのコストを下げ、効率を高めることにある。Open Compute Project Foundationは、この取り組みが多くの企業に役立つと考えている。同プロジェクトのデータセンター構築アプローチでは、一般的なアプローチと比べて、データセンターの構築および運用の効率が38%向上し、コストが24%削減されるとしている。
Open Compute Projectでは、5つの分野の仕様などが開発されている。「Open Rack」仕様では、巨大データセンター環境に対応したラック設計の新しい規格が規定されている。ストレージ仕様の「Open Vault」では、モジュラーI/Oトポロジが採用されている。電源では、「700W-SH AC/DCパワーコンバーター」の仕様が開発されている。このパワーコンバーターは、12.5Vの単一電圧DC電源(クローズドフレーム、自冷型)だ。バッテリーキャビネットでは、48V DCのバックアップ電力を一対のトリプレットラックに提供するスタンドアロンキャビネットの仕様が開発されている。ハードウェア管理の仕様には、技術者が仮想マシンをリモート管理するためのツールの小規模なセットが含まれている。
これらの取り組みの多くはまだ初期の段階にある。最も開発が進んでいるOpen Rack仕様は、2011年12月に発表され、2012年9月にv1.0仕様が公開された。この仕様では、サーバラックの配電と冷却の基本設計などが定められている。ラックのサーバシャーシ幅が537mm(約21インチ)とされており、従来のデータセンターハードウェアの標準だった19インチよりも広い。このフォームファクターは、熱管理を向上させるためのスペースを増やすとともに、電源とケーブルの接続を改善するように設計されている。
Open Rack仕様における1つの重要なイノベーションとして、配電に関するものがある。すなわち、電源設置用の電源シェルフが設けられており、電源をサーバトレイに置かないようになっている。Open Rack v1.0仕様は時間とともに進化し、ラックレベルの電力キャッピングやバックプレーン上でのI/Oといった機能が統合される見通しだ。
Open Compute Projectは開始以来、他の面でも前進している。プロジェクトメンバーがさまざまな標準仕様の開発について議論するサミットが、これまでに3回開催されている。また、多くの大手ベンダーがメンバーに加わっており、その中には米AMD、台湾ASUSTeK Computer、米Dell、米Hewlett-Packard(HP)、米Intel、米Red Hat、米Salesforce.com、米VMwareなどが含まれる。
しかし、Open Compute Projectは多くの課題も抱えている。仕様の開発は、製品の相互運用性を確保するための1つのステップにすぎない。現在、適合性テストスイートの作成という難題への取り組みは行われていない。このため、このプロジェクトの仕様に対応する複数ベンダーの機器を企業が組み合わせて運用することが、どのくらいの難易度なのかは不明だ。
一部の専門家は、Open Compute Projectは、Facebookのための取り組みになりかねないと考えており、同社が牛耳ることを警戒している。「Open Compute Projectでは、1社主導ではない共同運営体制が志向されてきた」と、AMDでクラウドのテクニカルエバンジェリストとサーバプラットフォームアーキテクチャ担当のフェローを兼務するボブ・オグレー氏は語った。
しかし、Open Compute Projectのアプローチは、全てのデータセンターに適合するわけではない。「Open Compute Projectの標準仕様は、クラウドコンピューティングのような技術をサポートするために一から構築される新しいデータセンターに的を絞っている」とオグレー氏。「これらの仕様は、データセンターを新たに構築する企業には非常に役立つが、大規模データセンターに既に投資している企業にとってはあまり有効ではない」
実際、Open Compute Project Foundationは、企業がデータセンター機器の監視に利用している管理機能の多くを仕様から省いている。そのため、それらの機能を利用している企業は、Open Compute Projectの仕様に基づく製品を使う場合、新しい管理ツールおよびプロセスを導入する必要があるかもしれない。
こうした中、一部のプロジェクトメンバーが、従来の仕様開発から派生した取り組みを進めている。米Fidelity Investmentsと米Goldman Sachsが、金融サービス業界向けの標準仕様を策定しているのである。こうした動きが広がれば、全てのデータセンターに使える汎用性の高い標準仕様群が整備されるのではなく、それぞれ異なる業界をターゲットとした、一貫性のない仕様群が乱立する恐れもある。
「Apache Software Foundationの活動のこれまでの展開から見て、OCP(Open Compute Project)もいずれはハイレベルのフレームワークとなり、その下で一連の関連プロジェクトが行われるようになるかもしれない」と、451 Researchのアボット氏は指摘した。
そうなれば、ベンダーは、オープンソースの取り組みから得られることが多い規模の経済を享受できないことになる。Open Compute Projectに基づく製品の価格は高くなる可能性があり、このプロジェクトの成果は広く受け入れられることなく、ニッチな市場しか獲得できないこともあり得る。
Open Compute Projectにはもう1つの限界があるかもしれない。このプロジェクトは、大企業において明白な問題の軽減を目的としているが、プロジェクトの成果は、中小企業が採用して展開するには複雑過ぎる可能性があることだ。「従来、カスタムハードウェアを使うには、多くのスキルやノウハウが必要で、それらが社内で足りない場合は、ベンダーやそのチャネルパートナーのサポートサービスで提供されてきた」とアボット氏。今のところ、ベンダーもチャネルパートナーも、こうしたサポートを提供できないという。
以上をまとめると、Open Compute Projectは、支持を広げているようであり、新しい大規模データセンターの設計にインパクトを与えそうだ。しかし、現時点では、その影響がデータセンター市場の他のセグメントに波及するかどうかは不明だ。
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