「Apple Watch」「Google Glass」を何に使う?
キラキラした未来が見えてこないウェアラブル端末、用途はかなり限定的になる?
ウェアラブルコンピューティングでは、USBスティックほどの小さなデバイスを使って、リアルタイムに処理されるデータを収集できる。だが、ウェアラブル端末の大半は単一用途だ。
故スティーブ・ジョブズ氏がコンテンツ消費用のデバイスとして「iPad」を発表した当時、同氏がまた1つ新たなトレンドを生み出しているとは、誰も思いもしなかった。そのトレンドとは、われわれが今や慣れ親しんでいる片手で持てるハンドヘルド端末やモバイル端末のトレンドではなく、コンピュータの単一用途化の流れだ。iPadが登場する以前、コンピューティングデバイスはデータや情報へのアクセスと入力に使われる多目的な機器だった。今ではメインフレームからハンドヘルド端末、タブレット端末まで、あらゆるデバイスで、メールやERP、CRMなど、各種アプリケーションへのアクセスやデータ入力が可能だ。
もっとも、いくらiPadに仮想キーボードが搭載されているとはいえ、「トルストイがiPadを使ってワールドカップの得点を確認することはあったとしても、iPadで『戦争と平和』を執筆したりはしないであろう」と考える人は多い。コンピューティングデバイスは多かれ少なかれ、“情報を消費する”ためにある。
ウェアラブルコンピューティングはこの傾向をさらに推し進める。ウェアラブル端末では手作業でのデータ入力が必須でないばかりか(端末が周囲のデータをひそかに読み込むため)、多目的であるかのように装う端末もほとんどない。腕時計型端末の中には、メールを読んだり、その他の各種アプリにアクセスしたりできるものもある。だがデータを本格的に入力したいのであれば、恐らくユーザーは同じくBluetooth経由でネットワークに接続された小型デバイスでその作業を行うだろう。
現行のウェアラブル端末には、単一用途あるいは限定的用途のアプリが多い。コンテンツ消費デバイスについてはジョブス氏の見立てが正しかったとして、ウェアラブル端末に関しては、その肝はユーザーの身元確認にあるといえるかもしれない。幾つかの例を以下に示す。
- ユーザーの個人情報や身元確認というテーマで、ウェアラブル端末は健康情報追跡の分野に参入しつつある。米Fitbitなどが提供するウェアラブル端末は、消費カロリーや睡眠など、各種の情報を教えてくれる。ただし本格的な健康情報の管理には、ウェットケミカル(液体化学薬品)や血液採取が必要となる。今のところ、そうした機能は限られている。
- 常にオンラインに接続されているウェアラブル端末は、ユーザーの周囲のエコシステムに対し、「ユーザーの身元」や「ユーザーが必要としているかもしれないこと」についての注意を喚起できる。すなわち、優れたCRMとしての能力だ。この特性は、顧客のリテンション率を高めるためのマーケティングに大いに役立つ。目下のサンプルとしては、カジノが顧客の行動をモニターし、顧客のニーズを予想して、商品やサービスや特典などを顧客本人が思い付くよりも先に提供する事例がある。もっとも、このモデルケースは大半の小売りの現場に当てはまる。例えば、アイスクリーム店であれば、暑い日には、以前に来店したことのある客や地元の人たち、その店のサービス会員に何かしら働き掛けることができる。もっと実務的な用途としては、IDカードを読み取り機に通さずともビルに入館できるといったセキュリティ関連の事例も考えられる。
- 同様に、その場の状況を認識できる販売アプリを使って販売員の手首にデータをプッシュ送信すれば、ハンドヘルド端末(あるいは、よもやないとは思うがノートPC)をチェックする必要がなくなる。これにより、マーケティングと販売のより緊密な連携が促されることも期待できる。販売員は顧客への対応を続けたまま、重要なデータを入手できる。こうしたことは、高級志向の小売店においては非常に重要となる。まだ販売員が雇われていればの話ではあるが。
- Google Glassを使えば、ユーザーは自身の状況に応じた各種のコンテンツにアクセスし、目にするものを記録できる。こうしたメガネ型端末は極めて専門的な状況において有用だ。例えば実地作業を伴う業務において、図面や動画までをも作業者の目の前に表示できる。そのため、作業者は視線を他に移す必要がなく、作業に集中できる。外科手術のように滅菌環境が必要とされる場面においては、ハンズフリーのメリットはさらに拡大する。Google Glassは既にそうした分野に参入している。
ただし毎度のことながら、ウェアラブル端末を最善の形で活用するアプリは恐らくまだ考案されていない。その登場は、第1世代の端末でわれわれがどのような経験をするかにかかっている。この点において、ウェアラブル端末とハンドヘルド端末の間にはちょっとした対立もある。腕時計型端末でメールをチェックできるのであれば、果たしてハンドヘルド端末は必要だろうか、という疑問だ。もっと言えば、ハンドヘルド端末を持っているのなら、「はやりだから」という以外に本当にウェアラブル端末を必要とする理由はあるのだろうか、という疑問だ。
恐らくは、どちらの端末も必要だ。ウェアラブル端末は、ストレージやバッテリー持続時間、データ入力、ネットワーキングなどの点では機能が非常に制限されている。だが一方では、モーションセンシング(動作検知)などの強みもある。ウェアラブル端末と大きめの端末をペアにして、ダウンロードや広い画面スペースの確保、Wi-Fiレベルのブロードバンド接続には大きめの端末の方を利用するという流れも生まれている。ハンドヘルド端末は、ウェアラブル端末に取って代わられるのではなく、ユーザーが装着するあらゆるデバイスのハブ、つまり交通整理役として、各端末の機能を統合する可能性も考えられる。「モノのインターネット(Internet of Things)」の世界においては、ハンドヘルド端末がホーム監視システムをはじめとするさまざまなモノや、センサー駆動の各種の機器を全て統合することになるかもしれない。
現行のウェアラブル端末は恐らく、ユーザーの体内に埋め込まれる「インプランタブル」とでも呼ぶべき次世代端末の前座にすぎない。血液採取の必要性については前述したが、埋め込み型の医療機器は既に、糖尿病患者に対するペースメーカーやインスリンポンプ、がん患者に対する化学療法などの分野では存在している。こうした機器に新しい技術を少し追加するだけで、「比較的高度ではあるがデータ処理能力をもたないペースメーカー」を「今日のジェットエンジン並みの高性能デバイス」に変えられる可能性がある。こうしたデバイスは恐らく、外部へのアクセスにハンドヘルドを必要とするだろうが、それは問題ではない。
ムーアの法則によって、高速で安価な優れたウェアラブルコンピューティングが既に登場している。その用途さえ明確になれば、技術はすぐに追い付くはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[ファインディ株式会社] AI利用率だけでは説明できない成果 開発組織の競争力を生む「開発資本」とは? -
製品資料
[ニュータニックス・ジャパン合同会社] AI活用を成功へ導く、シンプルで費用対効果に優れたクラウド基盤とは? -
製品資料
[ニュータニックス・ジャパン合同会社] マネージドKubernetesには限界も――メリットをフル活用する新たな選択肢とは? -
技術文書・技術解説
[ニュータニックス・ジャパン合同会社] 決断の日が迫る「vSphere 8」サポート終了問題 考慮すべきリスクと選択肢は? -
製品資料
[サイバーソリューションズ株式会社] メール誤送信対策のルールが肥大化 苦しむ情シスはどうすれば救われるのか?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
「アップグレードできないJava」をどう守る IBMとRed HatがAIで400件超修正
-
3
「恥を知るべきだ」 AIデータセンター反対運動を招いた事業者の秘密主義
-
4
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
5
データベースはもう止めないよ、絶対に──無停止を実現する“手軽な”技術の全て
-
6
【お知らせ】教育機関のIT製品導入に関するアンケート調査
-
7
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
8
AWSとGoogleクラウドのSSD性能を比較、コスパで選ぶなら?
-
9
Copilot導入で陥る“目的化”の落とし穴 定着の鍵は「作り込まない」こと
-
10
Salesforce導入直後に陥る“運用崩壊” エレコムが選んだ「第3の道」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
4
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
8
Linux初心者でも知らないとまずい「RHEL」「SLES」の違いとは?
-
9
東大教授と考える、AI時代の「データ主権」「信頼性」「ガバナンス」の在り方
-
10
マンガで学ぶXDR/MDRのメリット、中小企業のセキュリティ強化になぜ有効か?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー