怖いのはロックインよりも現状維持
“変化こそ全て”――協和発酵キリンがクラウド+「EVO:RAIL」を選んだ理由(1/2 ページ)
AWSのアーリーアダプターとして有名な協和発酵キリン。同社は文字通り“クラウドファースト”を実践している企業だ。ところが、ここへ来てハイパーコンバージドの新製品「EVO:RAIL」を導入した。その理由とは?
協和発酵キリンの「Amazon Web Services」(AWS)導入事例はクラウド活用における先進的なユースケースとして知られている。2013年に本番運用をスタートして以来、社内システムの多くをAWSに移行中の同社だが、その一方で2015年4月には、VMwareのハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品である「VMware EVO:RAIL」(EVO:RAIL)を導入している。全社を挙げてオールクラウド化を進めていたように見える協和発酵キリンが、なぜハイパーコンバージドインフラのアプライアンス購入に踏み切ったのか。本稿では協和発酵キリン 情報システム部長 篠田敏幸氏へのインタビューを基に、クラウド時代における企業のインフラ選択の在り方を考察してみたい。
「CSV」――製薬業界のクラウド化を阻む特殊事情
EVO:RAIL導入の話の前に、協和発酵キリンが現時点でどの程度のクラウド化を進めているかについて触れておきたい。篠田氏によれば「全システムの40%をAWSへ移行済み。あと3、4年で移行は完了すると見ている。現在、AWSに支払っている額は毎月6万ドル(日本円で約720万円)程度。コスト削減という意味ではかなり貢献していると実感している」という。同社がAWSの本番稼働を開始した2013年は毎月6000ドルほどの使用料金だったが、その額が10倍になっても「インフラ運用にかかる費用を安く抑えられている」(篠田氏)と断言できるほど、効果を実感できていることがうかがえる。
協和発酵キリンは現在、レガシーシステムの更新に合わせて徐々にクラウドに切り替える方針を取っており、新システムを構築する際も基本的にはクラウドを採用する、俗に言う“クラウドファースト”の姿勢を貫いている。オンプレミスで構築したいという要望があっても「クラウドではダメな理由」を明確に提示させており、仮にオンプレミスとクラウドで費用がほぼ同等であれば、クラウドを採用するという徹底ぶりだ。
それほどまでにクラウドへの移行にこだわっている協和発酵キリンがなぜEVO:RAILというアプライアンスを購入したのだろうか。篠田氏は「製薬業界ならではの特殊事情をクラウドではまだカバーできない部分があったため」と説明している。その特殊事情とは「CSV(Computerized System Validation:コンピュータ化システムバリデーション)」のことを指す。
製薬業界では研究開発や製造においてITシステムが重要な役割を果たす。その一方で、以前は紙で行われていたオペレーションがITに取って代わられるようになると、「意図した通りに動かない」「以前とは違う動きをする」といったトラブルが発生する可能性がある。人間の生命や健康に大きな影響を及ぼす医薬品であれば、その製造過程に少しでも間違いがあってはならない。そこでITに起因するトラブルを回避するため、医薬品の研究、開発、製造、品質保証というライフサイクル全般にわたり、使用されるITシステムは全てが正しく開発・導入・運用されていることを証拠として文書に残すことが法律で義務付けられるようになった。この検証・文書化への取り組みがCSVである。なお、“Computerized System”にはコンピュータシステムだけではなく、コンピュータにまつわる業務プロセスも含まれている。
製薬業界にとってCSV対応は非常にコストと労力が掛かる分野である。そのため、この分野に特化したシステムインテグレーター(SIer)やパッケージソフトベンダーが、CSVに必要なソフトウェアのバリデーション(製造手順などの検証・文書化)を実施するケースが多い。実は製薬業界においてCSVはコストや労力の観点から最もクラウド化が望まれているサービスなのだが、その対応は非常に遅れており、ほとんどの製薬企業がオンプレミスで稼働させている状態だ。協和発酵キリンはクラウドでのCSV対応を順次行ってきているが、あるシステムの更改が迫ったとき、パッケージソフトのベンダーから「クラウドではバリデーションの動作を保証できない」と言われたという。篠田氏は「個人的には今でもCSVをクラウドで保証できないはずはないと思っている」と前置きした上で、「分析系のシステムだから現時点で検証結果を出すのは難しいというのは理解できる。だが1、2年後に同じ理由は通らないだろう」とコメントしている。人の命に大きく関与する業界である以上、パッケージソフトのCSVには慎重さが求められるが、医薬品の研究開発や製造という本来の業務にフォーカスするために、クラウド環境におけるCSVの実施は今後避けて通れない課題になるだろう。
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