【技術動向】パッケージと自社開発の利点を生かすSOA型ERPの魅力現場ニーズに応えながら開発のリスクを下げる

開発のリスク要因となるアドオン開発を少なくしながら、現場のニーズに応えるにはどうすればいいのか。その答えの1つがSOAに対応したERPパッケージの利用だ。

2012年09月28日 08時00分 公開
[岡部志保,ビーブレイクシステムズ]

 ERPパッケージでは標準にない機能を追加する場合、追加プログラムであるアドオンを開発することが多い。これによって自社の業務プロセスに合致したERPを構築できる。しかし、アドオン開発はコストが増大したり、他のシステムとの連携が難しくなる、ERPパッケージをバージョンアップする際の検証に手間が掛かるなどのデメリットがある(参考記事:【技術動向】見えてきた、アドオン開発を抑えERPを早期導入する新技術)。

 だが、このようなデメリットを避けるために、現場の反発を振り切って、自社の業務プロセスを完全にERPパッケージの業務プロセスに合わせることは適切とはいえない。実際、ERP導入の失敗事例では、自社の効率的な業務プロセスをERPの業務プロセスに合わせたことで業務が回らなくなったり、導入したERPを有効に利用できないというケースが多く聞かれる。そのため、大半の企業は開発リスクを理解しながらも、自社の業務要件を満たすために慎重にアドオン開発を行ってきた。そのような企業に注目されているのが、SOA(サービス指向アーキテクチャ)に対応したERPパッケージだ。

SOAが注目された背景

 ERPパッケージは、自社の業務に合わせた開発が難しいという問題だけでなく、そもそも必要のない機能まで導入しなければならないことや、他システムとの連携性が低く既存のIT資産の有効活用が難しいといった課題もある。だがスクラッチで開発するよりも、安く早く全社統合システムを導入できるというメリットから、ERPパッケージは受け入れられてきた。

 しかし長引く不況の影響などにより、企業のIT予算は近年大きく削減されている。結果として多くの企業は使用しないERPパッケージの機能にまでコストを割くことができなくなった。そのためベンダーは、ERPパッケージ製品をサービス単位や機能単位で利用できるようにする新しい技術的な仕組みを用意するようになった。その際に利用されたのがSOAだ。この動きは2005年あたりから活発になり、現在では自社のニーズに合わせてサービスや機能を柔軟に選択し、自社に合ったシステムを開発できる環境をERPベンダーが提供している。

 またSOAは、ビジネスモデルの短命化や事業環境の急速な変化という企業を取り巻く市場の変化にも対応できるとして注目されている。市場の変化に対応するため、企業は自社の業務システムを迅速、柔軟に変更する必要があるからだ。

サービスを組み合わせるSOA

 SOAとは、大規模なコンピュータシステムを“サービス”の集まりとして構築するという概念または手法の1つだ。サービスがシステムを構築するための部品となり、その部品を組み合わせることでERPなどのシステムを構築できる。ERPパッケージのうち、自社の業務プロセスに合う機能はそのまま利用し、合わない場合は、他のERPのサービスや自社開発のサービスを組み合わせてシステムを独自開発し、ERPパッケージと連携させる。独自開発といってもサービスを組み合わせる形なので、スクラッチでプログラムを開発することに比べて、低コスト、短期間で開発できる。このような従来のERPパッケージの長所と、独自開発の長所を併せ持つSOA対応ERPパッケージが登場している。

 SOA対応ERPパッケージのもう1つのメリットは、既存のIT資産との連携性が高く、既存IT資産を有効活用できることだ。ERPパッケージの機能だけではなく、既存のIT資産もサービス化することで、ERPパッケージと容易に連携できるようになる。つまりERPパッケージの導入によって他の社内システムも含めて刷新するのではなく、古いシステムはサービス化することで残しながら、ERPパッケージと連携させることができるのだ。

 SOA対応ERPパッケージは、一括でERPを導入するビッグバン導入だけではなく、サービスや機能を段階的に追加していくスモールスタート型の導入にも適している。下の表はSOA対応ERPと従来のERP導入手法との比較だ。

ERP導入手法の比較
コスト 開発期間 機能 既存の業務プロセス 他システムとの連携
スクラッチ開発 高額 長期間 要件通り 変更なし 可能
ERPパッケージ 標準 短期間 標準機能を利用 変更する 困難(アドオンのインタフェース利用で容易に)
SOA対応ERPパッケージ 標準 段階的導入が可能 必要な機能やサービスから選択 変更なし 可能

 SOA対応のERPパッケージは海外製ERPベンダーを中心に提供されている。ユーザー企業にとっては低コスト、短期導入というERPパッケージのメリットを生かしながら、自社の業務プロセスに合わせたシステムを開発することができ、利点は大きい。

 一方で、ベンダーによって提供するサービスの粒度にバラつきがあり、システムの全体像を把握しにくいという指摘もある。このような課題を解決するため、SOAの技術を生かしながら、組み合わせるサービスの粒度を機能単位に統一したセミオーダー型のERPパッケージなども登場している。ユーザーの選択肢は広がっているといえるだろう。

岡部 志保(おかべ しほ)

株式会社ビーブレイクシステムズ 営業部 広報・営業推進チーム 

画像

大学卒業後、総合広告代理店にてIT関連メディアをはじめとした広告営業や広報PRに従事。その後、2007年にビーブレイクシステムズに入社。現在はプロジェクト管理に強みを持つERPパッケージ「MA-EYES」の製品ブランドの認知度向上や理解促進を最大化するべく積極的な広報活動を展開している。


ITmedia マーケティング新着記事

news141.jpg

2度あることは3度あった GoogleのサードパーティーCookie廃止再延期にアドテク各社がコメント
Googleは2024年末までに完了する予定だったWebブラウザ「Chrome」でのサードパーティーCo...

news148.jpg

天候と位置情報を活用 ルグランとジオロジックが新たな広告サービスを共同開発
ルグランとジオロジックが新たな「天気連動型広告」を共同開発した。ルグランが気象デー...

news130.jpg

“AI美女”を広告に起用しない ユニリーバ「Dove」はなぜそう決めたのか
Unilever傘下の美容ケアブランド「Dove」は、「Real Beauty」の20周年を機に、生成AIツー...