52製品のライセンス、ハード、サービスを調査
【コスト分析】ERP初期導入時の標準的なコスト割合とは?
ERPの導入コストを構成するライセンス、ハードウェア、サービス。市場に出回っているERPではこの割合はどうなっているのか。標準的な割合を知ることでERPを導入する際の参考にできる。
何となく「高い」というイメージがあるERP。しかし、そのコストを詳細に把握している人は少ない。本企画では国内ERP市場における主要製品について、初期導入時の標準的なコストモデルの分析を行い、その特徴を述べる。コストモデルは、大企業向け、中堅・中小企業向けなど、企業規模などに応じて、幾つかのシナリオで設定する。標準的なコストモデルを活用すれば、ERPの企画、導入、構築の各工程でプロジェクトを計画的に進めることができる。
ERPパッケージのコストモデルの考え方
ERPパッケージについての問い合わせで最も多いのは、市場性(シェアや導入実績)、機能(特徴や適合性)、導入事例、導入コスト(初期導入費用、保守費用)である。特に、導入費用についての関心は高く、自社で初期導入する場合にどれくらいの費用を見込む必要があるかを確認したいとの要望が非常に多い。パッケージの導入費用は、アプリケーション、ミドルウェア、データ分析などの用途によっても異なり、それぞれの製品のライセンス体系、機能要件/非機能要件などで異なってくる。特にアプリケーションパッケージは機能要件の適合度によりコスト変動が大きい製品である。そのため、正確な導入費用については、ベンダーに対してRFP(提案依頼書)を発行して提案・見積もりを取得する必要があることは言うまでもないが、その妥当性を評価するのも簡単ではない。
また、詳細要件をミクロに分析して積み上げたコストモデルを検討することは、実際のパッケージ導入の前に、さらに事前導入を実施するのに近い時間と労力が必要となり、現実的には不可能といってよい。また、仮にそのようなミクロのアプローチが実施できたとしても、さまざまな機能要件/非機能要件が多数の変動要因となり、調整が困難であることは容易に想像できる。このようなミクロ方向での検討が難しい場合は、逆にマクロなコストモデルで概要レベルの検討をする方が、個々の詳細な要件を積み上げる際のブレを大枠で吸収でき、実際の導入費用に近いコストを把握できることもある。今回はこのアプローチでERPパッケージのコストモデルについて考察してみることにする。
初期導入時の標準的モデルについて
アイ・ティ・アール(ITR)では、国内で市場性のあるさまざまな分野のパッケージやサービスについて「ITR Market View」で継続的に調査しており、どの分野の製品でも標準的なコストモデルを、「初期導入時の平均モデル」としてベンダープロファイルの資料に含めている。ERPパッケージを対象にしている最新の「ITR Market View:ERP市場2012」から、その調査内容例を確認してみる(表1)。
| 導入コスト | 約2000万円が比較的多い |
|---|---|
| 導入規模 | 50ユーザーが比較的多い |
| 導入期間 | 1~6カ月程度 |
| コスト内訳 | 金額(単位:百万円) | 構成比 |
|---|---|---|
| ライセンス | 7.0 | 35.0% |
| ハードウェア | 2.0 | 10.0% |
| サービス | 11.0 | 55.0% |
| 合計 | 20.0 | 100.0% |
| 表1.初期導入時の平均モデル(特定製品の記載例、出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2012」) | ||
表1の上の表が文章での定性記述で、下の表が、ライセンス、ハードウェア、サービス(導入費用、コンサルティング費用、カスタマイズ費用、追加開発費用など)の割合だ。この割合はあくまで当該製品を導入する場合の最も標準的なモデル。同調査リポートでは全調査対象製品のうち、52のパッケージについてベンダーから回答を得ており、今回はこれらの52製品についてコストモデルを分析する。なお、SaaSについては、ライセンス、ハードウェア、サービスの合算がサービス費用となっているので、これら52製品には含めていない。同様に、SAP ERP、Oracleなどの大企業向け海外製品などは、コストモデルを公表しない方針のため対象外としている。このような製品については、ITRがこれまで実施してきたパッケージ選定などの実例をベースに、次回でモデルを提示する。
ERPのコスト比較についての記事
平均的導入費用の分析結果
始めに全52製品のコスト内訳を集計した結果を確認してみる(表2)。
| コスト内訳 | ライセンス | ハードウェア | サービス |
|---|---|---|---|
| 平均 | 38% | 13% | 49% |
| 最大 | 100% | 41% | 80% |
| 最小 | 10% | 0% | 0% |
| 中央値 | 33% | 11% | 55% |
| 中央値のライセンス比 | 1 | 0.3 | 1.7 |
| 表2.初期導入費用の構成比(全52製品、出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2012」のデータを基に作成) | |||
表2は表1の構成比を、全52製品の平均、最大、最小、中央値で集計した結果である。そして、ライセンスを1とした場合のハードウェアとサービスの比率を中央値(小さい順に並べたとき中央に位置する値)で算出している。
表2では、最大でライセンスが100%、最小でハードウェアが0%、サービスが0%と極端な割合も見られるが、これは中小企業向けのPC版パッケージなども対象としていることによる。そのため、平均におけるライセンス割合が38%と高めになっているものの、中央値ではあまり影響を受けていないと思われる。
また、全52製品の中には、会計のみ、人事・給与のみで導入されることが多いパッケージも含まれている。これら(23製品)を除外して、会計だけでなく販売、生産での実績も多い29製品を対象に集計した結果を表3に示す。表2に比べると、平均の値がわずかに異なるものの、中央値の値はライセンス比も同一である。
| コスト内訳 | ライセンス | ハードウェア | サービス |
|---|---|---|---|
| 平均 | 40% | 13% | 47% |
| 最大 | 100% | 41% | 80% |
| 最小 | 10% | 0% | 0% |
| 中央値 | 33% | 11% | 55% |
| 中央値のライセンス比 | 1 | 0.3 | 1.7 |
| 表3.初期導入費用の構成比(会計、販売、生産で実績のある29製品のみ、出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2012」のデータを基に作成) | |||
標準的なモデルはライセンス1に対してサービスが2~3
最後に、上述の中小企業向けPC版パッケージなどライセンス費用の割合が40%を超える10製品を表3から除外した、全19製品での集計結果を確認する(表4)。この結果が多くのプロジェクトで見られる標準的なERPのコストモデルといえる。
| コスト内訳 | ライセンス | ハードウェア | サービス |
|---|---|---|---|
| 平均 | 26% | 14% | 60% |
| 最大 | 38% | 41% | 80% |
| 最小 | 10% | 5% | 22% |
| 中央値 | 25% | 12% | 59% |
| 中央値のライセンス比 | 1 | 0.5 | 2.4 |
| 表4.初期導入費用の構成比(ライセンス費用割合が40%以下の19製品のみ、出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2012」のデータを基に作成) | |||
表4では、表3に比べて、平均、最大、最小、中央値の全ての値が変化しており、平均と中央値がほぼ近似した結果となった。さらに、中央値のライセンス比は、ライセンス1に対してハードウェアがその半分、サービスが2から3程度となっている。ITRは、ERPパッケージの製品選定や導入を数多く支援してきているが、ラインセス1に対してサービスが2から3程度であるとのコストモデルは、現実のプロジェクトにおける見積もり結果とおおむね合致し、標準的といってよい。
ただしこれは、あくまで中央値を基準としたライセンス比であることに注意されたい。実際には、表4の最大と最小で確認できる以下のような幅を持つ製品があることに注意しなければならない。
- ある中堅企業向け製品の標準的モデル:ライセンスが10%、ハードウェアが10%、サービスが80%。サービスがライセンスの8倍で、ライセンス対サービス比が最大
- ある中小企業向け製品の標準的モデル:ラインセスが37%、ハードウェアが41%、サービスが22%。サービスがライセンスの0.6倍にとどまり、ライセンス対サービス比が最小
最後に、さらに注意すべき点を補足する。このコストモデルは、パッケージの標準機能を極力利用する方針のプロジェクトの場合は合致するものの、大量のデータを短時間で処理し、長期間保存するといった性能要件が厳しいプロジェクトでは、ハードウェアの割合が高くなることもある。
また、現場入力や申請から承認のワークフロー、計画対実績の進捗・執行状況の確認を多数の従業員で実施する場合に、サーバライセンスやエンジンライセンスではなく、ユーザーライセンス体系のパッケージを導入すると、ユーザー数の増加によってライセンスの割合が上ブレする。そして、大企業向けのSAPやOracle製品のように、製品の機能が非常に幅広く深い場合は、サービスのコンサルティング費用の割合が高まる傾向にある。
いずれにしても、カスタマイズやアドオンなどの追加開発が多くなる場合は、サービスの占める割合が高くなることは共通している。標準的コストモデルを参考としながら、自社の状況に応じてプロジェクトをコントロールしていくことが重要となる。次回は、大企業向けERPのコストモデルについて検討する。
浅利浩一(あさり こういち)
株式会社アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト
国内製造業で、生産、販売、調達、物流、会計、人事・給与、製造現場/工程システムなど、エンタープライズ全領域のアプリケーション構築に携わる。SAPの設計・展開では、国内グループ企業向け共通システム、グローバル・システムの構築に携わるなど、幅広い業務分野での導入経験を持つ。2002年より現職。
現在は、ERPを中核としたエンタープライズ・アプリケーション全般、SCM、PLMを担当し、可視化からシステム化構想、製品選定、概要設計および導入支援などのプロジェクトを数多く手掛けている。また、グループ/グローバルにおけるシステムの設計・構築・展開などのコンサルティングに取り組んでいる。
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