口座と連動し自動で帳簿作成――会計ソフト「freee」は従来の会計ソフトにない先進的な機能を備える。クラウドベースで提供され、Macでも利用可能。中小企業や個人事業主に多い「会計ソフト難民」を救えるか。
2013年3月19日にリリースされたばかりの会計ソフトウェア「freee(フリー)」は、中小企業や個人事業主の経理業務に特化した機能を、クラウド形式で提供するサービスだ。サービスのリリースからまだ3カ月弱しかたっていないものの、既にユーザー数は3900以上、処理された仕訳の数も10万以上を数えるという。
中堅・中小企業や個人事業主向けのクラウド型会計サービスは、これまでも少数ながら存在していたが、そのほとんどは既存の会計パッケージ製品をそのままクラウド上に載せたものだった。その点freeeは、単にクラウドサービスとして機能を提供するだけでなく、会計ソフトウェアとしての機能にも、これまでにないユニークな特徴を幾つも盛り込んでいるという。
freeeの開発元であるCFOの代表取締役で、freeeの生みの親でもある佐々木 大輔氏は、中小企業や個人事業主にとって、従来の会計パッケージ製品はさまざまな面で使い勝手に課題があったと指摘する。
「従来の会計ソフトウェアを使った経理処理では、山のようにたまった請求書や領収書の内容を、1つ1つ手作業で入力する必要があった。これはとても面倒な作業だし、間違いが起こる元にもなっていた。また、これまでの会計ソフトウェアは、複式簿記の概念を理解していなければ使えないものがほとんどだった。この点も、中小企業や個人事業主にとってはハードルが高かった」
こうした課題を根本的に解決することを目指し、freeeはこれまでの会計ソフトウェアとは全く異なるコンセプトの下で開発されたという。例えば、これまで面倒だった請求書や領収書の内容の入力や、入出金の管理。freeeでは、ユーザーの銀行・クレジットカードのWeb口座とバックグラウンドで連携・同期し、入出金明細を自動的に取得することで、煩雑な手入力作業を大幅に軽減している。
また、そうして取得した個々の入出金の内容を、半自動で適切な勘定科目に振り分けてくれる。そのため、たとえ複式簿記の知識がなくとも、「収入」「支出」の切り口だけで簡単に仕訳を行うことができる。
具体的な操作イメージはこうだ。freeeの画面上には、自動取得された入出金明細の各項目が、一覧で表示される。実はこの時点で、個々の入出金には、既に勘定科目がそれぞれ割り当てられている。これは、入出金明細に付随する「取引内容」や「入出金先の名称」といった文字列情報に対して、freeeがテキスト解析を実行して、適切と思われる勘定科目を自動的に判別して設定したものだ。例えば「タクシー」という文字列が含まれていれば「旅費交通費」に、「トウキョウデンリョク」とあれば「水道光熱費」に、といった具合だ。
ただし、取引先の社名の文字列などは、さすがに自動判別できない。その場合は、ユーザーが手動で勘定科目を設定することになる。ただしfreeeには自動学習機能が付いており、一度ユーザーが手動で勘定科目を設定すれば、次回の入出金からは同じ文字列が検出された場合、自動的に前回と同じ勘定科目が設定されるようになっている。
こうして自動設定された勘定科目は、ユーザーが後から手動で変更できるようになっている。また、帳簿に載せたくないプライベートな入出金は、その場で除外することもできる。これらのチェック操作を一通り行えば、後はボタンをクリックするだけで自動的に入出金の仕訳が行われ、会計帳簿データベースに反映される。
さらには、これも中小企業や個人事業主にとっては面倒な「売掛管理」「買掛管理」を支援する機能も備わっている。例えば、売掛金を管理するための仕組みは次の通りだ。まずは、freee上で請求書を作成・発行する。すると、そこに記された日付や金額といった情報を基に、各請求書に対応すると思われる入金を自動判別し、提示してくれる。また、未入金の請求書の一覧を表示する機能もあるため、個々の請求書や入金明細を手作業でいちいち照合することなく、最小限の手間で売掛管理を行えるというわけだ。
こうしてfreeeの上で行われた仕訳の結果は、会計帳簿データベースに自動的にまとめられ、これを基に青色申告や会社法に対応した決算書を出力できる。また決算書だけでなく、簡単な経営リポートを出力する機能も備える。例えば、収入や売り掛けの状況を取引先別にグラフ表示させたり、あるいは支出のリポートを勘定科目ごとに表示させたりといったことが可能だ。
このように、国産の会計ソフトウェアとしてはこれまであまり例を見ない、ユニークなユーザビリティを備えるfreeeだが、もう1つの大きな特徴が、ソフトウェアの機能がクラウドサービスとして提供されるという点だ。佐々木氏によればこの点も、中小企業や個人事業主にとっての使い勝手を考慮した結果だという。
「これまで、ほとんどの会計ソフトウェアは、Windows PC上でしか使えなかった。Mac PC上で使える会計ソフトウェアがない状況を指して、『会計ソフト難民』と呼ぶこともあるぐらい。しかし最近のスモールビジネスの経営者の中には、Macやスマートデバイスを使って仕事をする人も増えてきた。そこで、ソフトウェアの機能をさまざまなデバイス上で使えるようにするには、クラウドという提供形態が最も適していると考えた」
同氏によれば、日本は海外と比べて中小企業のクラウドサービス利用率が極めて低いという。事実、総務省が行った調査(平成24年度 情報通信白書)によれば、米国の中小企業のクラウドサービス利用率が54%なのに対して、日本はわずか17%にとどまっている。また佐々木氏は、クラウドサービスの普及率は「起業のしやすさ」とも相関があるのではないかと述べる。
「世界銀行が行った調査(Doing Business 2013 - Starting Business)によれば、『起業のしやすさ』の国別ランキングにおいて、日本は114位に甘んじている。ちなみに1位はニュージーランドだが、同国では現在、クラウド会計ソフトの先駆けとも言える製品『xero』が大きな注目を集めている。こうしたことも、同国の企業のしやすさと関係しているのではないか」
過不足のないシステム機能を、低コストかつ迅速に調達できるというクラウドの特徴は、本来は中小企業にとって大きなメリットになるはずだ。しかし日本においては、こうしたメリットをうまく生かしたクラウドサービスがこれまでほとんど存在しなかったと佐々木氏は言う。
「クラウドならではのメリットを生かして、中小企業や個人事業主がより創造的な仕事に専念できる環境を提供することを目指して、freeeを開発した。クラウドの使いやすさと仕訳の自動化によって経理業務の負荷を大幅に軽減し、中小企業や個人事業主の働き方を変えるきっかけにしてもらえればと考えている」
freeeのサービス提供開始以来、CFOにはユーザーからさまざまなフィードバックが寄せられているという。リリース直後には、一時的にパフォーマンスが低下する問題も発生したが、ユーザーからのフィードバックを受けて即座に対処できたという。
「このように、ユーザーの声をすぐにサービスに反映できるのは、われわれのようなベンチャー企業ならではの強みだと思う。フィードバックを寄せてもらったユーザーからも、『一緒になってサービスを作り上げている感じがする』という反応をいただいている」
また、freee独自の仕訳自動化の機能に関しては、好意的なフィードバックが多く寄せられているという。
ただし佐々木氏によれば、freeeの機能は現状にとどまることなく、今後も追加機能を順次リリースしていきながら進化を続けていくという。
「請求書をベースにした収入管理だけでなく、将来的にはEコマースのプラットフォームやPOSレジと連携して、入出金を管理できる機能を搭載することを検討したい。また、現金での支出をfreeeで簡単に管理できるように、モバイル端末用の家計簿アプリなどとも連携できるようにしたいと考えている」
また、こうしたさまざまな連携ソリューションを実現する上では、API連携が鍵を握ると同氏は言う。
「これまでの会計ソフトウェアには、APIによるシステム連携が簡単にできないという欠点があった。freeeはそうした点を踏まえ、API連携が容易にできるオープンなクラウドプラットフォームを目指したいと考えている」
freeeは、2013年7月末までは無料でサービスが利用可能となっている。同年8月以降は有料サービスとなり、青色申告用の決算書に対応した「個人事業主プラン」が月額980円、会社法に基づく決算書が作成できる「法人プラン」は月額1980円で利用可能となる。データ保存期間が限られる「無料プラン」もある。
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