今、ハニーポットなどで収集した情報をセキュリティ対策に積極的に活用するディセプション(欺瞞)技術が注目されている。その概要と展開に際しての注意点を紹介する。
企業の経営は容易なことではない。経営者は、日々さまざまなリスクに直面する。しかし、サイバー犯罪が懸案事項の筆頭に挙げられることは多くないかもしれない。それどころか、全く見過ごされている可能性すらある。サイバー犯罪者は、収益性の高いビジネスデータを盗もうと、絶えず企業を狙っているというのに。
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サイバー犯罪に関する統計は、企業が非常に厳しい状況に置かれていることを示している。英国政府がまとめた、サイバーセキュリティの侵害に関する最新の調査結果によると、2017年の1年間だけで英国企業10社のうち7社近くが、サイバーセキュリティの侵害や攻撃を受けている。企業が受けた被害額の平均は2万ポンド(約305万円)だが、極端な例では被害額が数百万ポンドにまで及んでいる。
また、サイバー犯罪が発生した場合の対応も容易ではない。サイバー犯罪者は常に、企業のITシステムのセキュリティを破る手段を次から次へと編み出しており、かなりの確率で攻撃を成功させている。
また、サイバーセキュリティ市場はあまり統制が取れておらず、多数の企業がそれぞれのアイデアに従って製品を発売している段階であるという課題もある。その結果、重要な意思決定を下す立場の人間は、効果的な対策を打ち出すという複雑な作業を進めざるを得ない状況に置かれている。
そこで、企業のサイバー犯罪対策として急激に注目されている新たなアプローチが、「詐欺によって詐欺を制す」セキュリティだ。これは、“わな”となる偽のオンライン環境を構築し、サイバー犯罪者をそこへおびき寄せるというものだ。
一般的に「ホットスポット」と呼ばれている手法で、このセキュリティ方式を使ってサイバー攻撃の実行犯を突き止め、被害の拡大を防ぐことに成功した企業が続々と報告されている。
こうしたアプローチは時折、企業のデジタル基盤の一部に見えるデータを軸として展開されるが、実はこの点に落とし穴が隠されている。この方式のサイバーセキュリティ管理は、どれほどの効果を挙げているのだろうか。
「ディセプション(訳注)技術」に関心を寄せる企業は増えている。これが使えれば、サイバー犯罪者を比較的安全で管理もしやすい環境におびき寄せることができるからだ。とはいえ、企業が詐欺行為を働きそれが間違いを引き起こすというシナリオは、あってはならない。
訳注:deception。欺瞞(ぎまん)、欺く、だます。
仮想化企業Bromiumのシニアマネジャー、サイモン・プラント氏はこの手法について、企業にシークレットエージェントのような活動を許すものだと指摘する。
「検出の仕掛けも回避するような高度な攻撃を受け続けているため、社内システムを秘密裏に時間をかけて少しずつ(別環境に)移行させるという状況を想像してほしい。ジェームズ・ボンド、007のようなシークレットエージェントとなり、ブービートラップ(わな)を仕掛けて悪者を捕らえる。しかもそれを全て、分離した安全な環境の中で実行できると想像してほしい。これを実現するのが『ディセプション技術』だ」と同氏は本誌Computer Weeklyに説明する。
「だからこのテクノロジーはにわかに、企業の間で『必須』のものと考えられるようになった。調査会社Gartnerは、2018年までに10%の企業がディセプションツールや戦術を導入し、攻撃者に対して欺瞞作戦を積極的に仕掛けると予測している。ディセプション技術を導入すると、組織は隔離した仮想ハニートラップを構築し、偽の資格情報やドキュメントを攻撃者にわざと盗ませることができるようになる」と同氏は語る。
企業がわなを使ってサイバー犯罪者を捕らえることができれば、攻撃の種類やセキュリティ侵害が発生したときの状況を分析できる。「攻撃者は、貴重なデータが置かれているように見える環境へ偽のパンくずリストで誘導される。実はそこはハードウェア的に隔離された仮想マシンだ」と、同氏は続けて解説する。
「この環境から、攻撃が発生した場所や標的となったファイルやデータなど、対策につながる情報を収集し、調査できる。インテリジェンスを共有すれば、組織全体のセキュリティを向上させることができる」
サイバーセキュリティ企業Clearswiftでシニアバイスプレジデントを務めるガイ・バンカー氏は、企業をハッカーから保護することにそのキャリアの大半をささげてきた。同氏は、あらゆる規模の企業にサイバーセキュリティに関する助言を定期的に行っており、ディセプションによるセキュリティは、同社の顧客企業の間で人気が高まっているという。サイバー空間での「ディセプション」は、犯罪者の動機を理解するために重要だとバンカー氏は話す。
「サイバー攻撃対策は戦争のようなものだ。『敵』を知るための手段として、価値がありそうに見えるが実際はそうでもないものを意図的に攻撃させ、相手に手の内を明かしてもらうのがこの作戦の狙いだ」と同氏は話す。
「インターネットに公開された新規のサーバの情報が『探知』されるまで、数分しかかからない。そのような探知を実行する主体の中には、正当な権限を持つ組織も含まれている。また同時に、そのサーバを悪用する方法を探索している別の組織も存在する。そちらの組織は、どのようなアプリケーションが展開されているのか、パッチは適用されているか、サーバのアクセスと制御を奪う足掛かりとなる脆弱(ぜいじゃく)性があるかどうかという情報を調べようとする」
「サイバーセキュリティの研究者は、意図的に攻撃されるシステムを構築することには随分前から慣れている。一般的にハニーポットと呼ばれる手法だ。ただし、ハニーポットの中には特定の目的に使われるものもある。例えば、迷惑メール(スパム)の探索用のハニーポットは『スパムトラップ』という」と、同氏は続けて説明する。
企業において、ハニーポットはサイバーセキュリティ戦術としてかなり浸透しているが、少しでも本物らしくない様子がうかがえると、サイバー犯罪者はそれがわなであると簡単に見破るので注意が必要だとバンカー氏は指摘する。
「ハニーポット作戦を成功させる鍵は1つだ」
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