“脱Excel”か“活Excel”か
「Excel職人のこだわり」を暴走させない依頼の仕方とマネジメントのコツ
「Excel職人に任せれば、細かい指示をしなくても、いいツールを作ってくれる」という状態はうれしいものですが、属人化の問題もあります。依頼側が適切な要件定義をするには、どうすればよいのでしょうか。
Excelツールの製作依頼、どうしていますか
企業情報システムの根幹となる、基幹システムの導入やリプレースを実施する場合、まず計画を立案し、関係者へのヒアリング、要件定義、設計、開発、テスト、展開……と段階を踏み、関係者の合意を得ながら進めていきます。システムの規模が大きくなれば、関係部門、システムインテグレーターなど関係者の人数が増えていくので、円滑に計画を進めるためにプロジェクトを立ち上げることもあるでしょう。導入の障害となる要因をできるだけ排除し、失敗するリスクを最小限にすることが、その目的です。なぜなら基幹システムは、システム開発に必要な費用だけでなく、関係する従業員の工数、導入が不調に終わってしまった場合のリスクなど、企業に及ぼす影響が非常に大きいからです。
一方で「Microsoft Excel」(以下、Excel)ツールの製作となると様相が変わってきます。もちろん業務上必要なツールだから製作しているのですが、ツールの重要度、関係する部門、企業全体に及ぼす影響は、基幹システムとは比較になりません。大筋では基幹システムの場合と同様に、ヒアリング、要件定義、設計、開発、テスト、展開……と製作は進んでいきます。しかし依頼する側は、ヒアリングの段階では実現したいことを伝えたいだけ伝え、後はツールが完成するまで製作する側にほぼ一任することも珍しくはありません。
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Excel職人が暴走する原因とは
前述のように開発を一任する依頼側にとって、都度さまざまな確認をする製作担当者は「面倒な担当者」だと思われがちです。一方で依頼側の意図を酌みつつ、依頼側が気付いていなかった必要な機能までこだわって実装したツールを、ほとんど依頼側に確認することもなく完成させるExcel職人は、依頼側にとっては頼もしい存在となります。必然的に、Excel職人にExcelツールの製作依頼が集中することになります。
しかし、一見して依頼側がExcel職人を上手に使いこなしているようにもみえるこのような状況が続けば続くほど、Excel職人の暴走が水面下で進むことにつながる場合があります。「暴走」といっても、ずっと何事もなかったのに、突然Excel職人が異常な事をするわけではありません。Excel職人が、自分の製作したツールに職人的なこだわりを少しずつ反映した結果、Excel職人が製作したツールだけが、他の担当者が製作したツールと明らかに違う仕様になっていると周囲が気付いた時が「Excel職人が暴走した状態」なのです。
こうなってしまうと、Excel職人の製作したツールを本人以外がメンテナンスをするには、相当な時間がかかってしまいます。こだわりで製作された部分の知識やスキルを、他の担当者が身に付ける必要があるからです。
では、このような状況に陥ってしまう原因は、誰にあるのでしょうか。もちろん他の担当者の知識やスキルに配慮せず、自分のこだわりを優先してしまうExcel職人に責任が全くないとは言い切れません。ですが暴走に気付く前に、依頼側がExcel職人に注意をしていたわけでもありません。むしろExcel職人の仕事ぶりを評価していたのではないでしょうか。評価されていると感じたからこそ、Excel職人は自己のこだわりを少しずつツールに反映していったのです。つまり「Excel職人を上手に使いこなしている」と思っていた依頼側に、より大きな責任があるのです。
ただし、これは暴走だと気付いたからこそ言えることでもあります。Excel職人のこだわりといっても、こだわる部分もこだわり方も人それぞれです。個人の癖として許容範囲で収まっている場合もありますし、逆にこだわりが突き抜けてしまう場合もあります。以前は特にこだわりがあるようなそぶりがなかったとしても、ふとしたきっかけで急に何らかのこだわりをExcelのツール製作に反映するようになる可能性もあります。気付かなければ、それはそれで、Excel職人のこだわりは潜み続けることになります。
依頼側のマネジメントがExcel職人の暴走を防ぐ
さて、Excel職人が暴走する原因は分かりましたが、暴走を防ぐためにはどうすべきでしょうか。最初にすべきことは、依頼側および、Excelツールを開発するExcel職人が、それぞれ都合の良い環境に満足している状況を解消することです。「お互い信用し合っている」と言えば聞こえはいいかもしれませんが、依頼側がExcel職人に対してほとんど口を出さず、Excel職人側も口を出してこないからといって、自分のやり方で自由に製作している状況は、企業として望ましい状態ではないでしょう。依頼側もExcel職人も、もし自分が基幹システムの導入に関わることになれば、このような状況をそのまま放置はしないはずです。
もちろん基幹システムとExcelツールでは、企業に及ぼす影響には雲泥の差があります。従って基幹システムの場合と全く同じように対処する必要はありません。Excel職人が「自分のやり方で自由に製作してよい」と判断しないように、ポイントを押さえて管理すべきでしょう。ただし達成すべきゴールをお互いに認識・共有していなければ、管理はできません。そこでゴールをお互いに明確に設定するために、依頼側が要求定義と画面設計などの設計の一部を実施した上で、ツールの製作を依頼するとよいでしょう。要求定義や画面設計というとハードルが高いイメージを持つ方もいるかもしれませんが、製作するのはExcelのツールです。自分たちが使用するツールを使い慣れたExcelで製作してもらうわけですから、「Excelのシートにボタンを配置して、ボタンを押下すると、帳票シートに数字が反映される」くらいのことは、依頼側でもそれなりに明文化できるはずです。
このように依頼側が要求定義や画面設計にも関与することで、お互いにゴールを明確に共有できます。ゴールが明確になっていれば、Excel職人側もこだわりを発揮する自由度が減少し、ゴールに向かって開発を進められます。依頼側も自らが望む状態を理解しているため、管理ができるようになります。Excel職人の暴走を未然に防ぐためには、依頼側がいかにExcelツール開発のマネジメントをするかにかかっているのです。
このコラムについて
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。
このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介します。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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“脱Excel”か“活Excel”か
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」(以下、Excel)。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介していきます。
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