テレワークによって、ITエンジニアは生活費の安い地域に暮らしながら遠隔で働けるようになる。ただしこうした転居は、ITエンジニアに給与ダウンをもたらす可能性がある。それはなぜなのか。
転居はITエンジニアの給与に大きく影響する。ただし、これは「シリコンバレーに直行すべきだ」という意味ではない。クラウド関連技術を有したITエンジニア(以下、クラウドエンジニア)が転居する場合は、どの場所にあるオフィスで給与が上がっているのかに加え、生活費も考慮する必要がある。
キャリアを始めたばかりのクラウドエンジニアの場合、新興のIT産業集積地でチャンスを追求することもできる。人材採用サービスを手掛けるDiceは、同社が発表した2020年版のIT給与報告書に「新興のIT産業集積地ではITエンジニアの給与は上昇しているが、生活費は比較的安い」と記している。米国ではコロンバスやセントルイス、アトランタ、デンバーなどがこれに当てはまる。
在宅勤務などのテレワークの台頭は、特に生活費に関連して、給与に絡む幾つかの問題を生じさせた。エンジニア職の人材採用サービスを手掛けるHiredが発表した2020年版給与報告書「2020 State of Salaries Report」によると、ITエンジニアの53%が「テレワークの状態がずっと続くのであれば、生活費の安い都市に転居する可能性が大きい」と回答した。オフィスから離れて働くことになるのであれば、ITエンジニアが生活費の安い場所に転居することは理にかなう。
ただしモンタナ州の自宅で働く従業員に対して、企業がシリコンバレーと同じ給与を支払ってくれるとは限らない。
例えばFacebookは2030年までに従業員の半数をテレワークへ移行させる可能性があり、従業員の給与は居住地でかかる生活費に合わせて調整するという。同社の従業員がシリコンバレーにある本社を離れて、生活費の安い場所でのテレワークに切り替えた場合、その従業員は給与が下がる可能性がある。
ITエンジニアは、テレワークの状況に応じて給与が変わることを支持していない。Hiredの報告書によると、回答者のほとんどは、テレワークの従業員とオフィスで働く従業員の給与は同じにすべきだと考え、テレワークを理由とする恒久的な給与カットは受け入れない意向だ。
調査会社Gartnerのアナリストであるスコット・イングラー氏によると、企業がIT人材を採用する方法や給与を支払う方法は、テレワークで変わり始めている。企業は今、世界中の人材を雇用することに目を向けるようになっている。ポーランドのワルシャワやインドのチェンナイ、オーストラリアのメルボルン、ロシアのサンクトペテルブルク、メキシコのメキシコシティといったIT産業集積地で、新たな人材を見いだしている。テレワークは世界中のITエンジニアの雇用機会を増やす半面、競争を激化させる。「求職者は、国外にいる他の候補者と競うことになる」とイングラー氏は言う。
IT業界では2021年に、世界規模で賃金調整が起きる可能性があるとイングラー氏は予想する。テレワークや、テレワークとオフィス勤務を組み合わせるハイブリッドワークが給与モデルをどう変化させるのか。企業と求職者は正確に見極める必要がある。
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