「脱クラウド」「オンプレミス回帰」が国内で拡大する理由は IDC Japanに聞く「オンプレミス回帰」の国内動向【前編】

国内でもパブリッククラウドを活用していた企業の間で「脱クラウド」「オンプレミス回帰」の動きがある。具体的にどのような動きがあり、なぜ起きているのか、IDC Japanのアナリストに状況を聞いた。

2021年03月25日 05時00分 公開
[遠藤文康TechTargetジャパン]

 リソース共有型であるパブリッククラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)の利用が広がると同時に、パブリッククラウドからオンプレミスのインフラにシステムを移行させる「オンプレミス回帰」(または「脱クラウド」)への関心が高まっている。IDC Japanで企業向けインフラ市場を担当するシニアマーケットアナリスト、宝出幸久氏によれば、オンプレミス回帰の動きはパブリッククラウドへの移行が先行して進んだ米国だけではなく、国内でも同様の傾向が見られる。どのような傾向があるのか。具体的に話を聞いた。

 パブリッククラウドへのシステム移行は、企業の比較的ポジティブな意思決定として事例が頻繁に公開されている。一方でオンプレミス回帰の取り組みは表面化しにくい傾向がある。「いったんパブリッククラウドで運用開始したシステムをオンプレミスのインフラに戻した話は、ユーザー企業が大手を振って言いたい内容ではない」と宝出氏は話す。

画像 IDC Japanの宝出幸久氏

 オンプレミス回帰は必ずしもポジティブな意思決定とは見られないことが理由だ。いったんパブリッククラウドに移行したシステムを再びオンプレミスのインフラに戻したとすれば、パブリッククラウドへの移行当初には想定しなかった何らかの問題が引き金になった可能性が高い。この場合は新しいシステム運用環境への移行によるメリットよりも、デメリットの方が大きかったと捉えることができる。ただし宝出氏によれば、動きは目立たないものの実際にはかなりの割合の組織がオンプレミス回帰に前向きだという。

国内の脱クラウドの実態

 「パブリッククラウドからオンプレミスのインフラにシステムを移行するかどうかで、迷っている組織は多いはずだ」と宝出氏は強調する。2020年10月にIDC Japanが発行した「2020年 国内ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ利用動向調査」での、パブリッククラウドからオンプレミスのインフラへの移行傾向は図1に示す通りだ。移行実績ありは86.3%、2年以内の移行予定は88.9%で、パブリッククラウドを利用する企業の中では、オンプレミス回帰に関係のない組織の方が少数派だと言える。

画像 図1 パブリッククラウドからオンプレミスのインフラへの移行実績と2年以内の移行予定(出典:2020年 国内ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ利用動向調査<IDC #JPJ45139620、2020年9月発行>)

 「パブリッククラウドで開発だけをして、オンプレミスのインフラで本番稼働」という利用例もあり、まずはパブリッククラウドを試験的に利用したいと考える企業もあるだろう。それを踏まえた上で、パブリッククラウドからオンプレミスへのインフラの移行実績と移行予定がそれぞれ8割以上という上述の結果について「この水準の数字になっても不思議ではない」と宝出氏は話す。同氏によれば2019年の調査と比較すると、パブリッククラウドからオンプレミスのインフラに移行する計画を有する回答者は2020年に10ポイント上昇した。「傾向としては変わらないが、よりオンプレミス回帰への関心は高まった印象がある」(同氏)

 パブリッククラウドに対する企業の関心度合いはどうなっているのか。IDC Japanの調査では、パブリッククラウドでのシステム運用を優先する「パブリッククラウドファースト」を掲げる企業は23%と4分の1程度だ。全くパブリッククラウドを利用しない方針の企業はわずか2%にとどまっており、逆に言えばほぼ全ての組織がパブリッククラウドを何らかの形で利用する方針であることが分かる。これはオンプレミス回帰の傾向にも反映されており、部分的にオンプレミス回帰をして、パブリッククラウドでのシステム運用も残す例が少なくない。宝出氏によれば、パブリッククラウドで運用する全システムを完全にオンプレミスのインフラに移行する組織はごくわずかで、25%未満または25〜50%のシステムをオンプレミスに移行する組織が約半分を占める。

オンプレミス回帰を引き起こす問題

 大半の企業がパブリッククラウドの利用を前提にするにもかかわらず、オンプレミス回帰が起きている。この点で考えられる問題は、パブリッククラウドで運用するシステムやデータを、ユーザー企業が必ずしも適切に選択できていないことだ。宝出氏はパブリッククラウドでの問題点について、下記のような声がユーザー企業から上がっていると説明する。IDC Japanが調査したオンプレミス回帰の理由は図2の通りだ。

  • 実際にリソースをどれだけ使うのか、それによって従量課金のコストがどの程度になるのかを正確に把握することが難しく、想定とは異なるコストが発生する
  • ネットワークを増強しようとするとコストが高くついてしまう
  • オンプレミスのインフラのセキュリティ対策とは考え方が異なる
  • 自社のセキュリティの運用ポリシーにそぐわない
  • データを取り出す際のコストが高くつく
画像 図2 オンプレミス回帰の理由(出典:2020年 国内ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ利用動向調査<IDC #JPJ45139620、2020年9月発行>)

 パブリッククラウドは従量課金型であるため、想定外のコストが発生する可能性は避けられない。クラウドベンダーが提供するコスト試算ツールで、利用するインスタンス(仮想サーバ)やストレージに基づき、大まかなコストを算出することはできる。だがアクセス数やデータ転送量などを正確に予測することは難しく、請求書を見てようやく想定を超える料金が発生していたことに気付く場合もあるだろう。それが許容できない金額であれば、よりコストの想定がしやすいオンプレミスのインフラへの切り替えを検討することになる。

 宝出氏はオンプレミス回帰の背景にある問題の一つとして、人材面の要素も指摘する。「本来はパブリッククラウドで運用するスキルが必要だが、そこまでノウハウやスキルのレベルが達していない組織もあると考えられる」

 コストの仕組みも、セキュリティや可用性の確保の方法も、クラウドサービスはオンプレミスのインフラとは異なる。クラウドサービスの習熟度が低ければ、上記のような理由でオンプレミス回帰を検討しなければならない可能性があることには、注意が必要だ。


 後編はオンプレミス回帰で選択されている製品や、オンプレミスのインフラとパブリッククラウドの使い分けの視点を紹介する。

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