2009年12月24日 08時00分 UPDATE
特集/連載

SMBのためのSaaS利用術【最終回】モバイルやICカードも活用――ここまで来たSaaSの適用範囲

SaaS活用の範囲は業務システムだけとは限らない。モバイル環境や既存資産を生かせば訪問介護、入退室管理といった「社外活用」への道もおのずと開けてくるだろう。

[岩上由高,ノークリサーチ]

ネットワークやデバイスの進化がSaaS活用の場面を広げる

 本連載では5回にわたり、「業務システム特性」という観点から各業務分野におけるSaaS(Software as a Service)活用のポイントについて詳しく述べてきた。最終回となる今回は視点を少し広げ、社内で利用する業務システム以外でのSaaS活用の可能性について考えてみる。

 国内ブロードバンド普及率は、従業員20人未満の小規模企業で約80%、従業員20人〜300人の中小企業で約90%以上に達している。また、携帯電話の世帯普及率も高い水準(2008年度で90%以上)にあり、Suicaなどの電子マネーも多くの一般消費者が所持している。整備されたネットワークインフラと広く普及したデバイスを活用すれば、社内で利用する業務システムだけでなく、これまでアナログ的に処理されていたさまざまな業務においてもITを活用する道が開けてくる。

 具体例としては、

  • 訪問介護やビル警備などにおける携帯GPSを活用した業務の管理・支援
  • ICカードを使ったオフィスビルの入退出セキュリティの強化
  • おサイフケータイやICカードによる交通費精算業務の効率化

といったものが挙げられる。

 上記いずれの例も、業務効率改善やセキュリティ強化の面で効果が期待できる施策である。だが、ユーザー企業がこれらを導入するためには、ネットワークインフラだけでなく、サーバやアプリケーションといった多くのIT投資が必要となっていた。その結果、中堅・中小企業にとっては得られる効果と掛かるコストのバランスが取りづらく、なかなか導入に踏み込めない状況が続いていたのである。

 そこで登場するのがSaaSだ。ネットワークインフラとデバイスにSaaSを組み合わせることによって、社内に閉じた業務システムだけでは実現が難しかった業務効率改善やセキュリティ強化を、多額のIT投資を伴わずに実施できるようになってきている。先に挙げた3つの例を基に、こうした「社内業務システムにとどまらないSaaS」の具体例を以下で紹介しよう。

社内業務にとどまらないSaaSの具体例

社外実施業務の効率化と品質向上

 1つ目は、社外で実施される業務の効率化と品質向上を実現するものだ。具体例として、OKIネットワークスの「モビルカG」が挙げられる。これは警備員の業務管理を主な目的としたサービスだ。

 警備会社は多数の警備員を抱え、各地に散在するクライアント企業のビル警備がきちんと実施されているかどうかを管理しなければならない。そこで、モビルカGは警備員が個人で所有するGPS携帯とSaaS形態で利用可能な管理システムを組み合わせ、警備員1人1人を対象とした「業務の報告と指示」や「所在確認」を可能にしている。警備員の勤務時間中にはモビルカGの管理サーバがGPS携帯から送られる位置情報をチェックし、予定された時刻に警備がしかるべき場所で配置についているかどうかを確認する。もし場所が違っていた場合には管理サーバが警告を発し、必要に応じて警備員へメール連絡するなどの対処を取ることができる。

 このサービスを利用する警備会社は、自社の管理センター内にWebブラウザでインターネットにつながる環境さえあれば、ハードウェアやソフトウェアを新たに導入する必要はない。同様のサービスは警備会社だけでなく、訪問介護などといったフィールドワーク全般に応用が可能だ。普及が進んできたGPS携帯とSaaSをうまく組み合わせることで、リモートでの業務管理システムを手軽に実現できた例といえる。

図1 SaaSによる社外実施業務の効率化と品質向上の例

オフィスセキュリティ

 2つ目の例はオフィスセキュリティだ。入退出の際にICカードなどの提示を求めることで、オフィス内への部外者による侵入を防ぐといった対策が一般的である。一見すると、SaaSどころかITとも無縁なものと思われるかもしれない。この無関係とも思えるオフィスセキュリティとSaaSを結び付けた例が、日立ビルシステムの「ネットACS」だ。

 ICカードには、日立製作所が開発した超小型の無線ICチップ「ミューチップ」をシール状にし、既存の社員証に張り付けられるようにした「ミューチップシール」を用いる。つまり、別途ICカードを社員の人数分購入する必要はない。そして、入退出時のドアにはレンタルで利用できるセキュリティゲートを設置する。ゲートはインターネット経由で日立ビルシステムのカスタマーセンターと接続されており、ユーザー企業は管理業務すべてを任せることができる。手元のクライアントPCからブラウザを使って初期設定を行えば、後は必要に応じて履歴を閲覧する程度で運用が可能だ。

 こうしたサービスをSaaSと絡めて提供することで得られるメリットは、拠点が複数になった場合に顕著になってくる。社内へのサーバ設置が必要なソリューションの場合、複数拠点への展開段階で運用管理コストが上昇してしまいがちだ。しかしSaaSであれば、自社でサーバを持つ必要がなく、単一拠点/複数拠点に関係なくまったく同じような管理が可能となる。ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得するなどの理由で全社的に統一された物理セキュリティを実施したいが、拠点が複数あるために実施コストが高くなってしまうなどといった場合に適したソリューションといえる。

図2 SaaSによるオフィスセキュリティの例

バックオフィス業務改善

 3つ目の例は、バックオフィス業務の改善である。月々の交通費精算は、多くの社員が時間を費やす定型業務の1つ。一方、おサイフケータイやSuicaなどのICカードの普及によって、交通機関の支払い方法は大きく変化してきている。実際、携帯電話やICカードからデータを読み取ることで、交通費精算データを入力する作業の多くを自動化することも可能だ。この点に着目したのがSBIビジネスソリューションの「経費Bank ICカード連動サービス」である。

 もともと同社では、「経費Bank」というSaaS型経理サービスを提供しており、それにICカードからのデータ読み取り機能をオプションとして提供した形となっている。もちろん読み込んだデータは画面に一覧表示され、不要なデータを取り除いた形で交通費精算として申請することができるようになっている。ICカードリーダを各クライアントPCに設置する必要があるが、1個当たり2000〜3000円程度まで価格は下がってきている。交通費精算の自動化のためにサーバを導入するとなると二の足を踏んでしまいがちだが、月額のサービスとして手軽に利用できるのであれば検討する価値は出てくる。外出の多い営業部門などに集中的に導入すれば、十分な投資対効果を期待できるだろう。

図3 SaaSによるバックオフィス業務改善の例

SaaSによって既存の設備や機器を生かす

 これらのサービスに共通するのは「既存の設備や機器を活用している」という点である。

  • 警備員が所持するGPS携帯電話の活用
  • 既存の社員証にICチップを内蔵することでキーカード機能を付加
  • 社員が所持するおサイフケータイやSuicaなどのICカードの活用

 上記のように、業務に携わる個人が所持するものや既存で企業が持っている資産を生かすことで、企業の投資負担を下げている。自社所有のサーバで同様のことを実現しようとすると、社外からのアクセスを受け付ける必要が生じ、新たにセキュリティ面での対処が必要となってくる。インターネット経由の利用を前提としたSaaSが既存資産の活用にプラスに働いているわけだ。もちろん、いかなる場合においてもセキュリティに対する十分な配慮が必要であることは言うまでもない。

意外と身近にあるかもしれない業務特化のSaaS型サービス

 「モバイルSaaS」という言葉で表現されるSaaSの活用例では、本連載でこれまで述べてきたような既存の業務システムを携帯電話やスマートフォンで社外から利用可能にするものを指すことが多い(モバイルSaaSについては別記事を参照)。だが、上記の例にあるようにモバイルを活用したSaaSの適用範囲は、社内で利用している業務システムを単に社外に延長するだけにはとどまらない。むしろ、従来アナログ的に処理されていた業務が「ネットワークインフラ+既存の設備や機器+サービス」といった組み合わせによって、より少ない投資で改善できることの方が、モバイルとSaaSの融合による成果としては大きいだろう。

 この種のSaaS活用は、訪問介護やビル警備の例に見られるように、それぞれの業種向けに特化されて提供されているケースが少なくない。もしかすると、読者の業種向けにも既にこうした形でSaaSが提供されているかもしれない。SaaSというと「既存の業務アプリケーションをインターネット越しに利用するもの」と考えてしまいがちだが、今回例に挙げたようなサービスもSaaSの重要な適用範囲の1つなのである。既存の業務システムの枠内にとらわれず、「自社の業務を改善する手段は何か」という広い視点でSaaSをとらえることが肝要だ。最初から「SaaSか、それとも自社内運用か」という手段の選択をしてしまうのではなく、「自社の業務における課題は何か? それを解決するためには何が必要か?」という視点で対策を検討するといい。その先に初めて、具体的な手段の1つとしてSaaSが出てくるのだ。本連載がSaaSを検討されるユーザー企業の参考となれば幸いである。

<筆者紹介>

岩上由高

ノークリサーチ シニアアナリスト

ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。