IFRSをどう扱うかについては議論の方向性は見えなかったが、今後の判断のための材料は何となく見えてきた。
企業会計審議会の総会・企画調整部会合同会議が8月25日、金融庁で開催された。前回に引き続いて、IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)について委員がフリートークを展開。IFRSをどう扱うかについては議論の方向性は見えなかったが、今後の判断のための材料は何となく見えてきた。
冒頭で金融庁の自見庄三郎担当大臣が以下のようにあいさつした。
「企業会計は経済の基本。国際会計基準について審議するに当たっては、会計基準に関する技術的議論に限定することなく、より広く、会計基準が、非上場企業・中小企業も含めた多様な企業の経済活動や税法・会社法・各種業規制など周辺に存在する制度、金融・資本市場等に与える影響等をよく認識し、これらを整理した上で、体系的な道筋を示しながら、議論・検討を行うことが適切である」
次いで8月2日に企業開示課長に就任した栗田照久氏が事務局の案として「今後の議論・検討の進め方(案)」を説明した。この「進め方」は大臣の冒頭のあいさつとも一部で内容が重なるが、「現時点で検討が必要であると考えられる主要な項目」として11項目を挙げている。
この11項目は「日本版ワークプラン」(臨時委員の佐藤行弘氏・三菱電機常任顧問)と見ることもできるが、あまりに広範囲なために、項目の優先順位や検討のタイムテーブルを明確にすべきとの意見が委員から出された。
その後の議論では主にIFRS適用のロードマップをまとめた2009年の中間報告をどうとらえるか、そして国際的な情勢をどう考えるかなどについて議論された。中間報告については、佐藤氏が「(中間報告が示した)連結先行の考えは国家として本質的な会計の議論を後退させた。今回の議論では、連結先行の考えをお蔵入りさせるべきと考える」と指摘。2012年にIFRSを強制適用するかどうか決めることについても「中間報告では取りあえず2012年としている」として見直すことを求めた。臨時委員の逢見直人氏(日本労働組合総連合会 副事務局長)も「状況の見極めをする必要がある」として2012年にこだわらずに議論すべきと指摘した。「(2012年に)結論を出さなくても国際的な信頼を失うことはない」という。
これに対して委員の八田進二氏(青山学院大学大学院教授)は中間報告の内容は既に2009年に策定された内閣府令で「指定国際会計基準」として法的に規定されていると指摘。その上で「このこと自体を覆して、議論するのか」と話した。
企業会計審議会会長の安藤英義氏(専修大学教授)は「中間報告については、IFRSの導入が既定路線になっているという説と、決まっていないという説の2つがある。中間報告を正しく読めば、分かるというのが私の意見。ただ2012年を目途に決めるということで(IFRS適用は)決めてはいない」と話した。
もう1つのテーマとなったのは国際的な情勢だ。IASB(国際会計基準審議会)は2011年7月、G20の新興経済国とマレーシアで構成する「EEG(Emerging Economic Group:新興経済グループ)」を設立した。EEGは中国が主導する組織で「IFRSの策定過程における新興経済国の影響を強化し、新興経済国のIFRS導入を目的とする」(事務局)。議長はIASBのスタッフだが、副議長は中国財務省の会計規制部局局長が務める。本部も中国だ。日本はIASBのサテライトオフィスを東京に誘致することに成功したが、最後まで中国と争ったといわれる。EEGはサテライトオフィスを逃した中国が、代わりとして新興国の取りまとめに乗り出した格好だ。日本が国内でもめている間に国際的な動きが加速している。
委員の斉藤惇氏(東京証券取引所グループ社長)は「中国や韓国、香港がIFRSを重視しているのは明白。(今回の議論でも)中間報告を出さないと、誘致したサテライトオフィスすら、もう1回揺り戻しがあるのではと危惧している」と指摘した。臨時委員の藤沼亜起氏(IFRS財団副議長)はサテライトオフィスの役割が、アジアやオセアニアからIFRSについての要望を集めてIASBに伝えることだと説明し、その上で「EEGはサテライトオフィスを骨抜きにできる。韓国もIFRS財団の議席を要求している。このような国際的な状況を理解してほしい」と話した。
審議会の終盤、臨時委員の辻山栄子氏(早稲田大学教授)はこれまでの議論をまとめる形で4つの課題を示した。「IFRSを受け入れる場合、アドプションなのかフルコンバージェンスなのかなど、具体的な対象企業の範囲と共に具体的な姿を見極める必要がある」「米国中心に国際的な情勢を見極める」「賛成・反対を離れて実際にIFRSアドプションをした場合に、アドプションが可能で、基準のメンテナンスも可能かを判断する」「IFRSの基準の中身として、バランスシート(BS)中心の会計基準がどういう意味を持つのかを考える」の4つだ。
その他の意見を幾つか紹介しよう。
IFRSの問題は日本の国家戦略に直結する。上場企業、中小企業にかかわらず、ゴーイングコンサーン、利用価値を前提とする企業が、(IFRSを適用して)交換価値でBSを中心に評価する場合、株主総会を考えた時に経営者に大きなダメージを与える。日本はこれから人口が減っていく。その中でこの交換価値、時価評価を中心とし、BSをメインにする(IFRSの)表示がこれからの日本、欧米の先進国ですら本当に正しいのか、私は強い懸念がある。米国の経済が長期投資ができなくなって、明らかにオバマ政権が苦境にいるのもこのような会計に引っ張られる経済が理由だと考える。
JR東海という1企業が積立金を積んでリニアモーターカーの研究開発をしているが、IFRSを適用した欧米系の企業では(このような研究開発は)絶対にできない。(日本で可能になるのは)長期投資を前提にした経営指針が株主総会で認められているからだと思う。これからの日本の経営を引っ張って行くために、長期的な視点で研究ができるような会計を考えてほしい。国内だけで資金調達をする上場企業にIFRSを強制適用するなら、製造業中心の日本は弱体化するとしか思えない。
ものづくりの経営の立場として大武委員の危機感に同感。戦後の混乱の中で日本経済が、特にものづくりがここまで成長してきたのは、やはりベーシックには日本の企業会計原則、会計基準がきちんとあり、企業が順守してきたからだと思う。この重みは大事にしないと行けない。グローバルな時代だからといって軽視できない。企業会計は国家戦略であり、グローバルな時代だからこそ主体性を持って判断すべき。
日本基準はコンバージェンスが進んでいるが、もう限界に来ている。研究開発費や、のれん、退職給付まで本当にコンバージェンスするのか。企業、経済にとって本当にどうしたらいいのかを考えると、日本基準は維持すべき。日本基準を維持することで、税法や会社法とのリンクを維持できる。日本企業にとってはそれが極めてリーズナブル。今後は個々の議論をして(IFRSの基準を)日本基準に入れるかを判断すればいい。今までのように、連結にコンバージェンスしたら単体に機械的に適用するというのはやめた方がいい。
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