「An Analysis of IFRS in Practice」(IFRS適用の分析)と「A Comparison of U.S. GAAP and IFRS」(米国会計基準とIFRSの比較)という2つのスタッフペーパーを公表。
SEC(米国証券取引委員会)は11月16日、米国のIFRS適用の判断に向けたワークプランに基づく2種のスタッフペーパーを公表した。このスタッフペーパーを判断材料に年末までに米国がIFRSを適用するかどうかを決めるとみられる。
公表したのは「An Analysis of IFRS in Practice」(IFRS適用の分析)と「A Comparison of U.S. GAAP and IFRS」(米国会計基準とIFRSの比較)という2つのスタッフペーパー。An Analysis of IFRS in Practiceでは、IFRSを適用している183社の財務諸表を分析した。その上でスタッフペーパーは「企業の財務諸表はほとんどにおいてIFRSに準拠しているように思われる」と評価した。
一方で、検討すべきIFRS適用の課題として2点を指摘している。1点は、特定分野における財務諸表の内容が不透明で、明確でない点。企業によってはIFRSに基づく会計方針を明確に説明しておらず、IFRSの内容と矛盾する用語の利用やローカルなガイドラインの参照などもあったという。スタッフペーパーは「結果としていくつかの財務諸表には、企業の取引実態やその取引がどう財務諸表に反映されているかを理解する上での障害があった」としている。
もう1つの課題は「IFRS適用の多様性が国や産業間の財務諸表の比較可能性を難しくしている」という点だ。IFRS適用の多様性は、原則主義で細則を定めないIFRS自身の特性から来ていると指摘している。その上で、それぞれの国の基準設定者が示すガイドラインや解釈、または企業がこれまで行ってきた慣習をIFRS適用に持ち込むことで、この多様性が減じているケースもあるとしている。一方で、これらのガイドラインや企業による旧来の慣習の適用は、特定の国内での財務諸表の比較可能性は向上させるが、世界レベルでの比較可能性は低下させる可能性があると主張している。
中央大学専門職大学院 教授の高田橋範充氏はスタッフペーパーについて以下のようにコメントしている。
「この2本のスタッフペーパーは、2010年2月の委員会報告を受けて作られたワークプランを実質化するために作られたものである。とりわけ、An Analysis of IFRS in Practice(IFRS適用の分析)は、実際のIFRSの適用形態を明らかにすることにより、SECのIFRSに関する意思決定への情報提供を目的とし、183社のIFRSによる連結財務諸表の分析を行っている。
分析の視点は、(1)ディスクロジャーの透明性や明確さが向上したか、(2)IFRS適用の多様性が比較可能性の障害になっていないか、の2点である。この2つの視点は独立的なものではない。すなわち、IFRS自体が明確なガイダンスが欠如していることから、十分な会計方針の開示や必要な情報の提供が行われず、結果として自国基準や古い慣習を適用せざるを得ないことになり、それが多様性を生み出しているという結論が導かれている。このようなIFRSコミュニティにおける多様性の問題は、IASBのアジェンダ案においても明確に意識されており、喫緊の問題となっているといえるであろう」
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