クラウドアプリ開発成功の鍵は? ソニー銀行、ローソンなどの事例で考える技術以前に乗り越えるべき壁がある

クラウドを活用したアプリケーション開発をこれから始める企業が注意すべき点とは。先行してクラウドを活用する4社の事例に見る、効果と課題を紹介する。

2017年12月14日 05時00分 公開
[重森 大]

 ビジネスにクラウドを活用するのはいまや珍しくない。かといって企業情報システムの構築手段のメインストリームになったかといえば、そうとも言えない。ガートナーの調べ(2017年5月)によれば大企業ほどクラウド活用に積極的なようだが、それでも積極的に活用しているのは20%程度とのこと。本稿では2017年11月に開催された「Gartner Symposium/ITxpo 2017」から、ガートナー ジャパンのリサーチ部門でリサーチディレクターを務める片山治利氏のセッションをレポートする。クラウドでのアプリケーション開発をこれから始める企業が注意すべき点を学んでいこう。

 片山氏が本セッションで語った内容は、以下の3つだ。

  • 調査結果を基にしたクラウドアプリケーション開発の動向分析
  • 対面でインタビューした先行企業4社の事例
  • 調査結果と先行事例から分かったクラウドアプリケーション開発のポイント紹介

 「クラウドアプリケーション開発の話ではありますが、DevOpsやテスト自動化などの技術的な話は出てきません」。片山氏はセッションの冒頭でこう宣言した。実際に先行してクラウドアプリケーション開発に取り組んでいる企業の担当者と話をして「開発以前の姿勢や体制づくりの方が重要だと分かったから」だという。

ガートナー ジャパン 片山治利氏 ガートナー ジャパン 片山治利氏

大規模な企業ほどクラウド活用に関心、しかしポイントは技術にあらず

 まず紹介するのは、日本におけるクラウドアプリケーション開発の実施状況に関する調査結果だ。2017年5月実施のガートナー調査から、関連部分を抜粋したものだ。従業員1000人未満、1000人以上2000人未満、2000人以上と分類すると、2000人以上の規模の企業がクラウドでのアプリケーション開発に高い関心を寄せているという結果が出た。

図1 図1 従業員別クラウドアプリケーション開発の実施状況(出典:ガートナー ジャパン、2017年11月)《クリックで拡大》

 規模の大きい企業がクラウドに関心を寄せるのは「コスト削減効果を大きく期待できるからでしょう」と片山氏は分析する。それでも既にクラウドでのアプリケーション開発を実施中と答えた2000人以上の企業は20%に満たない数だ。

期待通りの効果が得られるかどうか、クラウド移行はまだ試行錯誤の中にある

 クラウドに関心を寄せる企業は、クラウドアプリケーション開発に何を期待しているのか。ガートナーの調査結果によると、上位5つは下記の通り。調査はクラウドアプリケーション開発を既に実施中、一部実施中、今後実施予定と答えた企業のみを対象とした。

  1. アプリケーション開発のスピード
  2. コストの削減
  3. 他システムとの連携
  4. 開発環境の維持負担の軽減
  5. 生産性の向上

 興味深いのは、次に示す2つのアンケート結果との関係である。実際にクラウドアプリケーション開発を実施して期待通りの効果を感じたかどうか、期待した効果を感じられなかったかどうか、という正反対の質問に対する回答をまとめたものだ。なんと上位の回答は、両者ともほぼ同じ事柄だった。そしてそれは、上で示した「クラウドアプリケーション開発に期待するもの」ともほぼ同じだった。片山氏はこれを「期待が大きかった分、うまくいって期待通りの効果を得られた企業と、そうでなかった企業に大きく分かれたのではないか」と分析する。

図2 図2 期待通りではないトップ4は、期待通りのトップ4と同じ(出典:ガートナー ジャパン、2017年11月)《クリックで拡大》

 アプリケーションのクラウド化を進める順番についてのアンケート結果を見てみよう。調査では質問をアプリケーションの種類で分類し、

  • 基幹系と周辺系
  • フロントエンドとバックエンド
  • 社内向けと社外向け
  • IT部門管轄とエンドユーザー管轄

のそれぞれについて、先にクラウド化するのはどちらかを尋ねた。基幹系か周辺系か、フロントエンドかバックエンドかという2つの基準については、回答が見事に分散。一方で強い傾向を示したのは残り2つの基準だ。

 社内向けか社外向けかという質問に対しては、社内向けから順にクラウド移行を進めると答えた企業が多かった。「やはり新しい技術は、まず社内向けアプリケーションでノウハウを得たいということでしょう」(片山氏)

 IT部門管轄かエンドユーザー管轄かという設問では圧倒的に前者が選ばれていた。アンケート対象自体がIT部門に属する人だったため、この回答を数字通りに受け取ることはできないと片山氏は助言する。クラウドに移行するアプリケーションをどのような基準で選ぶかは「企業によるでしょう」と同氏は指摘。その上で「クラウド移行に求めるメリットを考え、なんらかの基準を設けることが必要です」と述べる。

 ここでは設問に含まれていないが、新規アプリケーションか既存アプリケーションかという観点が、大きなポイントになっていることが先行企業へのインタビューから浮かび上がったことも、片山氏は付け加える。

先行してクラウドを活用する4社の事例に見る、効果と課題

ソニー銀行

ITmedia マーケティング新着記事

news112.jpg

「インクルーシブマーケティング」実践のポイントは? ネオマーケティングが支援サービスを提供
ネオマーケティングは、インクルーシブマーケティングの実践に向けたサービスを開始した...

news135.jpg

Xが新規アカウントに課金するとユーザーはどれほど影響を受ける? そしてそれは本当にbot対策になるのか?
Xが新規利用者を対象に、課金制を導入する方針を表明した。botの排除が目的だというが、...

news095.jpg

Googleの次世代AIモデル「Gemini 1.5」を統合 コカ・コーラやロレアルにも信頼される「WPP Open」とは?
世界最大級の広告会社であるWPPはGoogle Cloudと協業を開始した。キャンペーンの最適化、...