今回は、病院内外からのセキュアなアクセスによる情報共有、仮想化技術を活用したコスト最適化などに取り組んでいる病院の活用事例を紹介する。
前回の「先進病院が進める『医療クラウド』構築事例」に続き、2010年11月に開催された「第30回医療情報学連合大会(第11回日本医療情報学会学術大会)」の講演で発表された医療クラウド構築を進める病院の取り組みを紹介する。
医療情報の研究者や実務担当者の学術交流イベントである日本医療情報学連合大会」では「協調と連携が創る、新たな医療―未来に向けたシステム基盤を考える―」をメインテーマとして、新しい医療システムの在り方を議論する講演やワークショップが実施された。
今回取り上げる2つの事例では、複数存在する院内のネットワークをセキュアに連携して情報活用を活発化させたり、仮想化技術を活用することで運用コストの最適化を図ることなどに取り組んでいる。
2005年に電子カルテを導入した京都大学病院では、「研究室で電子カルテを利用したい」という医師の要望を受け、「Citrix MetaFrame」(現「Citrix XenApp」)を活用して学術ネットワークとHIS(病院情報システム)ネットワークの両方にアクセスできる環境を構築した。
また「HIS上でメールを確認したい」という要望に応えるために、2009年からはコラボレーション用ツール「Google Apps」を導入し、HIS上でメールサービス「Gmail」の利用を開始している。これにより院内のシームレスな情報共有は可能になったが、患者や関連病院の医師などの病院外にいる関係者が、同病院内の診療情報にアクセスできる環境の構築が急務となっていた。
そこで京都大学病院では、診療情報の閲覧に特化したWebビュワー「EternalKING」の開発に着手し、病院外で承認されたセキュアな環境からのアクセスを可能にした。具体的には、関連病院からVPNを経由して、必要な診療情報を閲覧できるようにした。セキュリティを確保しつつ、患者情報の共有が可能になり、医療従事者の利便性が向上したという。
現在、京都大学では研究用データをHIS上で活用可能にするなど情報共有の範囲を拡張した次期システムの構築を進めている。
国立成育医療研究センターは2002年の開院時、インターネット接続が可能なHISを構築していた。しかし、情報漏えいリスクを懸念して、2008年から2つの異なるネットワークを構築。インターネットに接続でき、メールやグループウェアなどを運用する基幹ネットワークと、電子カルテなどの院内システムが接続する業務系ネットワークの2つに分けた。この2つのネットワークをVMwareや「Citrix Presentation Server」などで共存利用させてきた。
しかし、実運用をする中で「900台の端末のうち、最大同時接続数が400人しかいない」という状況や、紙文書の保管庫やMRI回復室など使用頻度の低い端末もあることから、そのライセンスコストが課題となっていた。そこで国立成育医療研究センターでは、現在試験導入のレベルにある「仮想デスクトップインフラ(VDI)」を活用して、今後は各種ライセンスの節約に取り組む予定。その効果についてはHIS用ライセンスを900台分から400台分まで削減できる見込みだという。
発表後の質疑応答では、システムの操作性や実際の導入・運用コストに関する質問が挙がっていた。今回紹介した事例のように、先進的な病院では医療クラウドの構築に向けた取り組みが進められている。また、ほかの講演やワークショップでは地域医療連携の実証実験の成果なども発表されていた。TechTargetジャパンでは今後もその動向に関する取材を続けていく。
本記事に関して講演者の方からのご指摘をいただき、以下のように訂正させていただきました。関係者の方々にはご迷惑をおかけいたしました。
(訂正前)
そこで「仮想デスクトップインフラ(VDI)」を活用してライセンスの節約に取り組み、HIS用ライセンスを900台分から400台分まで削減した。
(訂正後)
そこで国立成育医療研究センターでは、現在試験導入のレベルにある「仮想デスクトップインフラ(VDI)」を活用して、今後は各種ライセンスの節約に取り組む予定。その効果についてはHIS用ライセンスを900台分から400台分まで削減できる見込みだという。
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