先進病院が進める「医療クラウド」構築事例「第30回日本医療情報学連合大会」リポート(前編)

2010年11月に開催された「第30回医療情報学連合大会(第11回日本医療情報学会学術大会)」。本稿では、その講演の中で発表された医療クラウド構築を進める病院の取り組みを紹介する。

2010年11月30日 08時00分 公開
[翁長 潤,TechTargetジャパン]

 日本政府が掲げるIT戦略「i-Japan戦略2015」の三大重点分野の1つである医療・健康分野。医師のスキルや遠隔医療技術の向上、地域医療連携の実現による「地域の医師不足などの問題の解決」や、電子化によって個人および医療機関が医療情報を有効活用できる情報連携基盤「日本版EHR」の構築といった、同分野におけるIT化が今後推進される予定だ。

photo 会場内では関連システムの展示やデモなども行われた

 そんな中、2010年11月18日から21日までの4日間、医療情報の研究者や実務担当者の学術交流イベント「第30回日本医療情報学連合大会」がアクトシティ浜松にて開催された。同大会では「協調と連携が創る、新たな医療―未来に向けたシステム基盤を考える―」をメインテーマとして、新しい医療システムの在り方を議論する講演やワークショップが実施された。今回、次世代型システムとしてクラウドコンピューティング技術を活用した「医療クラウド」に関心が集まっていた。

 今回から2回にわたり、11月19日の大会企画講演「電子カルテ基盤としてのクラウドコンピューティング技術の実際」というテーマで発表された、医療クラウド構築の4つの事例を紹介する。患者情報などの機密情報を取り扱う医療分野では、システムのセキュリティ対策が課題となる。

 今回取り上げる事例では、アプリケーションやデータをサーバで一括管理する「サーバベースドコンピューティング」(以下、SBC)と「シンクライアント」端末などを採用している。これにより、サーバにネットワーク経由でアクセスする端末にはデータを残さず、データ表示や入力のみが可能になり、よりセキュリティの高いシステムを構築している。また、仮想化技術を活用することで、変化により柔軟に対応し、運用コストの最適化を図ることにも取り組んでいる。

電子カルテ基盤を地域医療連携へ応用――鳥取大学病院

 病床数700床の鳥取大学病院では2003年12月から電子カルテを稼働させ、2008年のシステム更新時にセキュリティと運用コスト低減を考慮し、シンクライアントシステムの導入を検討した。電子カルテやDICOM画像ビュアー、放射線情報システム(RIS)などを試験運用した結果、SBCソフトウェア「GO-Global」を活用するシステムを採用。70台のサーバと1000台のシンクライアント端末で構成される医療情報システム(以下、HIS)を構築した。その後、2009年7月から、西伯病院と共同で地域医療連携ネットワーク「おしどりネット」を稼働させ、両院の患者の中から同意を得た患者の診療情報を相互に参照する連携を行っている。

photo おしどりネットの活用イメージ

 両病院は異なるベンダーの電子カルテを採用しているが、県内の広域通信情報基盤「鳥取県情報ハイウェイ」を経由して患者情報をすべて参照できる。これにより質の高い医療を提供できるようになったという。また、外部の連携サーバにデータをアップすることなく、情報をリアルタイムで共有できるため、紹介後の患者の治療状況の確認や退院後のフォローアップなどにも活用できるとしている。セキュリティの観点では、利用者にアクセス制限を設けて、各病院のシステムから参照ログを監査できる。外部参照サーバや連携病院ではデータを保存できないため、病院内や地域でデータを多重に保管せずに済むというメリットもある。

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