「タッチ操作対応ユーザーインタフェースを、どの端末にも適用する」というMicrosoftの判断は、本当にユーザーの立場に立って考えられたものなのだろうか。
「Windows 8では、どの端末にも同じユーザーインタフェース(UI)を適用する」という米Microsoftの戦略が、多くの企業のIT担当者を悩ませている。問題の1つは、Windows 8のタッチ操作対応UIをサポートするために、既存の端末をより高価なタッチ操作対応の端末にアップグレードするコストが掛かることだ。たとえそれが1端末当たり50〜100ドルであっても、大企業にとっては痛い出費になる。それにも関わらず、MicrosoftはデスクトップPC、ノートPC、スマートフォン、タブレット、さらには組み込みアプリケーションに至るまでタッチ操作対応UIを採用している。
もちろんWindows 8はキーボードとマウスでも操作できる。しかし、あくまでもタッチ操作を基本とした設計だ。これはハードウェアへの投資予算に影響し、多くのWindowsユーザーに敬遠される原因になるはずだ。それに端末への投資予算が増大するとなれば、IT予算が逼迫している多くの組織が、タッチ操作非対応のハードウェアを選ぶ可能性も出てくる。だが、それではWindows 8の大きな特徴を帳消しにすることになる。
調査会社の米Enderle Group 主席アナリストのロブ・エンダール氏はその点を受けて、「当面の間、大半の企業はデスクトップPCにはWindows 7を使い続けるだろう。ユーザーは新しいインタフェースの使い方を自主的に学ぼうとはしないものだ」と話す。米ダートマス・ヒッチコック医療センターのシニアシステムエンジニア ロブ・マクシャインスキー氏も、「医療センターのアプリケーションとWindows 8の互換性を確認できるまでは、ダウングレード権を使ってWindows 7を利用するだろう」とコメントする。
企業のIT担当者を悩ませるもう1つの問題は、トレーニングに必要なコストだ。新システムの導入時には、新しいUIに慣れるためのエンドユーザー向けトレーニングや、新システムの構成と保守に関する技術者向けのトレーニングが不可欠となる。Windowsライセンスに関するコンサルティングを行っている米Pica Communicationsのポール・デグルート氏は、「特にエンドユーザー向けのトレーニングは巨額の投資になり得る」と指摘している。
もちろん中には、「Windows 8のユーザートレーニングは、それほどの障害にはならない」という意見もあれば、「Windows 8によって、Microsoftはついに“どの端末からでも使えるWindows”というビジョンを実現する」と評するユーザーやアナリストもいる。例えば米ロッキーマウンテンWindowsテクノロジユーザーグループのデニス・マーティン会長は、「トレーニングは必要だが、従来のUIと100%異なるわけではない」と言う。
しかし、大半のユーザーは「インタフェースにスタートボタンを用意しないのは間違いだ」(米ロッキーマウンテンWindowsテクノロジユーザーグループのデニス・マーティン会長)などと、タッチ操作対応UIの使い勝手に問題を感じている。実際、「タッチ操作対応UIをどの端末にも適用する」というMicrosoftの決断には、「本当にユーザーの立場に立って下した結論だったのか?」という点で疑問を禁じ得ない。
これまでMicrosoftはスマートフォン/タブレット市場での不振について度々批判を受けてきた。米comScoreが2012年8月に発表したリポートによると、米国モバイル市場でのシェアは、米Googleが52.6%、米Appleが34.3%だったのに対し、Microsoftはたったの3.6%だ。その点、Windows 8のタッチ操作対応UIは、そもそも軽量・小型の端末向けに設計されたもの。Microsoftがスマートフォン/タブレット市場のシェア獲得を狙ってWindows 8を開発したことは明らかだ。自社ブランドのタブレット端末「Surface」を展開することさえ決めている。
コンサルティング会社の米Pund-IT 主席アナリスト チャールズ・キング氏は、そうしたMicrosoftの姿勢について、「彼らは今後、『UIは複数のバージョンを使い分けるよりも、統一されていた方が効率的だ』などと主張してくるかもしれない」とコメントする。
「Windowsの最大の競合相手は、いつも前バージョンのWindowsだ」とは、Microsoft スティーブ・バルマーCEOの有名な発言だ。実際、Web分析企業の米NetApplicationsによると、まさしくその言葉通り、グローバルでのWindows 7ユーザーは38.54%で、38.46%はいまだにWindows XPを使っているという。
発売開始から11年が過ぎたWindows XPが引退すれば、Windows 8への移行が進むチャンスも回ってこよう。しかし多くのユーザーがWindows Vistaには移行せず、XPが使い続けられた過去を振り返ると、今回も彼らがWindows 7がプリインストールされたダウングレードPCに走ることは十分に考えられるのではないだろうか。世界では10億人以上がWindowsを使っているが、“バルマー氏の発言”の正しさが再び証明されることになれば、Microsoftにとっては非常に都合の悪いことになってしまう。
しかし“Microsoftの判断”について、最終的な評価を下すのはあくまでユーザーだ。Microsoftにどのような思惑があろうと、「どの端末からでも使えるWindows 8」という“ビジョン”が「机上の理論としては素晴らしいが、実際には役立たずだ」(米調査会社Enderle Groupの主席アナリスト、ロブ・エンダール氏)と切り捨てられる可能性は十分にあり得る。
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