ソフトウェアの巨人からデバイスとサービスの企業へ――組織再編で米Microsoftが変わりつつある。今後を占う上で重要なのはSurfaceとクラウドサービス、そしてWindowsだ。
米Microsoftが業務の合理化を図って組織再編を行った。Windows、デバイス、サービス各部門の事業戦略の立て方次第では、企業のIT部門に影響を及ぼす恐れもある(参考:米Appleになりたい? 米Microsoftの組織再編を深読みする)。
Microsoftは2013年7月11日(米国時間)に、エンジニアリング部門の統合を進めて、デバイスとサービスを提供する企業となることを計画していると発表した。
同社の再編後のエンジニアリング部門では、オペレーティングシステムの開発グループ「Operating Systems Engineering Group」を率いるテリー・マイヤーソン氏が、Windowsを複数のデバイスやフォームファクター間に展開する使命を担い、同社の命運を左右する存在となる。ジュリー・ラーソン―グリーン氏は、ハードウェアの開発およびサプライチェーン、エンターテインメントを担当するグループ「Devices and Studios Engineering Group」のリーダーに任命された。
機能別編成とする同社の組織再編は、ここ数年見られなかったほど大規模なもので、スティーブ・バルマーCEO在任中の最大の決断の1つに数えていいだろう。
「全てのOSを1つのグループに集約したのはいいことだ」と、米調査会社IDCのクライアントおよびディスプレー調査担当副社長、ボブ・オドネル氏は話す。「もっと早く、ずっと前に実現していれば、なおよかったと思う」
ただし、エンジニアリングチームが1つの部署にまとめられたことは、同社の開発チームにとっては、チーム同士の連携が求められていることを意味する。
「これはWindowsのバージョンアップを年1回のペースで実施する際の重大なリスクだ」と話すのは、米IT関連調査会社、Directions on Microsoftで管理部門担当の副社長を務めるロブ・ヘルム氏だ。「MicrosoftはWindowsに頼りすぎている。クラウドサービスやハードウェアのグループとの協調を(会社として)うまく進めなければ、悪い影響が出ることになるだろう」
「見方を変えると、Windowsに追加される新機能を生かすためには、アプリケーショングループはOSグループよりも速く動かなければならない。Windowsグループから明確なロードマップを提供してもらう必要がある」と同氏は付け加えた。
テクノロジーをリリースするサイクルを短期化するというMicrosoftの目標に対するIT部門の管理者の懸念は、変化の速度に遅れないようにしなければならないことだ。
「Microsoftが築いたエコシステム全体で製品リリースのペースを加速するということについて、不安を感じているIT関係者は少なくない。しかしわれわれを取り巻く世界全体が変わりつつあるのだから、変化には慣れた方がいい」と、米ワシントン大学でネットワークおよびシステム運用の管理者を務めるスコット・ラドウィグ氏は語る。「Microsoftが先頭に立とうとしている姿を見るのはうれしいことだ。ここしばらくは、流れに乗り遅れている感があったかもしれない」
Microsoftの組織再編と、同社がデバイスとサービスの会社に移行しようとする取り組みが成功するかどうかは、今後の展開を見守りたいところだ。ゲーム端末のXboxと、最近リリースされたSurfaceタブレットを例外とすれば、Microsoftがハードウェアも手掛けていることはあまり知られていない。
「Xbox以外は、ハードウェアの分野でそう目立った業績を上げていたわけではない」と前出のオドネル氏は語る。「だから、この分野に今後注力すると聞いて驚いた」
また、Microsoftはむしろ昔からの得意分野を守り抜くべきだと考える向きもある。
「Microsoftが頑張って作れるのは、せいぜいノートPCとタブレットのハイブリッド端末だろう」と話すのは、Microsoftプラットフォームを専門に長年キャリアを積んできたITプロフェッショナル、マイク・ドリップス氏だ。「Microsoftはデザインに十分な投資をしない。Appleがユーザーの心をつかんできた。Apple製品は最高に洗練されている。Microsoftは何も変わっていない。昔のままだ。Xboxの最新バージョンでさえも散々な評判だ」
一方、Microsoftは、単にデバイスの会社としての評価を得るというよりは、パートナーとの共同開発も自社単独での開発もできるデバイスのベンダーという評価を得ることを目指しているようだ。
「これまでに築いてきたWindows、Xbox、そして今も増え続けているコンシューマーとエンタープライズ向けのサービスを礎に、今後は当社単独で、そしてサードパーティー各社を通じて、Windowsが動作するデバイスの完全なファミリー、すなわち仕事でも日常生活でも人々の役に立つデバイスを設計し、形にして世に送り出そう」と、バルマーCEOは自社Webサイトに公開した社員宛てのメモに書いている。
このようなメッセージを発信する一方で、Microsoftはここ数カ月間、SurfaceとWindows 8を採用する企業や組織を増やそうと売り込みに躍起になっている。これまでに、同社はWindows 8.1にエンタープライズ向けの機能を追加し、Surfaceの販売チャネルプログラムを立ち上げた(参考:「Surface RT」がイメチェン模索 仕事で使えるタブレットへ)。
「今回の発表で、他のOEM各社はSurfaceを“今後Microsoftは本格的にこの分野に進出するという警告”と見なすだろう」と話すのは、米コンサルティング会社82 Venturesの経営者であり、米TechTargetにも寄稿しているジョナサン・ハッセル氏だ。「Microsoftはデバイス市場で一定の地位を確保しているし、ジュリー・ラーソン─グリーン氏がこの部門のリーダーになるとすると、Xbox以外の製品も発売されるのは間違いない」
長期的にみると、Microsoftにとっての成功のカギは、クラウドサービスにどこまで注力できるかというところにあるのかもしれない。第一のログインポイントの座をめぐる争いでは、Microsoftはいい位置に付けているとアナリストは見ている。
「デジタル世界の“顔”(エントリーポイント)となるのはどの企業だろう。ゆくゆくは、どこかのシステムにログインして、そこからどこでも好きな場所にアクセスできるようになるだろう」と、調査会社IDCのオドネル氏は語る。「Microsoftは今までの積み重ねがあるから、将来はログインポイントとなってもおかしくない。Microsoftが築いたインフラと確立してきた評判を考えれば、デジタル世界の顔として妥当だ」
Microsoftにはサービスプロバイダーとしての将来性を示す良い例がある。SkyDriveだ。
「(SkyDriveは)デバイスの種類を意識する必要なく、ユーザーはどこからでもアクセスできる非の打ちどころのないサービスだ」とヘルム氏は語る。「(Microsoftが)デバイスとサービスをエンドツーエンドでカバーして主導権を握ることができれば、(Microsoftの復権が)実現するだろう。Microsoftがデバイス市場にも首を突っ込まざるを得ないのは、それも一因だ。すき間なくエンドツーエンドでカバーして主導権を握るためには、他に方法はない」(同氏)
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