72億ドルでNokiaのデバイス&サービス部門を買収したMicrosoft。モバイル端末市場でのシェアと収益の拡大を目指す同社だが、今回の買収はバルマー氏の後任となる次期CEO選出にも思わぬ波紋を呼んでいる。
米Microsoftは2013年9月初め、スマートフォン市場への進出を果たすべく、フィンランドのNokiaを買収した。しかしアナリストやエンドユーザーらは、この買収でMicrosoftが同市場で強固な足掛かりを確保できるのかという点については懐疑的な見方をしている。
Microsoftの発表によると、同社はNokiaのデバイス&サービス部門を72億ドルで買収する。同部門はMicrosoftの「Windows Phone」端末も開発している。買収は2014年1〜3月期に完了する見込みだ。
同社によると、Nokia買収で技術開発を加速し、統合ブランド/マーケティング戦略を推進することで、モバイル端末市場でのシェアと収益の拡大を期待できるという。
Microsoftはモバイル端末市場への進出に苦労している。同社のタブレット端末「Surface」は売れ行きが振るわず、「Windows Phone」プラットフォームは、米AppleのiOS端末および米GoogleのAndroid端末から大きく引き離された3位に甘んじている。
「Nokiaを買収してもMicrosoftはモバイル端末市場のリーダーにはなれない」と指摘するIT業界関係者もいる。
「同社は池の底に沈んだ岩を買い、これからその岩を浮かび上がらせようとしているのだ」と話すのは、Microsoftプラットフォームを専門とする米ヒューストン在住のITプロフェッショナルのマイク・ドリップス氏だ。「彼らはこの買収で大した成果は得られないと思う」
Microsoftは“サービスと端末(デバイス)”の企業を目指すという方針を掲げているが、今回の買収により、同社は台湾HTCや韓国Samsungなどのスマートフォン分野のハードウェアパートナーと直接競合することになる。また、今後登場するWindows Phone端末メーカーとの関係も難しくなるだろう。
米大手製薬会社でモバイル戦略責任者を務めるブライアン・カッツ氏は「Microsoftは、現時点で端末を製造している他の全てのOEMを失うことになるだろう。これらのメーカーの市場シェアが20%にすぎないとしても、それがゼロになってしまうのだ」と語る。
モバイル分野を専門とする米コンサルティング会社のSepharim Groupで最高経営責任者(CEO)兼主席アナリストを務めるボブ・イーガン氏は「この買収はMicrosoftとSamsungの対決につながる。これはモバイル端末のエコシステムをめぐる大きな戦いの前触れになるだろう」と話す。
Nokiaの特許に関しては、Microsoftはこれを買収の対象として直接保有するのではなく、ライセンスを受けるという形にした。アナリストらによると、これは慎重な判断だという。
「これはNokiaの特許の長期的展望と関係があるが、Microsoftにとっては独禁法関連の訴訟リスクを避けたいという思惑もある。というのも、Nokiaの特許は他の多くのベンダーがライセンスを受けているからだ」と指摘するのは、米コンサルティング会社のJ. Gold Associatesの主席アナリスト、ジャック・ゴールド氏だ。
同氏によると「Nokiaの特許の多くは期限切れが近づいており、将来の特許料収入を生み出す力は失われた。荷物を背負い込まず、特許のライセンスを受けるだけの方がすっきりしている」という。
今回の買収がMicrosoftにとって長期的戦略の強固な基盤になるかについては、懐疑的な見方が多い。
「ハードウェアが急速に進化する中、今後の問題は、Nokiaの買収でMicrosoftのOSチームの開発がスピードアップできるかどうかということだ」とカッツ氏は語る。「それができるのであれば、ハードウェアとOSの見事な結合が実現する可能性があり、将来に期待が持てる」
「モバイル端末管理、プライベートアプリの配布、企業アカウント、VPN、Bluetooth 4、新しい通知センターといった企業向けの重要な機能はWindows Phoneプラットフォームにまだ実装されていないが、Nokiaの買収でこういった不備が解消されるわけではない」と前出のSepharim Groupのイーガン氏は話す。
「Microsoftはハードウェアをより直接的にコントロールできるようになるわけだが、これまでにもそうしたチャンスがなかったわけではない」とイーガン氏は指摘する。
大手企業のIT部門のコンサルティングを行っている前出のドリップス氏によると、Nokia端末向けのアプリケーションの開発はあまり見かけることがないという。ほとんどの企業では、AppleやAndroidの端末向けの開発に主眼を置いているからだ。
今回の買収の一環として、Nokiaのスティーブン・エロップCEO(Microsoftの元幹部)は、Microsoftの端末&サービス部の執行副社長に就任する。一方、買収に伴って降格が予想されているのが、端末&スタジオ部門の元責任者で、現在はエロップ氏に直属するジュリー・ラーソングリーン氏だ。同氏はMicrosoftの次期CEO候補としても名前が挙がっていた人物だ(関連記事:さよならの前に振り返るMSバルマーCEOの栄光と挫折)。
「Microsoftが端末ビジネスに参入するだけでなく、スティーブン・エロップ氏が同社に復帰することも、今回の買収の重要なポイントだ」と前出のゴールド氏は話す。
今回の買収により、スティーブ・バルマー氏の退任時にはエロップ氏が社内で強固な立場を確保するとみられるが、エロップ氏がMicrosoftのCEO職を引き継ぐべきかどうかについては議論が分かれている。
「スティーブン(エロップ氏)がMicrosoftをどん底から脱出させるリーダーとしてふさわしい人物だとは思わない。彼はいい奴だが、戦術的な思考しかできない。Microsoftはもっと大きな見方をする人物、すなわち大きなビジョンを明確に示し、それを実行する能力を持った人物を必要としているのだ」とイーガン氏は語る。
買収価格:72億ドル
買収完了時期:2014年1〜3月期(規制当局の承認が必要)
従業員の移籍:3万2000人のNokia社員がMicrosoftに移籍予定
ライセンス問題:Nokiaの技術部門(Chief Technology Office)と特許ポートフォリオはNokia Groupに残されるが、買収完了時点でNokiaは自社の特許に対して10年間の非独占ライセンスをMicrosoftに供与する。Nokiaはさらに米Qualcommとのライセンス契約をMicrosoftに譲渡する。Microsoftはマッピングサービスプラットフォームの「HERE」の戦略的ライセンシーになり、4年間のライセンス料金をNokiaに支払う。
買収不成立の場合:この買収が規制当局の認可を得られなかった場合、MicrosoftはNokiaに7億5000万ドルを支払う。
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