EdTechフロントランナー【LOUPE編】
ソーシャルの力で“悩める先生”を支え抜く「SENSEI NOTE」
2014年3月の正式公開前から、多くの教員が注目を集めていた教員限定SNSが「SENSEI NOTE」だ。運営元であるLOUPE浅谷治希氏の思いが詰まったSENSEI NOTE。その強みを解き明かす。
授業準備、生徒指導、成績管理など、さまざまな業務に追われる学校の教員。そんな教員が生き生きと働ける社会を実現したい――。こうした思いを基に開発された教員用SNSの「SENSEI NOTE」に、多くの教員が期待を寄せている。これまで1年半弱にわたる試験運用を実施し、2014年3月24日に正式公開を迎えた。
SEISEI NOTEを運営するLOUPEのCEO&Co-Founderである浅谷治希氏へのインタビューを通し、その期待の背景に迫る。
SENSEI NOTEとは:登録したその日から「全国の先生とつながる」SNS
前回「Keynoteを超えた? iPad用プレゼンアプリの新標準『ロイロノート』」で紹介した「ロイロノート」、前々回「CEOが全国行脚、“現場目線”で改善を続ける学校用SNS『ednity』」で紹介した「ednity」は、教員にメリットがありつつも、どちらかというと学習者の活躍の場を広げる製品/サービスであった。一方、今回取り上げるSENSEI NOTEは、「先生を支え抜く」というミッションを当初から掲げるSNSだ。
SENSEI NOTEの詳細な機能は後述するが、SNSとしての機能は「Facebook」などの一般的なWebサービスを踏襲している(画面1)。それに加えてSENSEI NOTEには、教員の利用を前提とした細かい調整が随所に見られる。
その1つが、利用登録のプロセスだ。SENSEI NOTEの利用登録には事務局の承認または既に利用登録している教員からの招待が必要で、原則として教員や教育委員会関係者、教員志望の学生に利用者を限定している(画面2)。一般企業の従業員や保護者、学習者は登録できない仕組みだ。これは、「教員が安心してやりとりできる環境を実現する」(浅谷氏)ための配慮である。
こうした利用制限自体は、いわゆる「会員限定型SNS」「招待型SNS」に加え、Facebookの非公開グループでもできる。SENSEI NOTEがこうした他のSNSと決定的に違うのは、「全国の知らない教員」と気軽につながり、交流できる点である。
立場の違いを超えたフラットなコミュニティーを実現
SENSEI NOTEに登録した教員はその瞬間から、全国の小学校、中学校、高等学校の教員と、役職や立場を気にすることなくフラットにやりとりができる。SNSということもあって若手の教員の利用者が多いかと思いきや、利用している教員の年齢層は幅広く、“ベテラン”の域に達している教員の利用も多いという。
SENSEI NOTEの主要機能は以下の通りだ。
- 投稿:自身の実践事例や悩み・質問をファイル、リンク、テキストといった形式で投稿できる(匿名での投稿も可能)。自分の実践内容を発信したり、身の回りの人には相談できないような悩みを投稿することで、多くの教員から反応をもらうことができる
- 投稿へのアクション:投稿へコメントやFacebookのような「いいね!」ボタンで反応を示す機能、投稿を後で見るためのクリップ機能を搭載(画面3)。他の教員の投稿に対して双方向のやりとりができる
- チャンネル:特定分野に関するコミュニティー。NPO(特定非営利活動)法人や大学の研究者が、それぞれの観点から専門的情報な最新情報をコラムとして発信する(画面4)。発達障害の研究者や反転学習(※)を実施するNPO法人まで、幅広い層を網羅しているのが強みだ。既に教材開発、反転学習、キャリア教育、発達障害などのトピックを扱ったチャンネルが存在。中には英語の動画にSENSEI NOTEのスタッフが字幕を付けて配信するなど、直接スタッフが関与するチャンネルもある。チャンネルへの投稿も可能で、ファイルのアップロードもできる
※動画教材などを利用して学習者が家庭で予習し、授業では予習内容を踏まえた応用問題を解いたりディスカッションをしたりする授業形式。
- つながり:特定の教員との「つながり」という機能があり、相互承認を経てつながった教員同士であればダイレクトメッセージの送受信が可能になる。この機能は、「Twitter」が持つフォロー機能に近い
SENSEI NOTEのメリット:交流や情報収集を通して「暗黙知」を可視化
教材などのファイルを閲覧・利用できるサービスは、SENSEI NOTE以外にも幾つかある。NPO法人の日本教育再興連盟が運営する教育Web辞典「EDUPEDIA」、東京書籍の教育資料データベース「東書Eネット」、トス・インターネットランドの指導案・授業コンテンツ共有サイト「TOSSランド」などだ。
浅谷氏は、こうした競合サービスの存在を認識しつつ、「SENSEI NOTEが他のサービスと大きく違うのは、教材などのファイル共有や事例の紹介にとどまらず、コミュニティー要素があること。その点で、競合は実質的に存在しない」と言い切る。
SENSEI NOTEは、基本的に教員同士の双方向のやりとりを中心としているが、上述したチャンネルの購読で、交流をしなくても情報収集はできる。情報に対するさまざまなアクセス方法を用意している点が、SENSEI NOTEの強みだといえるだろう。
新任の教員の悩みにベテランの教員がアドバイスする。ロングホームルーム(LHR、授業時間を使った学級活動)で非常に盛り上がった取り組みを披露する――。これらは、1年半弱の試験運用の中で見えてきたSENSEI NOTEの生かし方の一例だ。「ファイルのような形で資料化されているものだけに限らず、明文化されていないような“先生の日常”がSENSEI NOTE内のやりとりの中で顕在化してくれば、大きな価値になる」と浅谷氏は言う。今までなかなか実現が難しかった、教員の「暗黙知」の可視化という点で大いに貢献することだろう。
気になる利用料金だが、教員は無料。今後も「教員が通常利用する分には課金する予定はない」(浅谷氏)という。
導入実績:公立小学校を中心に小中高のさまざまな教員が利用
SENSEI NOTEに登録している教員は、現状では絶対数の多さもあり公立小学校の教員が比較的多い。特に小学校の学級運営といったテーマでの議論が盛り上がっているそうだ。ただし、登録教員は当然ながら公立小学校の教員だけでなく、公立・私立、また小中高問わずバランスよく分布しており、年齢層も幅広いという。
現時点では、「小学校の教員」「中学校の理科の教員」といったような、教員の属性に応じたグループ分けはしていない。浅谷氏は今後こうした分類を導入する可能性を否定していないが、現時点ではなるべく情報が分散しないように配慮した結果、分類をせずに完全にフラットな構成にしているという。
ユーザーの裾野は「リアルな場」でこそ広がる
LOUPEは、SENSEI NOTEの利用者を「2014年内に最低1万人」(浅谷氏)にすることを目標にする。目標達成に当たって浅谷氏は、「Facebookなどのオンラインからのアプローチだけでは、全体のほんの一部にしかリーチできない」という考えから、「リアルな場」での教員とのつながりを大切にしているという。筆者のFacebookでの交友を考えても、Facebookを活用する教員の多くは「比較的ITに明るい人たち」。オンラインのつながりだけでは、例えばIT活用に必ずしも積極的ではない教員にアプローチするのは難しい。
具体的には、浅谷氏自ら国内を駆け回り、積極的に講演やイベントに登壇したり、自らイベントを主催。教員志望の学生を多く擁する各地の大学、あるいは学校とのつながりが深いNPO法人との連携を進めているという。その結果として、「試験運用時からSENSEI NOTEを好んで使ってくれる教員が地域ごとに“エバンジェリスト”となり、口コミで利用者を増やしている」(浅谷氏)のだそうだ。
さらにLOUPEは、教育系イベントの情報を集約したWebサイト「SENSEI PORTAL」も提供している。SENSEI PORTALに登録している教育系イベントの会場に、SENSEI NOTEのチラシを置いてもらうといった地道な広報活動を続けており、教員とのリアルな接点を増やす工夫に余念が無い。SENSEI PORTALにはSENSEI NOTEへのリンクも設置し、教員同士のリアルな交流の場をSENSEI NOTEへの導線にしている。リアルとオンラインを連動させたこうした地道な活動が、SENSEI NOTEの認知度を高める原動力になっているようだ。
今後の展開:ネイティブアプリを開発へ、海外展開も視野
浅谷氏が今後取り組みたい課題の1つは、SENSEI NOTEの「ネイティブアプリケーション版」の開発だという。現時点でSENSEI NOTEはWebサービスでの提供のみ。スマートフォンやタブレットで直接実行するネイティブアプリと比べると、どうしても動作のレスポンスなどの操作性で劣る。スムーズに動作するネイティブアプリを用意すれば、より幅広い教員にとって使いやすくなると考えられる。
加えてメッセージ機能を拡張し、特別なアプリをインストールしなくてもWebブラウザだけでビデオチャットができる機能の提供も検討中だ。「離れた場所にいる教員同士が複数人集まってオンライン討論をするといった使い方を手軽に提供したい」と浅谷氏は考えている。同様のサービスには米Googleの「ハングアウト」などがあるが、「Googleアカウントの登録などハードルが高い」と浅谷氏は指摘。「もっと多くの教員が気軽に使えるサービスを提供したい」と説明する。
将来的には、SENSEI NOTEの海外展開も視野に入れているという。「教育系の情報共有サイトの多くは、海外、主に米国で発達しており、最近では国内展開するものも出始めてきた。その逆パターンを実現したい」(浅谷氏)
SENSEI NOTEに込めた思い:「先生が生き生きと働ける社会」を実現したい
浅谷氏がSENSEI NOTEを開発するきっかけになったのは、教員をしている友人と10年振りに再会し、「教員という仕事のやりがい」だけでなく、「教員が抱える課題や悩み」を聞いたことだったという。2013年3月に浅谷氏は、クラウドファンディングサイト「READYFOR?」で創業資金の調達に成功。2013年5月にSENSEI NOTEの試験運用を開始した。反響は非常に大きく、大手経済紙やテレビ番組もSENSEI NOTEを取り上げるなど、急速に注目を集めた。
「SENSEI NOTEで目指すのは『先生が生き生きと働ける社会』の実現。教員にとって欠かせないインフラサービスといわれるようなサービスになるよう、SENSEI NOTEの価値を高めていきたい」と浅谷氏は意気込む。
教員限定のコミュニティーを売りにしたSENSEI NOTE。SENSEI PORTALと合わせ、教育系の製品/サービスを持つ企業やNPO法人、研究機関などと学校との橋渡しの役割を担う可能性も出てくるだろう。日々の悩みを抱える教員を「支え抜く」インフラとして、SENSEI NOTEが成長していくことに期待したい。
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