IFRSを英語で読んでみましょう【IFRS】IFRSで学ぶ会計英語【1】

IFRSを深く理解しようとすると避けられない英語。英語に苦手意識を持つ人もいますが、これを機に会計英語に触れてみませんか。シンプルなIFRSの英語を教材に、前向きに、かつ楽しく、皆さんの英語力を向上させたいと思います(フレームワークの掲載はFair UseとしてIASBの承認を得ています)。

2010年09月21日 08時00分 公開
[茶田佳世子,リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社]

 2009年6月に国際財務報告基準(IFRS、以下IFRS)の採用に向けたロードマップが公表され、経理部門の人たちは、グローバルスタンダードであるIFRSへの対応だけでなく、「IFRSを学ぶなら、まず英語の原文に当たれ」「これからは経理部も英語でコミュニケーションが取れるように」と、英語とも無縁ではいられなくなってきました。

 しかし、日常業務だけでも忙しいのに、“いきなり英語でIFRSを学べ”といわれても……と思っている人も少なくないと思います。

 実は、IFRSの英文は、英語を母国語としない人々に、なるべく容易に理解できるように工夫されているため、構文はいたってシンプルであり、通常の英語教育を受けた日本人であれば意外と簡単に読むことできます。

 いままで英語には縁がなかった人も、いままで英語を避けてきた人も、IFRSを使って英語を身近なものにしてみませんか? この機会を、英語力を高めるためのチャンスと捉えて、前向きに、かつ楽しく、皆さんの英語力を向上させたいと思います。

IFRSで英語と会計を同時に学ぼう

 舞台は、エレクトロニクス機器の製造・販売を手掛ける中堅一部上場企業の経理部です。連結対象となる海外子会社もあり、全世界に販売拠点や工場を有しています。経理部に配属されて4年目の前田潤くんは小田隆夫課長率いるIFRS推進プロジェクトのメンバーに任命されました。それをきっかけに、昨年まで香港の子会社に駐在していた経理部初の女性係長、高島亜由美さんと一緒にIFRSで英語と会計を同時に学ぶという一石二鳥企画を始めます。

高島さん:前田くん、今日も夜遅くまでご苦労さま。

前田くん:景気が回復しないおかげで、経理部もぎりぎりの人数で業務を回さないといけないので、息つく暇もありませんよ。

高島さん:しかも、前田君はIFRS推進プロジェクトのメンバーに任命されたしね。

前田くん:そうなんです。リーダーの小田課長から今月中に何か始めるようにと言われているのですが、正直なところ何から手をつけたらよいのか……。

高島さん:私たちの規模くらいの会社は、来年度からプロジェクトを本格的に立ち上げても遅くないような気もするけど?

前田さん:プロジェクトの本格稼働は、まだ少し先になるとは思いますが、今まで無料セミナーにさんざん参加して情報収集してきただけに、小田課長は、もうそろそろ何か始めないと落ち着かないみたいなんです。

高島さん:なるほどね。まだ本格稼働までに時間があって、概論がうっすらとでも理解できているのなら、IFRSを原文で読んでみたらどうかしら?

前田くん:確かに、これからの時代は、経理部門といえども英語でコミュニケーション能力は必須なんて雑誌に書いてありましたし、それは、良いアイデアかもしれませんね。

高島さん:IFRSで会計と英語を一緒に学べるなんて、忙しい前田君にはちょうどいいじゃない?

前田くん:「一石二鳥」は、僕の座右の銘です。じゃあ、まずはフレームワーク辺りから始めてみます。

(数日後)

高島さん:前田くん、例の勉強は進んでる?

前田くん:はい。ばっちりです。

高島さん:では、問題です。「フレームワーク」について説明してください。

前田くん:いきなりですか……。えっと、「フレームワーク」とは、IASB(注)が作成した財務諸表の作成および表示の基礎をなす諸概念を……。

(注)IASBとは、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Boards)の略称で、IFRSの改廃および新規作成を行うことを主な任務としている。

高島さん:ちょっと待って。日本語じゃなくて英語で。

前田くん:え〜。無理ですよ。 高島係長が言っていたように、IFRSは平易な英文で書かれているので、何とか僕でも読めましたが、その内容を英語で説明するとなると話は違いますよ。

高島さん:理解したと言っても、それを知らない人にちゃんと説明できないと、本当に理解したことにならないというのが小田課長の口癖でしょ。私たちの会社には海外の子会社がいくつもあるし、まずはIFRSの大切な個所だけを英語で言えるようにしてみたらどうかしら?

前田くん:言うは易し、行うは難し、というような気もしますが、だまされたと思って、まずは挑戦してみます。

高島さん:前向きでよろしい。では、あらためて。「フレームワーク」とは何ですか?

前田くん:The Framework sets out the concepts that underlie the preparation and presentation of financial statements for external users. (Framework 1)

  • 財務諸表: financial statements,
  • 作成および表示: preparation and presentation

訳:フレームワークは、外部の利用者のための財務諸表の作成および表示の基礎をなす諸概念について記述しています。


高島さん:「フレームワーク」自体は、会計基準なの?

前田くん:違います。フレームワークは、財務諸表の作成および表示の基礎をなす諸概念を説明した文書で、IFRSに特定の基準または解釈基準が存在しない場合に参照することとされています。

高島さん:では、具体的に「フレームワーク」には何が書かれているの?

前田くん:The Framework deals with (a)the objective of financial statements, (b)the qualitative characteristics that determine the usefulness of information in financial statements, (c)the definition, recognition and measurement of the elements from which financial statements are constructed and (d)concepts of capital and capital maintenance. (Framework 5)

  • 目的:objective
  • 質的特性: qualitative characteristics
  • 有用性:usefulness
  • 定義、認識および測定:definition, recognition and measurement
  • 資本および資本維持:capital and capital maintenance
  • 概念:concept

訳:フレームワークでは、(a)財務諸表の目的、(b)財務諸表における情報の有用性を決定する質的特性、(c)財務諸表を構成する要素の定義、認識および測定、そして(d)資本および資本維持の概念を取り扱っています。


高島さん:「質的特性」って日本語でも聞きなれない言葉だけど、つまり、どういう財務情報ならば、利用者にとって役に立つのかということかしら。

前田くん:そうです。

Qualitative characteristics are the attributes that make the information provided in financial statements useful to users. The four principal qualitative characteristics are understandability, relevance, reliability and comparability. (Framework 24)

  • 属性:attributes
  • 理解可能性:Understandability
  • 目的適合性:relevance
  • 信頼性:reliability
  • 比較可能性:comparability

訳:質的特性とは、財務諸表が提供する情報を利用者にとって有用なものにする属性で、4つの主要な質的特性は、理解可能性、目的適合性、信頼性および比較可能性です。


 高島さん:4つの質的特性についてもう少し教えてくれるかしら?

前田くん:すみません。ちょっと休憩してもいいですか?

高島さん:ここからは、そんなに難しいところじゃないから、頑張って続けましょう。

前田くん:はい……。分かりました。では、理解可能性から。

An essential quality of the information provided in financial statements is that it is readily understandable by users. (Framework 25)

訳:財務諸表が提供する情報の重要な特性は、その情報が利用者にとって理解しやすいということです。


前田くん:次は、目的適合性。

To be useful, information must be relevant to the decision-making needs of users. (Framework 26)

訳:情報は、それが有用であるためには、利用者の意思決定のためのニーズに目的適合性のあるものでなければならない。


前田くん:それから、信頼性。

To be useful, information must also be reliable. (Farmework 31)

訳:情報は、それが有用であるためには、信頼しうるものでなければならない。


前田くん:最後が、比較可能性ですね。

Users must be able to compare the financial statements of an entity through time in order to identify trends in its financial position and performance. (Framework 39)

  • 各期を通じて: through time
  • 〜の趨勢: trends in
  • 財政状態および業績:financial position and performance

訳:利用者は、企業の財政状態および業績の趨勢を明らかにするために、各期を通じて企業の財務諸表を比較できなければならない。


前田くん:高島係長……。僕はもう限界です。

高島さん:英語への拒否反応が出る前に、今日はここで終わりにしましょうか。

前田くん:ありがとうございます。でも、専門用語さえ知っていれば、思ったよりも難しくないかもしれませんね。

高島さん:では、今日のおさらいです。4つの例文を毎日、英語でつぶやいてみましょう。

高島係長のおさらい

  1. フレームワークは、財務諸表の作成および表示の基礎をなす諸概念について記述している。(Framework 1)
  2. フレームワークでは、財務諸表を構成する要素の定義を取り扱う。(Framework 5)
  3. 主要な質的特性は、理解可能性である。(Framework 24)
  4. 利用者は、企業の財政状態および業績の趨勢を明らかにするために、各期を通じて企業の財務諸表を比較できなければならない。(Framework 39)
  5. The Framework sets out the concepts that underlie the preparation and presentation of financial statements.
  6. The Framework deals with the definition of the elements from which financial statements are constructed.
  7. The principal qualitative characteristic is understandability.
  8. Users must be able to compare the financial statements of an entity through time in order to identify trends in its financial position and performance.

この連載は、いままで英語に触れる機会の少なかった方を対象としています。英語が堪能な方にはちょっと物足りないかもしれません。余力のある方は、取り上げた条文の周辺について原文で読んでみると、さらにIFRSについての理解が深まると思います。

 原文は、IASBのWebサイトにて、ユーザー登録すれば、無料で閲覧できます。語学学習は、継続が大切です。無理せず、楽しく続けていきましょう。

出典:「2010 International Financial Reporting Standards IFRS as issued at 1 January 2010」

国際会計基準委員会財団[編]/企業会計基準委員会[監訳]/公益財団法人財務会計基準機構[監訳]「国際財務報告基準(IFRS)2009」(中央経済社:2009年12月)

茶田 佳世子(ちゃだ かよこ)

リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社

ディレクター(クライアントサービス) 公認会計士

国内大手監査法人にて主に日本を代表する自動車メーカーおよびそのグループ会社の監査を担当した後、米国留学。会計学修士取得。帰国後、日本アイ・ビー・エムに入社し、M&A、子会社・関係会社戦略策定に関わる。2004年よりリソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパンにて外資・日系グローバル企業への会計・経理・内部統制のプロジェクトに多数携わる。共著に「IFRS経理規程の実務マニュアル」(中央経済社)。


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