【IFRS】月刊IFRSフォーラム【15】
2月:「包括利益」に戸惑わないために
新しい利益概念として日本の会計基準に導入される「包括利益表示」。日本基準をIFRSに近づけるコンバージェンスの一環として導入されますが、新しい考え方のために財務諸表の作成者、利用者とも戸惑いがあるようです。企業はどう考えるべきなのでしょうか。1、2月の記事ランキングと合わせて紹介します。
純資産の変動が利益に
2011年3月期の年度決算から日本の会計基準で適用される「包括利益表示」が注目されています。損益計算書のボトムラインが従来の当期純利益から包括利益に変わることで、企業のビジネスへのさまざまな影響があるでは、と言われています。包括利益をどう考えればいいのか、有限責任監査法人トーマツが行った説明会から読み解いてみましょう。
包括利益とはIFRSフォーラムのこれまでの記事(考え方の転換が必要な財務諸表の表示と作成)でも解説してきましたように「特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引に由らない部分」と定義されています。IFRSや米国会計基準で導入されている利益概念で、日本の多くの企業では2011年3月期の年度決算から連結財務諸表に適用されます(個別財務諸表への適用は6月末までに判断)。
包括利益は「当期純利益+その他の包括利益(OCI)」で表現されます。注目されているのはこのOCI。OCIは、例えば投資有価証券の含み損益の当期増減額など、その時々の市場環境などによって増減する要素を含みます。OCIはその他に為替換算調整勘定、繰延ヘッジ損益を含みます(持分法を適用する被投資会社のその他の包括利益に対する投資会社の持分相当額は、一括して区分表示)。
トーマツの東京事務所 IFRSアドバイザリーグループ 公認会計士の石井希典氏は「金利、為替、株価の変動の影響が加味された包括利益は、資産の時価変動リスクが投資家など財務諸表利用者から見えやすくなる」と指摘します。そのため、「企業は持ち合い株式の保有目的や効果について、従来以上に丁寧な説明が必要」と言います。
包括利益は当期に確定された利益だけではなく、未実現の損益、もしくは将来の損益を含めて開示する利益概念と言えるでしょう。確かに投資家にとっては企業の将来を含めて損益の状況を見ることができる、と言えるかもしれません。同時に期間損益に将来の情報を入れ込む包括利益に違和感を持つ企業の意見も理解できます。
2つの計算書方式
では、その包括利益はIFRSを適用している欧州で活用されているのでしょうか。トーマツの丸の内オフィス 監査・ERS業務本部 IFRSセンター・オブ・エクセレンスのシニアマネジャーで公認会計士の石原宏司氏は欧州の状況について「包括利益は純利益に取って代わっているのかというと、実際はそうなっていない」と説明します。アナリストなどの財務諸表利用者の間で重要視されているのは当期純利益や営業利益などの従来の利益だと言います。ただ、包括利益の中でOCIについては注目されていると言います。「(企業内で)どういうことが起きているかを理解するのに有益」(石原氏)だからです。
日本の包括利益表示では、包括利益を表示する計算書として当期純利益を表示する損益計算書と、包括利益を表示する包括利益計算書の2つで構成する「2計算書方式」(「連結損益計算書」と「連結包括利益計算書」)と、当期純利益と包括利益を1つの計算書で表示する「1計算書方式」(「連結損益および包括利益計算書」)の両方が認められています(IFRSも同様)。
1計算書ではまさしく損益計算書のボトムラインが包括利益になるため、どうしてもその数値に注目が集まります。「一覧性、明瞭性、理解可能正当において利点がある」(石井氏)。対して、2計算書方式は当期純利益と包括利益が別々に表示されるため、従来の財務諸表に慣れた財務諸表利用者にとっても違和感が少ないでしょう。企業が包括利益を捉えて、どのような開示を行うのか。そして利用者がどう反応するのか。注目しています。
1、2月掲載記事のランキング
それではIFRSフォーラムで2011年1月、2月に掲載した記事のランキングと、ニュース記事のランキングを紹介しましょう。
IFRSを学ぶ上で必須と言われる原文の読解。この連載では簡単な会計英語を紹介しつつ、IFRSのフレームワークを学べるようにしています。第3回のテーマは「IFRSの測定アプローチ」。高島亜由美さん、前田潤くんの対話形式による進行で、IFRS原文に触れることができます。
IFRSの会計基準を解説する連載の最終回です。この回では、IAS第21号「外国為替レート変動の影響」、加えて日本基準で2011年4月1日以後開始する事業年度から導入される「会計上の変更および誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」について解説します。
今春からIFRS適用プロジェクトを開始する企業の担当者にぜひ読んでいただきたい記事です。IFRSプロジェクトを「5W+1H」で解説します(第1回記事はこちら)。この回では「誰が、いつ、どう進めるか」に絞ってプロジェクトの進行を具体的に解説します。
4位:IFRSの外貨換算:機能通貨が連結プロセスを一変させる
海外グループ会社を持つ親会社への影響が大きいとされるIFRSの「外貨換算」を解説します。会計基準はIAS第21号「外国為替レートの変動による影響」。基準の内容はもちろん、影響を受ける業務プロセスやITシステムについて深く解説します。
4位に入った連載記事の8回目です。テーマは従業員給付。従業員給付は損益への影響が大きく、あらゆる企業が対象となると言います。対象となる会計基準はIAS第19号。記事では会計基準のポイントを解説し、具体的な対応方法を説明します。IFRSの基準の中でも従業員給付は注目されていて必見です。
ニュース記事ランキング
1月、2月のニュース記事ランキングは以下です。企業財務会計士や内部統制報告制度改定についての記事が注目を集めました。
- 1位:「企業財務会計士」が2013年試験から開始、受験生の生活設計に影響も
- 2位:「IFRSへの対応遅延」が企業リスクに、トーマツ調査
- 3位:未就職の公認会計士試験合格者を中国に、あずさ監査法人が支援
- 4位:金融庁、内部統制“簡素化”の意見書案を公表
- 5位:HOYAが2011年3月期からIFRS任意適用へ
- 6位:IFRS強制適用への期待の表れか——IASBが東京オフィス設置を発表
- 7位:日本板硝子がIFRS適用に向けた説明資料を公表
- 8位:じわり始まったIFRS強制適用に向けた議論
- 9位:ディーバ、連結決算業務の代行を開始
それではまた来月、お会いしましょう!
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