IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月はIASBによる連結財務諸表に関連する新たな基準の公表や、ASBJおよびSECの最近の動向など、多数の注目情報を紹介する。
2011年は、MoUによる多くの検討項目が基準化される年であるとともに、アメリカにおけるIFRS導入に関する決定の行方が注目されている年でもある。IFRS Watch第3回は、5月中に公表されたIFRS関連情報から注目すべきものをピックアップしている。今回も、IASBによる連結財務諸表に関連する新たな基準の公表や、ASBJおよびSECの最近の動向など、多数の注目情報がリリースされている。
ASBJ:企業会計基準委員会
FASB:米国財務会計基準審議会
IASB:国際会計基準審議会
IFRS:国際財務報告基準
MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意
SEC:米国証券取引委員会
ASBJはIASBの公開草案「金融資産と金融負債の相殺」の中で募集されている5つの質問に対するコメントを公表した。同公開草案は、金融資産・金融負債の相殺について、それらの純額決済・同時決済の意図および相殺する権利を持つことなど一定の要件を満たす場合に、相殺しなければならない旨を規定している。ASBJのコメントによると、基本的には同公開草案を支持する立場を取っている。ただし、注記事項については、公開草案の要求する情報を開示するためのコストが大きいとの懸念があったとして、費用対効果の観点から、注記対象を修正すべきとの提案がなされている。
各IFRSの概要は、以下の通りである。
従来、連結範囲に含めるか否かの判断について、IAS第27号「連結及び個別財務諸表」においては支配概念、SIC(国際会計基準解釈指針)第12号「連結−特別目的事業体」ではリスク経済価値アプローチが採用されていた。IFRS第10号においてはこれを一本化し、支配の有無の判断につき、全てのタイプの被投資会社について、単一の支配モデルを提供する。具体的には、支配は(1)パワー、(2)リターンの変動性についてのエクスポージャー、(3)パワーとリターンのリンクの3要素により判定される。この他にもIFRS第10号においては既存概念についてのガイダンスが提供されている。
従来、共同アレンジメントについては、IAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」により共同支配の営業活動、共同支配の資産、共同支配企業の3つに区分していた。IFRS第11号においては、これをジョイント・オペレーションとジョイント・ベンチャーの2つに区分することとした。支配と義務に照らして、分離されたビークルを通じて構成されていない場合、または実質的に分離されていないとみなされる場合については、ジョイント・オペレーションとして区分される。実質的にも分離されたビークルを通じて構成されていると判断される場合についてはジョイント・ベンチャーに区分される。前者は資産・負債を勘定科目ごとに会計処理し、後者は持分法により処理されることとなった。
子会社、関連会社、共同アレンジメント、非連結仕組事業体についての開示事項をIFRS第12号は規定している。これは、IAS第27号およびSIC第12号において規定されていた開示事項を拡充し、それらにおいては開示が要求されていなかった非連結仕組事業体についての開示を要求するものである。
IASBは5月12日、FASBと共通の公正価値測定と開示要求事項であるIFRS第13号 「公正価値測定」 を公表した。このIFRS第13号は、既にある公正価値によって測定することを要求、ないしは許容する他の基準を変更するものではなく、当該他の基準を適用する際における公正価値の測定方法と開示の要求事項を提供するものである。本基準は、公正価値を出口価格と定義し、出口価格という定義と整合した測定方法と開示の要求事項を提示している。本基準により、他の基準間において必ずしも整合していない公正価値の測定と開示の要求事項が単一の基準として整理されることとなった。
2010年6月に公表された「顧客との契約から生じる収益」の公開草案では、収益を認識する単位である履行義務別に不利(収益がコストを下回ることが見込まれるような場合)であるかどうかを検討し、履行義務が不利となる場合には、負債およびそれに対応する費用を認識することが求められていた。しかし、1つの契約で複数の履行義務が存在し、契約全体では利益であるが、1つの履行義務では利益で、別の履行義務で損失である場合には、当該損失の履行義務について費用を認識しなければならない。そのため、公開草案に対するコメントでは、履行義務単位でコストをひも付けするのは難しく契約全体で利益の場合まで認識するのはおかしいのではないかとのコメントがあった。
このような指摘を受けて、IASBおよびFASBは、不利テストの適用を、時の経過とともに充足する長期間のサービス契約などの履行義務に制限すると暫定的に決定した。さらに、IASBおよびFASBは、不利テストを適用するときに企業が検討の対象とすべきコストは、以下の(1)と(2)の低い方のコストとすると暫定的に決定した。
a. 顧客に直接サービスを提供する従業員の給与や賃金などの直接労務費
b. 顧客へのサービス提供で用いられる消耗品などの直接材料費
c. 契約管理のコストおよび契約履行に用いられる器具および備品の減価償却費などの契約、または契約活動に直接関連するコストの配分額
d. 契約上、明示的に顧客に請求可能なコスト
c. その他のコストで、企業が契約を締結したことのみが理由で発生したもの
SECから公表されたスタッフ・ペーパーは、今後米国においてIFRSへの移行が決断された場合の移行方法の1つとして、いわゆる「コンドースメント」アプローチを詳細に検討しており、これについての意見を求めるものとなっている。
コンドースメントとは、「コンバージェンス(convergence)」と「エンドースメント(endorsement)」を組み合わせた造語であり、2010年12月にワシントンD.C.で開催された米国公認会計士協会の全米会議で、ポール・ベスウィック氏(SECの次席アカウンタント)により提案された。
コンバージェンスとは、IFRSで新しい基準が作成された場合、その都度、重要な差異がないよう自国の会計基準を修正していくことを指す。一方、エンドースメントとは欧州連合(EU)などで採用されており、IFRSを各国で採用するために承認手続きを設定する方法を指す。
本ペーパーでは、コンドースメント・アプローチは、実質上、他の国や地域におけるIFRS導入アプローチと共通の特徴を持つエンドースメント・アプローチであると結論付けている。しかし、移行期間の間に、米国の米国会計基準設定主体であるFASBを保持しながら、IFRSと米国会計基準との既存の差異に対処するために、コンバージェンス・アプローチにより、一定の定められた期間(例えば、5年から7年)にわたってIFRSを米国会計基準に取り込むものとしている。移行期間の終わりにおける目標は、米国会計基準に準拠する米国の発行企業体が、IASBにより公表されるIFRSにも準拠していると表明できる状況になるべきということである。
本ペーパーにおける議論は、今後米国がIFRSへ移行することを決定することを示唆するものではないとしているが、ここでの議論が今後のSECの意思決定に大きな影響を及ぼすものとなることは間違いないだろう。SECは、スタッフ・ペーパーに対するコメントを2011年7月31日まで募集している。
東京大学工学系研究科修士課程を修了後、東レ株式会社にエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。公認会計士試験合格後、東京北斗監査法人(現仰星監査法人)に入所。2005年より全米5位の会計事務所であるRSM McGladreyのマンハッタン事務所に出向後、2009年に帰国し現在に至る。現在は、国際会計基準への移行支援業務及び研修、所属する国際ネットワークへの対応業務、国際的な監査業務などに従事している。
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