2011年07月25日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】忙しい人のためのIFRS Watch【4】2011年7月:SEC、一部企業にIFRSの「オプト・アウト」を認める可能性

IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月はSECによるIFRS適用に関する新しい方針、日本のIFRS強制適用についての判断など、多数の注目情報を紹介する。

[本田直誉,仰星監査法人]

 2011年は、MoUによる多くの検討項目が基準化される年であるとともに、米国におけるIFRS導入に関する決定の行方が注目されている年でもある。IFRS Watch第4回は、6月中に公表されたIFRS関連情報より注目すべきものをピックアップ。今回は、米国ではSECが一部企業に「オプト・アウト(IFRS非適用の選択肢)」を認める可能性について議論し、日本では2015年3月期からとされていたIFRS強制適用について事実上の延期が表明されるなど、注目情報がリリースされている。

記事内の略号

ASBJ:企業会計基準委員会

FASB:米国財務会計基準審議会

IASB:国際会計基準審議会

IFRS:国際財務報告基準

MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意

SEC:米国証券取引委員会


・2011年6月3日 IFRS解釈指針委員会の委員任命(ASBJプレスリリースより)

 IASBの運営母体であるIFRS財団は、IFRS解釈指針委員会の新委員に湯浅一生氏(富士通 財務経理本部IFRS推進室長)を任命した。これまでIFRS解釈指針委員を務めていた鶯地隆継氏(住友商事 フィナンシャルリソーシズグループ長補佐)がIASBの理事に就任するため、湯浅氏が後任として任命された。湯浅氏の任期は鶯地氏の解釈指針委員会での任期の残り期間である1年であるが、再任される可能性がある(参考記事:IFRS解釈指針委員会に富士通の湯浅氏を任命 )。

 IFRS解釈指針委員会は、産業界出身者などの委員14人で構成され、IFRSの解釈が問題となった場合にその解釈指針(IFRIC解釈指針)を作成する機関である。

・2011年6月15日 IASBとFASBが収益認識に関する公開草案の再公表で合意(IASBプレスリリースより)

 IASBとFASBは収益認識に関する公開草案を再公表することで合意した。IASBでは2010年6月に収益認識に関する公開草案を公表していたが、その後FASBとの議論を重ね、第2公開草案を公表することを明らかにした。第2公開草案は2011年の第3四半期(7-9月)に公開予定としている。

 IASBとFASBの収益認識についての暫定的な決定事項については過去の「IFRS Watch」を参照されたい。

・2011年6月16日 IASB 退職後給付の改善を導入(IASBプレスリリースより)

 IASBは、IAS第19号(従業員給付)の修正の発行により退職後給付会計の改善プロジェクトが終了したことを発表した。主な改正点は、以下の3点である。

(1)従来、コリドー方式(回廊方式とも呼ばれる数理計算上の差異の遅延認識を認める方法)の選択が認められていたが、OCI(その他包括利益)で即時認識する方法のみを認めることにより比較可能性と表示の忠実性を高めた。

(2)確定給付制度の資産・負債の変動から生じる変動の表示方法が改編された。これにより、基礎率の変更等による再測定に伴う変動は当期純損益ではなくOCIで表示することになる。この表示の改編によって、財務諸表の利用者は、企業の日常活動から生じる変動と再測定による変動を区分することが可能となる。

(3)企業が採用する確定給付制度の内容開示が拡充されることとなった。具体的には、企業が採用する制度の特徴や、当該制度を採用することによって企業が晒されるリスクについての開示が要求されることとなる。

・2011年6月16日 IASBとFASBは、OCI(その他包括利益)の開示要求事項を統一(IASBプレスリリースより)

 IASBとFASBは、それぞれ、IAS第1号の改正、Topic220の更新により、OCI(その他包括利益)の開示要求事項を統一した。注目すべき点は、以下の2点である。

(1)IAS第1号の改正に当たって、公開草案においては1計算方式への統一が求められていたが、改正後のIAS第1号においては、1計算書方式のみならず、これまで通り2計算書方式による開示も引き続き認められることとなった。

(2)OCI(その他包括利益)のうち、将来純損益を通じてリサイクリングされることが予定される項目と、リサイクリングされることが予定されない項目を区分して表示することとなった。

・2011年6月29日 SECコミッショナー、IFRSを採用するに当たって一部の発行企業に「オプト・アウト(IFRS非適用の選択肢)」を認める可能性について議論(SEC Speech by SEC Commissionerより)

 SECのコミッショナーであるキャサリン・ケイシー氏は、2011年6月29日に開催された米国コロラドにおけるSociety of Corporate Secretaries and Governance Professionals第65回年次会議の基調演説で、米国におけるIFRS採用への強い支持を表明するとともに、一部の発行企業に対してオプト・アウト(IFRS非適用の選択肢)を認める可能性について議論した。

 演説の中で、ケイシー氏は、「委員会は2011年中にこれらの疑問(米国の財務報告制度へのIFRS組み込みの可否)に対する決断を行う予定であり、決断をこれ以上先延ばしすることはできない」とし、「委員会は米国発行企業のためにIFRSを組み込む決断をすべきである」と述べた。

 また、「2008年11月に『ロードマップ』を最初に公表して以来、小規模な報告企業および国際的な事業やそのような意思を持たない他の企業からは、IFRSへの移行は大きな負担であり、同等のベネフィットが得られることなくコスト負荷になるという懸案が表明されている。私はこれらの懸案はもっともだと考えており、個人的な見解としては、これらの発行企業に対して、永続的でないにしても、少なくとも当初はIFRSを適用しないことを認めることが適切であると考えている。選択肢を提供することで、IFRSのベネフィットが維持されるとともに、IFRSの開発および保護に係る米国の継続的な影響力が確保され、かつ小規模の米国発行企業に対する不必要なコストが回避されることになる」とも述べた。

 さらに、オプト・アウトを認めることは「2つのGAAP」につながるとする反対意見に対して同氏は、「われわれは既に『2つのGAAP』の世界におり」「われわれの資本市場のグローバルな性質を考慮すると、投資家、公認会計士、および他の市場参加者は、U.S. GAAPとIFRSの両方を知らなければならない状況となっている」と述べ、オプト・アウトを認めることの正当性を主張した。

・2011年6月30日 退職給付基準の適用時期の検討(ASBJ 企業会計基準委員会の概要より)

 ASBJは、国際的な会計基準見直しの議論と歩調を合わせて中長期的に取り組むこととして、平成22年3月に退職給付基準の公開草案を公表している。当該公開草案における従来の基準からの主な改正点は、以下の3つである。

(1)未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の処理方法の見直し(未認識項目の一括負債計上)

(2)退職給付債務および勤務費用の計算方法の見直し

(3)開示の拡充

 上記(2)を除く退職給付の最終基準化は、2010年第4四半期(10〜12月)を当初予定し、2011年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表からの適用を検討していたが、現在も審議が継続中であることから、公開草案で提案した適用時期をあらためて検討することとしている。今回の会議では、新基準の適用時期について当初から1年遅らせることが議論された。

・2011年6月30日 IFRS適用に関する検討(金融庁 企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議より)

 日本におけるIFRSの適用に関して、金融庁は2009年6月に「IFRS強制適用に関する判断時期を2012年とし、強制適用する場合、2015年または2016年からIFRSの適用を開始する」としていた。だが、合同会議で金融庁の自見庄三郎担当大臣は、(1)少なくとも2015年3月期についての強制適用は考えておらず、(2)仮に強制適用する場合であってもその決定から5〜7年程度の十分な準備期間の設定を行うこと、(3)2016年3月期で使用終了とされている米国基準での開示は使用期限を撤廃し、引き続き使用可能と、することとした(参考記事:2年前に逆戻りしたIFRS議論——大幅増員した審議会で結論は?)。

 これは会計基準の国際化の重要性を否定するものではなく、(1)2011年5月にSECが、IFRSの適用につきアドプションではなくコンバージェンスの方法によって、一定の定められた期間(例えば5〜7年)の時間をかけて移行することを表明したこと、(2)日本における東日本大震災の発生、(3)インドでのIFRS全面アドプションの中止および2010年4月に予定していた一部企業へのIFRS適用の延期、など内外の情勢が激変している中で、経済活動に対する不要な負担・コストが発生することがないように、臨機応変かつ、慎重かつ柔軟に対応の見直しを行うことが必要と考えられ、国際的な要請を見極めつつ、国全体の経済活動の活性化との両立を図っていくことが重要なためである。

 今後は企業会計審議会において、2009年6月に公表された「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」の見直しを行い、IFRS強制適用の時期やコンバージェンスの方向性、単体財務諸表へのIFRS適用などについて検討を行っていく予定である。

本田直誉(ほんだ なおたか)

仰星(ぎょうせい)監査法人 公認会計士

東京理科大学理学部卒業。東京北斗監査法人(現仰星監査法人)に入所。現在は、法定監査や株式上場支援、IFRS対応支援、国際的な監査業務に従事している。共著として「図解と設例で学ぶ これならわかる連結会計」、部分執筆書に「会社経理実務辞典」(いずれも日本実業出版社)がある。


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