IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月は米国における任意適用の動向などを紹介する。
2011年も終盤となり、収益やリースの再公開草案の内容や米国におけるIFRS導入に関する議論の進捗に注目が集まっている。IFRS Watch第8回は、10月中に公表されたIFRS関連情報より注目すべきものをピックアップしている。今回は、IFRSの任意適用に関する米国の動向や、最近の公開草案に関する日本からのコメントなどの最新情報をお届けする。
【これまでの記事】
ASBJ:企業会計基準委員会
FASB:米国財務会計基準審議会
IASB:国際会計基準審議会
IFRS:国際財務報告基準
MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意
SEC:米国証券取引委員会
AICPA会長のBarry Melancon氏は、AICPA/IFRS財団カンファレンスにおける演説で、アメリカの上場企業が直ちにIFRSを任意適用できるようSECに対して強く要求する発言をした。また、当初IFRSを選択するアメリカ企業の数は少ないであろうとした上で、それらの適用例がアメリカがIFRSを適用したらどのような世界が見えるのかを示す良いお手本になるであろうと話した。
AICPAの行った調査によれば、アメリカにおける公認会計士の大半が、上場企業にIFRSの任意適用を認めることに対して支持しているとのことである。調査によれば、約54%の会員がIFRSの任意適用を支持しており、18%の会員が反対意見を表明した。また、44%の会員がSECによる最終決定がなされるまでは、IFRS適用の準備を遅らせていると答えた。
AICPAは2011年8月にアメリカの上場企業に対しIFRSを任意適用できる選択肢を与えるべきだとSECに対し提言しているが、会員の大半がこの提言を支持する調査結果となった。
SECは2011年後半において、アメリカの財務報告システムにIFRSを組み入れる方法やフェーズなどの期限設定に関し何らかの決断を公表する予定としており、SECの決断がどのようなものとなるのかが世界的に注目されている。
IASBとFASBは、間もなく改訂される顧客との契約から生じる収益の公開草案の開示要求を、企業が中間財務報告へも適用するべきかどうか議論した。委員会は、IAS第34号(中間財務報告)および、FASB Accounting Codification(FASB会計基準成文化)のTopic270を修正して、中間財務報告を作成する企業は、次の情報が重要な場合には中間財務報告で開示するべきであることを暫定的に決定した。なお、収益の情報は企業の業績および見通しを判断する上で非常に重要なので、年度の財務諸表と同様に中間財務報告でも同様の情報を開示する。
IASBは、公開草案「IFRS第9号の強制発効日」において強制発効日を2013年1月1日から2015年1月1日に延期することを提案し、コメントを受け付けていた。これに対してASBJは、強制発効日の延期について、現行のIFRS第9号の想定に沿ったものとして賛同を表明した。しかし、以下の懸念から、金融商品プロジェクトの減損フェーズなどや、保険プロジェクトによる会計基準と同時に強制発効されるよう順調に検討が進むことを要望した。
公開草案「IFRS第9号の強制発効日」のコメント期限は2011年10月21日であり、コメント結果を受けて2011年12月に修正が再発行される予定である。
IASBは、公開草案「国際財務報告基準(IFRS)の改善」を公表し、コメントを受け付けていた。ASBJは、公開草案「国際財務報告基準(IFRS)の改善」については基本的に同意しつつも、以下の論点についてのコメントを行った。
公開草案「国際財務報告基準(IFRS)の改善」においては、直近の年次財務諸表においてIFRSに準拠している旨の、明示的かつ無限定の記述がない場合にはIFRS第1号を再度適用しなければならないことを追加することが提案されている。これに対してASBJは、全ての企業についてIFRS第1号を再度適用する必要はなく、これを適用しない選択肢も認めることを提案した。例えば、過去に一度IFRS第1号を適用していた企業が、IFRSに準拠して開示されなかった期間が短い場合には、あたかもIFRSを過去から継続的に適用していたかのような処理が認められることになる。
公開草案「国際財務報告基準(IFRS)の改善」のコメント期限は2011年10月21日であり、コメント結果を受けて2012年3月に修正が再発行される予定である。
IASBとASBJは第14回目の定期会合を10月31日、11月1日に実施した。IASBとFASBの基準のコンバージェンスや改善に関する共同作業について議論が行われた。また、IASBとFASBが共同で取り組む以下のプロジェクトについても意見交換を行っている。
また、IASBが2011年7月に公開した「アジェンダ協議 2011」についても意見交換を実施した。
一橋大学商学部卒。監査法人朝日新和会計社国際事業本部アーサー・ヤング(現新日本有限責任監査法人アーンストアンドヤング)、監査法人芹沢会計事務所(現仰星監査法人)にて会計監査業務に携わる。現在は、国際業務の責任者として、国際会計基準への移行支援業務及び研修企画、所属する国際ネットワークへの対応業務、国際的な監査業務などに従事している。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)、「ケーススタディで見るIFRS」(社団法人金融財政事情研究会)がある。
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