仮想環境の事業継続製品 選定ポイント【第1回】
VMware環境のBCP/DR対策で陥りやすい失敗
従来は高度な技術や高価な製品が必要だった事業継続計画(BCP)/災害復旧(DR)対策も、最近は仮想環境の導入や技術の進歩によって身近なものとなってきた。VMware環境のDRで陥りやすい失敗、DRの仕組みなどを解説する。
本連載「仮想環境の事業継続製品 選定ポイント」では、仮想環境の事業継続を実現するための方式と製品の選定ポイントについて解説する。対象となるのは、下記に挙げる読者である。
- 災害などによる広範囲なシステム障害の発生を想定し、遠隔地へデータ複製を行うことでデータを保護したい方
- 上記に加え、サービスの復旧時間を短縮するため、サイト間でシステムの切り替えを行いたい方
事業継続を考える上で、データセンター内やローカルサイト内でのバックアップ(データ保護)や高可用性(HAクラスタ)の仕組みや考え方を理解することは欠かせない。そのため、下記2つの連載も合わせて参照していただきたい。
なお、本連載では「ITによる災害対策(DR)/事業継続計画(BCP)」を、便宜上「DR」と表現することにする。
第1回の内容は下記の通りである。
- DR検討で陥りやすい失敗
- DRを構成する仕組み
- 保護対象、復旧要件、予算の検討
DR検討で陥りやすい失敗
DRとは自然災害などで被害を受けたシステムを復旧/修復することである。また、そのための備えとなる機器やシステム/体制も含めて指すこともある。
DRを実現するための構成を検討するに当たり、陥りやすい失敗がある。DRの方式を検討する前に、各メーカーやシステムインテグレーター(SIer)の製品紹介を聞き、製品比較を始めてしまうという失敗である。方式を決定せずに製品を比較すると、比較対象に方式の異なる製品が混在してしまい、比較のポイントがぶれてしまう。その結果、要件ではなくコストのみで製品を選定してしまいかねない。
最終的には製品/ソリューション(製品の組み合わせ)を選択しなければならない。そのため、製品について学ぶ際に製品紹介を聞く必要があるが、DRの仕組みを理解した上で想定するDR方式が念頭にあると、的確かつ具体的な質問もしやすく、製品/技術への理解がより進むはずである。
DRを構成する仕組み
DRを構成する仕組みは2つある。データレプリケーションとグローバルクラスタである(※)。
※ その他にネットワークの切り替えも必要だが、本連載では言及しない。
データレプリケーション
データレプリケーションとは、データをリモートサイトに複製して保護する仕組みである。DRで最も重要なことはデータを保護することである。ハードウェアは再度購入することができる。また、OSやアプリケーションは再度インストールすることができる。だが、データを失うと二度と復元することができない。
保護対象システムと同一拠点にバックアップデータを保管していると、災害やテロが発生した際に立ち入り禁止となり、そのバックアップデータを復旧に使用できないケースが考えられる。そのため、事業継続を検討する上で、バックアップデータをリモートサイトに保管することが必須であることは理解いただけるだろう。
バックアップデータをリモートサイトに保管する方式としては、以前はバックアップデータを格納したテープを運送し遠隔地の倉庫で保管することが一般的だった。現在は復旧の確実性/迅速性を高めるために、バックアップ製品のレプリケーション機能を使うことが一般的になってきている。また、コストを抑えるために、クラウドへの保管を検討しているユーザーも少なくない。
ただ、上記だけでは復旧に長時間を要してしまう。復旧時間を短縮するためには、リモートサイトにスタンバイ用の機器を設置すること、プライマリデータのレプリケーションを実施することなどを検討する必要がある。プライマリデータは仮想マシンが直接使用しているデータで、システム領域(OS領域)とアプリケーションやデータベースのデータ領域を指す。バックアップデータはプライマリデータの整合性が確保されたある時点のデータである。プライマリストレージとバックアップストレージは、保存しているデータの性質やレプリケーションに求められる機能が異なるため、それらを理解した上で、レプリケーションを設計する必要がある。
バックアップデータをリモートサイトに保管する方式、バックアップデータとプライマリデータのレプリケーション方式、それぞれの特徴、注意点については、次回以降で解説する。
グローバルクラスタ
グローバルクラスタとはローカルサイトに障害が発生した際に、リモートサイトに複製されたプライマリデータを使用して、システムを自動または半自動で復旧する仕組みである。サイト間切り替えもしくはサイト間フェイルオーバーの仕組みといえる。仮想マシンそのものを切り替えるのか、それとも両方のサイトで別の仮想マシンを起動しておき、アプリケーションのみを切り替えるのかによって、使用するグローバルクラスタ製品が異なってくる。
最近の新しい製品に、サイト間であたかも共有ストレージが構成されているかのように見えるレプリケーション製品がある。VMwareのファイルシステムであるVMFSは、複数台のESXサーバから同時にマウントできるクラスタファイルシステムである。そのため、このようなレプリケーション製品を使用するとローカルサイト/リモートサイトのESXサーバが同一のデータストアをマウントでき、サイト間をまたいだ形で1つのVMwareクラスタを構成できる。
それにより、ローカルサイト内のESXサーバ間のように、サイト間を超えてvSphere HA、vSphere vMotionで仮想マシンを切り替えることが可能になる。ストレージのレプリケーション操作を意識しないで良いため、DRの切り替え操作が非常にシンプルになる。ただ、本構成を検討する場合は、サイト間の距離、本構成を実現するストレージ/レプリケーション製品とVMwareの両方のサポート状況を必ず確認してほしい。
保護対象、復旧要件、予算の検討
保護対象、復旧要件、予算の全てが想定内であるかを検討する必要がある。ただ、災害が発生した際の保護するべき対象と復旧要件から、直接には予算に結び付けることはできない。保護対象と復旧要件から、DR方式を選定した後、製品を選定する必要がある。さらにその後に、その製品が予算に合致するかを検討し、不一致がある場合は予算を対象/要件に合わせるか、対象/要件を予算に合わせるかの対処が必要となる。
| 検討項目 | 内容 |
|---|---|
| 保護対象 | 仮想環境のみ? 物理環境もある? 対象データの種類(OS、ファイル、データベースなど)は? 容量は? |
| 復旧要件 | バックアップデータの遠隔地保管のみ? サイト間切り替えをする? 許容できる復旧に要する時間(RTO)は? 失っても構わないデータの時間の範囲(リモートサイトへのデータ複製の頻度、RPO)は? |
| 予算 | 数百万円? 数千万円? |
以前のDR方式はテープの遠隔地保管が主流だった。その中で、さらに重要なシステムは、テープの遠隔地保管と、高価なプライマリデータのレプリケーション、グローバルクラスタを併用していた。
現在は重複排除バックアップの技術の進歩により、バックアップデータのレプリケーションに加えてバックアップの高速化が進んでいる。重複排除技術は世の中に出てきてから10年近くになり安心して使用できる状況であるといえる。
ただ、ローカルサイトが全損し、リモートサイトへ切り替えが必要になるほど影響範囲が広い障害は発生確率が低い。ローカルサイト内で復旧可能な障害の方が発生確率が高いため、ローカルサイトのバックアップ、HAクラスタの構築は必要である。DR対策のみに注目し過ぎずに、ローカルサイトでの事業継続も同様に検討していただきたい。
仮想環境はサーバ、ストレージ、バックアップが統合され、物理環境と比較してもインフラが整理されていることが一般的である。そのためDRを検討しやすくなる。今までにDRを検討してきたが実現できなかった方は、まずはバックアップデータのレプリケーションから検討されてみてはいかがだろうか。
今回は、DR検討で陥りやすい失敗とDRを構成する仕組みを解説した。次回はDRを実現する方式とその特徴について紹介する。連載の最後までお付き合いいただけると幸いである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
仮想環境の事業継続製品 選定ポイント
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[日本オラクル株式会社] ピンチをチャンスに変えたEPR製品は? 先行企業の導入事例3選 -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] 無自覚なリスク 秘伝Excelファイルが監査の壁、不正・ミスの温床となる理由 -
製品資料
[日本オラクル株式会社] 戦略的経理の第一歩 失敗のない「脱Excel」を実現する秘訣とは? -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] いまさら聞けないオンプレERPとクラウドERPの違い 最適な製品をどう見極める? -
事例
[株式会社ビザスク] 連結売上高が約2倍に成長、富士フイルムが実践した新規事業創出の戦略とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
「0.3秒のスピード顔認証」の入退室管理が社員に好評 事例に学ぶオフィス改革
-
4
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
5
エンジニアの生産性はどう測る? マネジメントに不可欠な可視化の実現方法とは
-
6
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
7
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
8
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
9
「また同じ説明か」 消費者の半数が離脱するAIチャットbotの“記憶喪失”
-
10
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー