超高速ネットワークの挫折と復活【第2回】
25G/40GBASE-Tの普及を阻む「大きすぎる消費電力」(1/2 ページ)
期待は大きいのに普及が遅れている“10Gbps級”ネットワークの問題克服への挑戦を記したこの物語。ようやく問題解決の道筋が見えてくる……はずだったが。
この連載の第1回目「10Gbps通信の普及を阻んだ『高過ぎるエラー率』問題」では、、10Gbpsのデータ伝送速度を実現するイーサネット規格「10GBASE-T」の普及が遅れた理由について解説した。最近ようやく10GBASE-Tが普及しつつあるが、これはコントローラーの価格を下げる見通しがついたからだ。既に10GBASE-T準拠ネットワークカードの価格は100ドルを下回り、ネットワークスイッチもポート当たり100ドルを切った製品が登場している。過去の例でも、新しいイーサネットの規格が出たときに、ポート当たり100ドルを切ると急速に普及していた。
超高速ネットワークの挫折と復活
2002年の規格策定作業開始から15年が過ぎ、標準化完了の2006年から数えても10年以上たってしまった。データセンターあるいはサーバルーム内の接続に10GBASE-Tを使うという当初の目的は、完全に失敗した感もある。そのため普及した伝送速度1Gbpsの「1000BASE-T」を使い続けるしかないデータセンターやサーバルームでは、ラック間の接続には遅過ぎ、状況が悪くなるとラック内の接続でも伝送速度が足りない状況が続いた。
この時点で高速データ伝送を可能にする手法として「リンクアグリゲーション」(ポートトランキング)があった。リンクアグリゲーション(LACP:Link Aggregation Control Protocol)という技法で、複数の物理リンク(物理ネットワークインタフェースカード同士をつなぐ回線)を束ねて仮想的に1本の論理リンクにする。1000BASE-Tの物理リンクが2本なら2Gbps、4本なら4Gbpsの伝送速度が利用できる。これは比較的手軽に実現できる方法だが、その一方でポート数も増えるしケーブルも増える。ケーブルやポートが増えるということは、故障し得る場所が増えるという意味でもあり、システム管理者にとっては受け入れ難い。現実問題として10GBASE-Tと同じ帯域を1000BASE-Tで実現するためにはケーブル10本分の構成になる。さすがにこれでは論外と判断したIT担当者がほとんどだった。
次に登場したアイデアが、UTP(シールドなしツイストペア)ケーブル利用を諦める方式だ。10ギガビットイーサネット(GbE)には幾つかの規格がある。短距離向けだけを抜き出しても次のように4種類ある。
- 10GBASE-SR:シングルモード(単一の反射角/屈折角を利用する伝送方式)の光ファイバー(最大伝送距離300メートル)
- 10GBASE-LRM:シングル/マルチモード(複数の反射/屈折角を利用する伝送方式)の光ファイバー(最大伝送距離はシングルモードで300メートル、マルチモードで220メートル)
- 10GBASE-LX4:シングル/マルチモードの光ファイバー(最大伝送距離はシングルモードで10キロメートル、マルチモードで300メートル)
- 10GBASE-CX4:2芯同軸ケーブル4対(最大伝送距離15メートル)
光ファイバーを利用する方法は、ケーブルやアタッチメントの値段が高いという問題を別にすれば一般的になった。ただし、10GBASE-CX4は4対の同軸ケーブル構成故に、ケーブルが太くコネクターも大きいため敬遠するIT担当者が多かった。そこで「SFF-8431」というコネクターの規格を利用して、ここに10GBASE-CX4の配線を組み込んだ「SFP+ Direct Attach」(当初の名称は「10G SFP+ Cu」だった)という規格が提案されたところ、これが多くのユーザーから好評で、2010年から市場でも広く扱われるようになった。光ファイバーや10BASE-CXに比べればはるかに低価格で済む代わり、配線長は最大15メートルとラック内配線は十分でも、ラック間配線にはギリギリという特性があり、光ファイバーとSFP+ Direct Attachが混在する「適材適所」のハイブリッド構成がしばらく続いていた。
ただ、2016年から新しい動きが出ている。1つは、10GBASE-Tの普及(とコントローラーの省電力化)を待っていられないが1000BASE-Tではもう遅過ぎるというユーザーに向けたアクセス回線の改善に向けた動きで、もう1つは、サーバの高速化/高性能化に伴い10Gbpsでも遅過ぎるため、さらなる高速な規格を求める機運の高まりだ。
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超高速ネットワークへの挑戦その1「アクセス回線の変化」
アクセス回線の問題は、無線LAN規格「IEEE 802.11ac」の普及で顕在化した。このフル規格に準拠した「802.11ac Wave2」の場合、送信側と受信側がそれぞれ4本のアンテナを持つ4×4 MIMO構成だと、理論上の最大伝送速度は6.9Gbpsに達する。これは理論上の話で実効性能はこれより低いが、それでも1000BASE-Tでは足りない。しかし、ここで10GBASE-Tに置き換えようとしても、これまでの製品に10GBBASE-Tのイーサネットコントローラーを搭載するだけで価格が200ドル以上跳ね上がり、さらに本体の温度が急上昇して連続稼働時の安定性を損なうことになるため、現実的な解決策とはならない。
もう少し現実的な方法を模索する団体として「NBASE-T Alliance」という業界団体が2014年10月に発足した。創立メンバーはCisco Systems、Aquantia、Freescale Semiconductor(現、NXPSemiconductors)、Xilinxで、現在はこれにIntelとMarvell Technology Groupを加えた6社が「Promoters」、他に12社の「Contributors」と28社の「Adopters」が参加する大所帯に成長した。
NBASE-T Allianceはまず業界標準として、2.5Gbpsと5Gbpsのイーサネット関連2規格を策定し、これをIEEE(米国電気電子技術者協会)に標準化規格として提案した。最終的に「IEEE 802.3bz」として標準化し、「2.5GBASE-T」および「5GBASE-T」が正式に立ち上がった。
2.5GBASE-Tも5GBASE-Tも、高い誤り訂正能力を持つ低密度パリティ検査(LDPC:Low Density Parity Check)符号で高効率なデータ伝送を可能にするのは10GBASE-Tと共通する。異なるのは、データ伝送に使うクロック信号の周波数だ。10GBASE-Tのクロック信号は周波数200MHzの信号だが、2.5GBASE-Tは50MHz、5GBASE-Tは100MHzにそれぞれ下げている。これによって、コントローラーもLPDCに関しては動作用のクロック信号周波数を下げることが可能になり、発熱と消費電力を削減できる。また信号速度が遅くなるのでエラー訂正にもゆとりができる。LDPCだけで十分エラーを訂正できるので、10GBASE-Tで利用しているCRC-8(注1)ベースの誤り検出を省略し、信号の変調に利用していた128DSQ(DSQ:Double SquareQAM)も廃止して16PAM(PAM:パルス振幅変調)のみとなった(注2)。
※注1:誤り検出符号の「巡回冗長検査」(CRC)の一種
※注2: 16PAMは信号レベルを16段階に分けることで、1サイクルの信号で4bit相当を送信する信号変調方式。128QAMは2サイクルの信号で7bit相当のデータを送信する信号変調方式
使用するネットワークケーブルの規格も、10GBASE-Tでは「オーグメンテッドカテゴリー6」以上のケーブルが必要だった(55メートル以下なら「カテゴリー6」も利用可能)のが、誤り訂正処理を簡略化して、クロック信号周波数を下げた結果、2.5GBASE-T/5GBASE-Tでは「エンハンスドカテゴリー5」ケーブルも利用できるようになった。エンハンスドカテゴリー5のケーブルを使って100メートルの伝送が可能だ。短距離伝送なら既存のネットワークケーブルがそのまま使えるので移行でコスト的なハードルも低くなる。
最近やっと10GBASE-T準拠機器の価格が下がってきた一方で、2.5GBASE-Tや5GBASE-Tはまだ機器そのものが登場したばかりという段階だから、価格はまだ高い。ただし今後普及すれば、10GBASE-Tより値段が下がると期待する意見をよく聞く。
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超高速ネットワークの挫折と復活
ITシステムが扱うデータが爆発的に増大している今、超高速ネットワークへの期待は大きい。しかし10Gbps級ネットワークの普及は遅れている。その原因と克服への挑戦を追う。
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