多くのクラウドサービスが登場し、クラウド事業者の間で激しい顧客争いが展開されている。そんな中、彼らの盟友であるはずのVMwareが市場に参入。VMwareの主張と、事業者の声をまとめた。
米VMwareは2013年5月、待望されていたクラウドサービスを正式発表した。これにより、VMwareは自社製品を利用するクラウドプロバイダー顧客の多くと直接の競合関係に入ったことになる。だが、この新しいハイブリッドクラウドサービスの登場が縄張り争いを引き起こすとしても、プロバイダー各社にはVMwareを責めるつもりはないようだ。
「内心は腹立たしく思う向きもいるだろう。だが実際のところ、どのプロバイダーもVMwareをサポートしないわけにはいかない。VMwareにも、米Terremarkや米Rackspaceなど各社のサービスを利用している既存の顧客を追い払う理由などない」と語るのは、米コンサルティング会社Frost & SullivanのStratecast部門でクラウドサービス関連の調査を担当するプログラムディレクターのリンダ・スタッドミュラー氏だ。「この市場では今後も、協業(cooperation)と競合(competition)が同時に発生する“コーペティション”(co-opetition)が当たり前になるということなのだろう」と同氏は続ける。
「VMwareが“Project Zephyr”というコードネーム名でパブリックIaaS(Infrastructure as a Service)の準備を進めている」とのうわさが流れ始めたのは2012年のことだ。このうわさについて、同社は一貫して沈黙を守ってきた。2013年4月には、一部の顧客を対象にプライベートβへの参加が呼び掛けられたにもかかわらずだ。VMwareのパット・ゲルシンガーCEOが同月、VMwareのパブリッククラウド戦略について語った際には、ハイブリッドクラウドとソフトウェア定義のデータセンター(SDS)への注力が明らかとなった。そうして5月21日に発表された「vCloud Hybrid Service」は、単なるパブリックIaaSサービスではなく、VMwareによるハイブリッドクラウド化支援サービスと位置付けられている。
vCloud Hybrid ServiceはIaaS型のクラウドと、それを補完するセルフサービス型ポータル「vCloud Hybrid Service Console」で構成される。VMwareのクラウドリソースにアクセスして操作や管理を行う際には、ユーザーは主にこのポータルを用いることになる。「vCloud Connector」プラグインや「Open Virtualization Format Tool(OVF Tool)」のウィザードを使えば、オンプレミスとパブリッククラウドのどちらであれ、「VMware vSphere」で仮想化されたアプリケーションにアクセスして閲覧やコピーなどの操作を行うことができる。移行機能としては、vCloud Hybrid Serviceへのリソースのインポートの他、VMwareのクラウドから顧客のデータセンターへのエクスポート、双方間のテンプレートの同期化などがサポートされる。
「VMwareサービスプロバイダープログラム(VSPP)に参加している多くのクラウドプロバイダーの間で既に激しい顧客争いが展開されているため、新たにもう1社が加わったからといって深刻な脅威にはならない。たとえそれがVMwareだとしてもだ」と、米クラウドプロバイダーBluelockの最高技術責任者(CTO)パット・オデイ氏は指摘する。BluelockはVMwareの「vCloud Datacenter Services」でパートナーに認定されている9社のサービスプロバイダーの1つだ。
「われわれは差別化や、より具体的な機能への注力を迫られる状態に慣れている。VMwareの新サービスについて知ったとき、私たちは当社のロードマップをあらためて見直し、『何か方針を変更する必要はあるだろうか』と自問した。だが実に興味深いことに、その答えはノーだった。当初からの目標の達成に向けて、これからも前進あるのみだ」とオデイ氏は語る。
Bluelockのロードマップには、最近リリースしたRaaS(Recovery-as-a-Service)製品の他、より高度な導入シナリオのニーズに応えられるようクラウドを強化する継続的な取り組みが含まれる。業界固有のセキュリティやコンプライアンスの要件に合わせて顧客をサポートするというのも、そうした目標の1つだ。
「当社は最初からこうした分野に投資するつもりだった。VMwareの計画によってそれが変わることはない」とオデイ氏は語る。
VMwareはvCloud Hybrid Serviceの発表記者会見の席で、このテクノロジーと知的財産(IP)をVSPPパートナーやインテグレーターのエコシステムに提供することを明言した。また、新設されたハイブリッドクラウドサービス事業部門で上級副社長兼統括マネジャーを務めるビル・ファーザーズ氏は次のように語った。「当社は、特定の垂直市場や地域、アプリケーションに合わせてカスタマイズされた、vCloud Hybrid Service向けの付加価値サービスの開発がプロバイダー各社によって進められることにも期待している」
この声明について、Stratecastのスタッドミュラー氏は次のように指摘している。「コモディティ化を回避すべく、既に多くのIaaSプロバイダーがこの方向を目指している。それを考えれば、特に劇的な内容とはいえない」
「VMwareはまだインフラサービスを提供しているだけだ。顧客のニーズに応えるには、さらに多くのことが必要とされる。今回の参入が他のプロバイダーに何か影響を及ぼすかどうかは、いずれ分かることだ。現時点では、今回の動きが状況を大きく変えることになるとは思わない」と同氏は続けている。
サービス名が示す通り、vCloud Hybrid ServiceはVMwareのvCloudプラットフォーム上に構築される。同社の企業顧客やクラウドプロバイダー顧客がプライベートクラウドやパブリッククラウドの構築に利用しているのと同じソフトウェアスタックだ。そのため、vCloud Hybrid Serviceのユーザーは新たにソフトウェアライセンスを購入しなくても、引き続きVMwareの管理ツール「vCenter」を使ってプライベートとパブリック両方のリソースを管理できる、とVMwareのファーザーズ氏は語る。
さらに同氏によれば、共通のプラットフォームのおかげで、コードに変更を加えることなく、オンプレミスとパブリッククラウド間でアプリケーションのレプリケーションやマイグレーションを行うことができるという。「セキュリティやネットワークの設定もより簡単に複製できる」と同氏。また、パブリックとプライベートの両クラウド環境をまとめてサポートする窓口の存在は顧客にとって大きなセールスポイントになるはずだ、とVMwareは考えている。
Stratecastのスタッドミュラー氏によれば、VMwareにはサービス提供の経験は多くないが、同社がクラウドプロバイダーとなることにはそれほど大きなリスクはないという。
「実際、複雑な設定なしですぐに利用できるターンキー型クラウドサービスには、顧客サービスが必ずしも十分ではないところが多い。クラウドの世界では多くが自動化され、セルフサービス化されているため、差はそれほど大きくない。実際には、VMwareの方が多くのコンサルティングサービスやプロフェッショナルサービスを手掛けている。VMwareはそうした経験を生かして新サービスを補強できる」とスタッドミュラー氏は指摘する。
「VMwareのハイブリッドクラウドサービスは多くのクラウドプロバイダーにとっては脅威とならないのかもしれない。それより重要なのは、今回の動きが各社にとって恩恵となる可能性だ」とBluelockのオデイ氏は指摘する。VMwareがクラウドサービスの強化を目指しプラットフォームの改良を進めれば、同社の統合管理ツール「vCloud Director」を利用するサービスプロバイダー顧客にも、そうしたアップグレードの恩恵がじわじわと伝わることになるからだ。
「私たちは本当にワクワクしている」とオデイ氏は語る。「これまで私たちは、プロバイダー固有の機能を求めてVMwareに働き掛けてきた。だがVMwareのスタッフは従来の企業顧客にかかりきりだった。私としては、今回のことをきっかけに、今後はパブリックサービスとして必要不可欠な機能性により多くの注意とエンジニアリングの労力が注がれるようになることを期待している」(同氏)
さらにオデイ氏は、特にクラウドの自動化と管理を専門としている独立系ソフトウェアベンダー(ISV)を中心に、VMwareのvCloud APIをサポートするISVが増加することも期待している。従来は、追加のカスタマイズを施さずにそのままvCloud APIを実装しているプロバイダーが少なかったことから、大半のISVはvCloud向けの開発に消極的だった。
「vCloud APIと対話するアプリケーションを書こうとしているISVにとって、APIのように本来シンプルであるべきものにあちこちで独自の変更が加えられているのは、本当にイライラする状況だった。これまではvCloudをサポートするというより、特定のプロバイダーをサポートする感じだった。だから、今回のことをきっかけに、今後は追加設定なしの使用が推進され、より一貫性のあるAPIがISVコミュニティーに提供されるようになることを期待している」とオデイ氏は語る。
vCloud Hybrid Serviceには2つの利用プランが用意されている。「vCloud Hybrid Service Dedicated Cloud」は顧客ごとに専用のサーバが用意されるシングルテナント型のサービス。1年単位から契約が可能で、1時間当たりの料金は13セントからだ。マルチテナント型の「vCloud Hybrid Service Virtual Private Cloud」は月額ベースで販売され、1時間当たりの料金は(米国で)4.5セントからとなる。
米コンサルティング会社CIMIのトム・ノール氏は次のように指摘する。「賢明なビジネスモデルだ。大半の企業は社内でVMwareの仮想化を行っており、ピーク時のみ、そこからVMwareのクラウドにクラウドバーストするのは理にかなったやり方だ。この料金体系は、クラウドバーストアプリケーションの大半が作業負荷のオーバーフローやフェイルオーバー向けであり、負荷サイクルが低い、という事実を反映しているのだろう。VMwareがオンプレミス環境向けの仮想ツールの販売で利益を得ているという事実もだ」
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