位置認識タクシーサービス「Uber」が注目されている。同種のサービスとの競争も激化。背景には業界の「位置認識アプリ」への期待の高まりがある。
最近「Gett」という名前を知ったばかりなら、1月中旬にGettと米Uberの間で発生した騒動が情報源ではないだろうか。Uberは米ニューヨークではGettとライバル関係にある企業で、タクシーを予約するアプリを提供している。
UberはGettのドライバーに偽の予約電話をかけ、車両が目的地に近づくとキャンセルするという行為を3日間で100回も行った。そして、その直後に、Gettのドライバー宛てにUberで働くことを勧誘するSMSを送っていた。
この騒動の後、Uberは熱心に勧誘活動を行っていたドライバーがいたことを認めて謝罪した。しかし、Gettは法的措置を取ることを検討している。
この事件は、位置認識タクシーサービスアプリの急速な出現と成長を物語っている。このようなアプリによって、道端で手を挙げてタクシーを拾う必要はなくなり、顧客サービスに大きな変革がもたらされている。また、顧客が位置認識アプリを利用するようになった結果、競争と論争は激しさを増している。
位置認識アプリは、他の業界でも大きな変化を巻き起こしている。アナリストや業界関係者によると、位置認識テクノロジーによって、顧客が、小売り、保険会社、クリーニング店などとやりとりする方法は変わろうとしている。顧客関係管理への影響は広範で大規模なものになるだろう。
「モバイルは業界に根本的な変革をもたらしている」と米Salesforceの元バイスプレジデントのアンシュ・シャルマ氏は話している。同氏はモバイルテクノロジー分野で起業するためにSalesforceを退社している。
「位置認識テクノロジーを使用すれば、顧客がどこにいるかを把握して、営業をかけることができる。例えば、『シャルマさん、あなたは新しい洗濯機を購入されて、配管用品コーナーにいらっしゃるようですね。設置のお手伝いは必要ですか。配管工を手配する必要はありますか』というようにだ」
位置認識タクシーサービスを使用するには、アプリをダウンロードしてクレジットカード情報を登録する必要がある。タクシーを呼ぶ場合、アプリではGPSテクノロジーを使用して現在地を認識し、一定の範囲内にいる配車可能なドライバーに連絡を取る。配車可能なドライバーがいない場合は、連絡する範囲が拡大される。
イスラエルに本拠地を置くGetTaxiのマーケティング部長であるリッチ・プリース氏は、アプリを開くだけでドライバーに自分の現在地を知らせることができる点が顧客に受けていると話す。同社は米ニューヨークではGettという名称でサービスを提供している。
「土砂降りの中、屋外タクシーを待ちたい人はいない。屋外でタクシーを待つ必要がある場合は、雨の中10分も待たなければならないだろう」と「Google Chrome」の英国チームでリーダーを務めた経験のあるプリース氏は語る。「しかし、これからは屋外で寒い中タクシーを待つ必要はない。文字通りアプリを1回タップすれば、パブや自宅でタクシーが到着するのを待って乗車することができる」
用意されている車の選択肢はサービスによって異なる。Uberでは、タクシー、タウンカー、UberXを配車している。UberXはドライバーの自家用車を利用したものである。「Lyft」というアプリでは、アプリの利用者がタクシーを相乗りするためのサービスを提供している。現在Gettではタウンカーのみを配車している。最終的にはイスラエル、英国およびロシアと同様の低価格オプションを導入する計画だ。
UberとLyftの本社はどちらも米サンフランシスコにある。本稿執筆のために何回か取材を申し込んだが、回答は得られなかった。米国の4都市で従来のタクシーと乗客とのマッチングを行っている英ロンドンに本社を置くHailoは取材を辞退した。
利用料金もサービスによってまちまちだ。Gettでは地区ごとに定額料金が設定されている。だが、UberとHailoでは走行距離に基づいた料金が適用される。Lyftの料金は一部の市場で寄付金制となっている。どのタクシーアプリでも、支払いは登録したクレジットカードで行われる。
この価格がタクシーアプリに関する議論を引き起こしている。Uberでは繁忙期や悪天候時に「割増価格」と称して料金を値上げしている。100ドルを超える高額な代金が請求された事象が何件か公になると多くの反発が起こった。
特にUberのドライバーが2013年大みそかに6歳児を巻き込んだ死亡事故を引き起こして以来、その傾向は強くなっている。この事故以降、Uberではドライバーの身元調査を強化している。また同業他社でも身元調査が実施されるようになった。
従来のタクシー会社や一部の都市の規制当局は、この状況に応戦している。タクシードライバーは、米ボストン市や米シカゴ市を相手に訴訟を起こした。起訴内容は、面倒な許可要件なくのサービス提供を許可していることだ。また、Uberの合法性を問題にして、同社の市場参入を認めていない都市もある。
プリース氏は次のように持論を展開している。Gettのようなサービスの目的は、従来のタクシーサービスを排除することではない。従来のサービスを補完することを目的としている。多くの位置認識タクシーアプリと同様に、Gettは同社が参入している大多数の市場でタクシードライバーとパートナー関係を築いている。
「当社は一般のタクシーと協業している。彼らを排除するつもりは毛頭ない」とプリース氏は話す。
タクシー以外にも、位置認識アプリはあらゆる業界で企業と顧客が接触する方法を変化させている。
サービス業界では、位置認識アプリをサービスの予約に利用している。「Hotel Tonight」などのアプリでは、ユーザーの位置情報が自動的に認識される。そのため第1世代の予約アプリのように位置情報の入力をユーザーに求めることはない。
米マサチューセッツ州ケンブリッジにあるForrester Researchで顧客サービス戦略アナリストを務めるケイト・レゲット氏は、保険会社が位置認識アプリを使用して事故現場を記録するようになったことを指摘している。
最新の動向は米Appleの「iBeacon」という位置検出テクノロジーだ。このテクノロジーは小売業界に変革をもたらす可能性がある。小売店のアプリをダウンロードした顧客が入店すると、小売店ではiBeaconセンサーを使用して、そのことを感知できる。そして、顧客のスマートフォンに特別サービスのお知らせを送信したり、特定の商品がある場所に顧客を案内したりすることができる。これはiBeaconセンサーを使用して実現できることの一例にすぎない。
このようなテクノロジーの誕生に伴い、プライバシーに対する懸念が高まっている。位置認識アプリでは、ユーザーが承諾しなければ、位置情報は共有されない。しかし、依然として追跡されることを快く思わないユーザーもいる。
米Pew Research Centerでは2013年9月にある調査を実施した。この調査によると、携帯電話にアプリをダウンロードした成人の約35%が位置追跡機能を無効にしている。その理由は、企業が位置情報を利用することに対する懸念だ。
米ISACAの前会長のマリオス・ダミアニデス氏は、2012年の報告書で次のように述べている。「企業は位置認識アプリの利用に関する倫理的で明快なポリシーを策定する必要がある。一方、消費者にはテクノロジーとその影響を理解する責任がある」
「他の情報共有と同様、位置認識アプリは非常に便利だが、リスクも伴う」とダミアニデス氏は指摘する。「知識は力だ。消費者は、データの利用方法や追跡機能を無効にする方法を理解できるように自ら学習する必要がある」
シャルマ氏は、立場上、利便性を強調した。位置認識アプリは顧客サービスにおける変化の表れだ。顧客サービスは、顧客の利益になるようにカスタマイズされ、顧客と密接な関係を構築する方向に変化している。各種業界の企業は顧客の身近な存在として接することで顧客との関係を再構築していると説明した。
シャルマ氏は2013年10月にブログで「新世代のモバイルアプリは、医師、レストラン、自動車販売業者のための次世代のCRMだ」と書いている。
後日の電話取材で同氏は次のように補足している。「アプリは2人の人を同時に結び付ける。それはリアルタイムの場合もある。このような操作では位置を把握することが重要だ」
レゲット氏は2月6日の報告書で、個人向けにカスタマイズされたサービスが提供されることを顧客が期待するようになっていると指摘している。
「顧客はいつでもどこでもサービスを受けられ、サービスの手続きが快適であることを望んでいる」
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