米Microsoftは2015年7月に「Windows Server 2003」のサポートを終了する。アップグレードは単純に同社の新しいサーバOSを導入するよりも複雑だ。
米Microsoftの「Windows Server」のアップグレードに関する判断は、比較的単純なものだった。オンプレミスのサーバが古くなり、増大するアプリケーションやデータの負荷に耐えられなくなってくると、多くのIT担当者はMicrosoftに問い合わせて、次のバージョンのWindows Serverを評価し始めるというのが従来のプロセスだった。
ただし、2014年の時点で「Windows Server 2003」を使用している企業にとって、アップグレードの判断を下すことは、それほど容易ではない。現在もWindows Server 2003は120万台のサーバで稼働していると推測されている。多くのユーザーはクラウドコンピューティングと仮想化の導入に対応している。そのため、アップグレードの戦略的な代替手段は、高額な新しいバージョンのWindows Serverの導入だけではなくなっている。Windows Serverの移行に関する判断は計画を再検討する口実になるという人もいる。対象になるのは、新しいクラウド戦略の推進や既存戦略の作り直しなどだ。
米テキサス州にあるWebサービスプロバイダーのIT担当者は次のように語る。「当社ではほとんどのサーバを『Windows Server 2008 R2』にリプレースした。だが、旧式の16ビットアプリをホストするためにWindows Server 2003を実行しているサーバも少なくない。そのうち仮想化しているサーバは半数だ。残りはオンプレミス環境で運用している。そのため、社内のサーバを単純にWindows Server 2008にアップグレードするのか、Microsoftまたは他社のテクノロジーを使用して全てのサーバを仮想化するかについては検討する価値があると考えている」
数多くの中堅企業と大企業を顧客に持つ別のサービスプロバイダーは、この意見に同調する。
「これはユーザーにとってデータセンターのデザイン、アーキテクチャ、管理が大きく変化することを意味する」とテクノロジーサービスプロバイダーの米Insight Enterprisesで実務を取り仕切っているデイビッド・マイヤー氏はいう。「SaaS(Software as a Service)とIaaS(Infrastructure as a Service)製品/サービスの導入について、今後どのように対応するのが適切なのかを考える機会になっている。幅広い選択肢について多方面から検討する話し合いを行っている」
多くのWindows Server 2003ユーザーは、Windows Server 2008へのアップグレードを飛ばして「Windows Server 2012」を導入することを検討している。その理由は、Microsoftが、Windows Server 2008 R2のメインストリームの技術サポートを2015年1月15日に終了すると発表しているからだ。だが、Windows Server 2012に移行するには、かなり高額な費用が必要になる。この高額な費用はWindows Server 2003でサポートされていないハイエンドの機能を問題なく実行するために必要なハードウェアの価格が高いことに起因する。
「Windows Server 2012には幾つかの素晴らしい機能があるが、このような機能を使用するには、さらに強力で高額なハードウェアが必要になる。だが、高額なハードウェアを導入することで得られるメリットもある。つまり、この判断には明確な長所と短所がある」(マイヤー氏)
当然のことながら、MicrosoftはWindows Server 2012がWebに対応したOSだという点を強調している。Windows Server 2012には「Microsoft Azure」のクラウド環境と「Hyper-V」仮想環境への対応が組み込まれている。
だが、アプリケーションとデータをMicrosoft Azureに移行するには、その前にWindows Server 2008 R2またはWindows Server 2012 R2に移行しなければならない。また、後者の場合は、追加のハードウェアとソフトウェアへの高額な投資が必要になる。
Windows Server 2003の技術サポートが2015年7月に終了することを受けて、IT部門では数百台ものサーバを移行する必要に迫られている。だが、その作業をサポートするための人員が不足している。そのため、社外の専門家にサポートを依頼する必要が生じる。
クラウド移行を専門とする米Racemiで製品管理部門の統括責任者を務めるジェームス・ストレイヤー氏は次のように指摘する。「Windows Server 2003を使用している顧客がMicrosoft Azureに簡単に移行できる方法はない。当社に寄せられる新しいプラットフォームのサポート依頼の大半はWindows Server 2003に関するものだ。長期にわたってWindows Server 2003を使用した結果、身動きが取れなくなっている顧客もいる。そして、新しいアプリケーションをクラウドに移行して、古いアプリケーションを引退させることを希望している」
「事態を複雑にしているのは、移行を希望するアプリの多くが大幅にカスタマイズされているか社内で開発されていることだ。仮に移行コストが高くならなかったとしても、移行作業は複雑で時間がかかる」とストレイヤー氏は補足する。
Windows Server 2013からの移行を2015年7月までに完了できなかった場合、企業で悲惨な状態を招く恐れがある。サポート終了日以降、Microsoftは、セキュリティ更新プログラムをはじめとするパッチを提供しなくなる。その結果、ミッションクリティカルなアプリケーションは危険にさらされる可能性がある。経年劣化したプラットフォームを使用し続けると、さまざまな法規制に準拠することも困難になる。
米IDCでアナリストを務めるアル・ギレン氏は次のように語る。「サーバ製品のサポート終了は、法規制への準拠などに関して、さらに深刻な問題をもたらすだろう。上層部がシステムのアップグレードを拒み、それが原因で会社が『PCI DSS』や『HIPPA』などに準拠できなくなったとしても、その問題をCEO(最高経営責任者)に報告しようと考えるIT担当者はいないだろう。これは上層部がアップグレードをサポートすべき理由の1つだ」
Windows Server 2003ユーザーがMicrosoft Azureに移行するパスが用意されていないことは、米Amazonや米Googleなどの競合他社にある変化をもたらしている。OSだけでなくクラウドによって得られる利益をMicrosoftから奪うチャンスが生まれている。
Racemiのストレイヤー氏は次のように語る。「技術サポートの終了日が差し迫るにつれてWindows Server 2003ユーザーが『Amazon Web Services』への移行に高い関心を示すようになっている。Racemiが提供する完全自動化の移行アプローチは、人手不足に悩むIT部門を魅了している。このアプローチでは、Amazonのクラウド環境にたった数分でWindows Server 2003のインスタンスをセットアップして運用を開始できる」
「Amazon Web Servicesにはインポートツールが用意されている。だが、複数ディスクの構成などに関する制限がある。また、手動による作業は少なくなく、サーバをオフラインにする必要もある。そのため多くの企業にとって魅力的な選択肢ではない。当社のアプローチでは稼働中のサーバをキャプチャーすることが可能だ。そのため企業が提供しているサービスへの影響を回避できる」(ストレイヤー氏)
Amazon Web Servicesの導入に乗り気なWindows Server 2003ユーザーが存在するのは事実だ。だが、Microsoftの製品やサービスが完全に選択肢から消えているわけではないとInsight Enterprisesのマイヤー氏は見ている。
「多くのユーザーはAmazon Web ServicesやMicrosoft Azureなどのクラウド環境で個々のワークロードを試してみるという判断を下している。SaaSモデルに移行すべき時期かもしれないと考えているのだろう。Office 365などSaaSがプラスに働くワークロードについては、SaaSモデルへの移行が必要なのかもしれない」(マイヤー氏)
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