サポートと転送量で徹底比較、AWS vs. IBM SoftLayerAWSからSoftLayerに乗り換えた企業の事例

米IBMが提供するIaaSである「IBM SoftLayer」は、低価格のネットワーク使用料と無料のサポートで「Amazon Web Services」(AWS)の顧客を取り込んでいる。

2015年02月23日 12時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

 米IBMがクラウドコンピューティング戦略を見直すために再編しているという報告もあるが、本稿ではIBMが現在提供しているクラウドサービス「IBM SoftLayer」が、最大の競合相手である「Amazon Web Services」(AWS)のサービスにどのように対抗しているかを詳しく比較してみたい。

 「IBMもクラウド時代に合わせて戦略を刷新すべく奮闘している巨大テクノロジー企業の1つだ」と語るのは、クラウドコンサルティング企業の米Cloud Technology Partnersで上級副社長を務めるデイビッド・リンチカム氏だ。

 「IBMが抱える最大の障害は同社の商品だ。同社はハードウェアとソフトウェアを販売している。同社が販売する全てのクラウドサービスは、実質的に既存の販売基盤の売り上げを減らすことになる」(リンチカム氏)

 米Oracleと米Hewlett Packard(HP)も同じ問題に直面している。HPは、クラウドコンピューティングの分野における競争力を上げるため、最近2社に分社化している。「凝り固まった古い企業文化を変えるために、IBMがHPと同様の思い切った行動を取っても不思議はない」とリンチカム氏は語る。

 それでも、SoftLayerのIaaSは検討しておくべきだ。

 「SoftLayerには良い機能や安価な機能もある。「『SoftLayerについても検討した方がよいか』と聞かれることがあれば、『もちろん検討すべきだ』と答える。ベアメタルクラウドが必要で、ネットワークトラフィックなどにお金をかけたくないといった場合に、SoftLayerは選ばれているようだ」(リンチカム氏)

ベアメタルのパフォーマンスと無料のサポート/データ転送でAWSに対抗

 米CloudHarmonyが実施したベンチマークテストによると、ベアメタルクラウドへのアクセスを提供するSoftLayerのIaaSは、パフォーマンスが高く、ネットワーク利用とサポートオプションの価格もAWSに勝っている。CloudHarmonyは、クラウドサービスプロバイダーのサーバインスタンスについて独自のベンチマークテストを実施している。

 CloudHarmonyは、8基のCPUコアと32Gバイトのメモリを搭載したIBMのE3-1270ベアメタルクラウドが、同社の主張通り、各ポートにつき1Gbpsという速度のネットワークスループットを達成し、平均スループットが1088.60Mbpsであることを複数のテストで確認した。これはAWSが提供する同等のm3.2xlargeサーバよりもわずかに速い値だ。m3.2xlargeサーバは8基の仮想CPUと30Gバイトのメモリを搭載し、その平均スループットは1028.15Mbpsである。また、E3-1270サーバは僅差だが読み込みのIOPSでもm3.2xlargeサーバに勝っている。E3-1270のIOPSは読み込みが4万8230、書き込みが2万6891だが、m3.2xlargeは読み込みが2万6913、書き込みが3万347だ。

 データ分析会社の米Flowは、IBMが提供するベアメタルクラウドのパフォーマンスの高さに魅了され、2013年にAWSからSoftLayerのIaaSに乗り換えた。

 同社で最高技術責任者(CTO)を務めるトム・ルクザック氏は、次のように話す。「当社はリアルタイムプラットフォームを取り扱っていた。非常に高性能なネットワーク層とストレージ層が必要だが、当時のAWSのパフォーマンスでは不十分だった」

 Flowは、IBM製品の顧客であると同時に、ソフトウェアの売り上げ向上を支援するビジネスパートナーでもある。同社は無料のデータ容量が提供されるIBMのスタートアップインキュベータープログラムを利用してSoftLayerを導入した。現在、同社のデータ規模は拡大し、インキュベータープログラムの範囲を超えため、IaaSの使用料を支払っている。

 FlowとIBMの関係は、数十億ドル規模の医療用ソフトウェアメーカーである米IMS HealthとAWSの関係と似ている。IMS Healthは米Microsoftの「Microsoft Azure」から鞍替えする形で、専属のIaaSプロバイダーとしてAWSと契約を結んだ。このパートナーシップはエンタープライズ市場における競争で成功している。

 SoftLayerは、リージョン間の無料データ転送と24時間365日の無料電話サポートというサービスでもAWSを窮地に追い込んでいる。このサービスは、問題が診断されてから2時間以内に破損したハードウェアを交換するというものだ。AWSの基本サポートパッケージにも24時間365日のカスタマーサービスは含まれている。だが、12時間以内の応対が保証されるには少なくとも月額49ドルの開発者レベルのサポートを契約する必要がある。

 SoftLayerのベアメタルクラウドの幾つかでは、月単位で契約すると、20Tバイトの送信のインターネット通信が無料で利用できる。また、リージョン間のデータ転送も無料で行える。一方、AWSの多くのサービスでは、アベイラビリティゾーン間でデータを転送するには1Gバイトごとに1セントの使用料が加算される。また、リージョン間のトラフィックには1Gバイトごとに2セントの使用料が必要になる。

 ただし、AWSはSoftLayerより多くのストレージ容量を無料で提供し、無料の計算処理時間も提供する。また、最初の1年間は、データ転送の最初の1Gバイトが無料だ。これに対してSoftLayerは、無料のネットワークトラフィックと24時間365日のサポートを除けば、インキュベータープログラムに参加していない顧客に無料のリソースは提供していない。

 AWSはリザーブドインスタンスを提供しているが、IBMは月単位でベアメタルクラウドを借りるというオプションを提供している。時間単位でも利用できるが、月単位より割高になる。例えば、シングルプロセッサのベアメタルサーバの月額使用料は159ドルだとIBMは主張している。だが、オンデマンドで使用すると1時間当たり0.465ドルで、月額334.80ドルにも上る。

 AWSの方が幅広い価格設定を用意しているが、SoftLayerはAWSと低価格競争を繰り広げるつもりはないとSoftLayerの最高経営責任者(CEO)であるランス・クロスビー氏は話す。

 同氏は、2014年5月の「Modern Infrastructure」のインタビューで次のように述べている。「当社の売りはコスト効率の高さだが、低価格のリーダーになることをミッションとして掲げているわけではない」

 それからSoftLayerは、パブリックネットワーク、プライベートネットワーク、カスタマーポータル、データセンターの空調設備について、サービスレベル契約(SLA)で100%の稼働時間を保証している。これはAWSがSLAで保証している月間99.95%の稼働時間よりも高い値だが、AWSは「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)と「Amazon Elastic Block Store」(Amazon EBS)の稼働時間に関するSLAも提供している。一方、SoftLayerは、インスタンスの稼働時間に関しては何も保証していない。

SoftLayerの欠点はプロビジョニングにかかる時間とDNSのオプション

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