「Apple Intelligence」に寄せられる称賛と、プライバシーへの懐疑論Appleの独自AI機能への評価は?

AppleのAI機能群「Apple Intelligence」のデータプライバシーシステムに、セキュリティ専門家から称賛の声が上がる一方、その仕組みを不安視するユーザー企業もある。どのような点が評価され、何が懸念点なのか。

2024年10月09日 05時00分 公開
[Antone GonsalvesTechTarget]

 Appleは2024年10月、同社OSを搭載したデバイス向けに、人工知能(AI)機能群「Apple Intelligence」の提供を始める。そのデータプライバシーシステムについてはセキュリティの専門家から称賛の声が上がる一方、Appleの説明に対して一部のユーザー企業は懸念を抱いている。専門家は何を評価し、ユーザー企業は何を不安視しているのか。

「Apple Intelligence」への称賛の声と、プライバシーへの懐疑論

 Apple Intelligenceのデータ処理に対して好意的な反応が寄せられる一因は、Appleがデバイス外部に情報を保存しないアーキテクチャを採用しているためだ。同社はエンドユーザーがApple Intelligenceに入力したデータについて、Appleのデータセンターのサーバ上で稼働するAIモデルから応答があり次第、直ちに削除すると約束している。

 セキュリティ企業SentinelOneの最高信頼責任者(Chief Trust Officer)であるアレックス・スタモス氏は、Appleの技術について「論文では話題になったが、実際に運用されるのを見たことはない」と述べる。

 Appleは、エンドユーザーのデバイスから送られたデータを処理するために、クラウドサービス「Private Cloud Compute」(PCC)を構築した。処理が完了すると、PCCのサーバ側のデータを全て削除するとAppleは説明している。

 Appleによると、PCCサーバの製造段階からセキュリティを確保する措置を講じている。サーバがAppleのデータセンターに搬入されると、同社は再検証をする。

 セキュリティの問題を発見した研究者に報奨金を支払う取り組み「Apple Security Bounty」もAppleは実施する。同社の公式サイトには以下の記述がある。

 「Apple Security Bountyは、Private Cloud Computeのあらゆるソフトウェアに関する研究結果に対して報奨金を与えるものだ。特に、プライバシーに関する問題を発見した場合は、多額の報奨金を支払う」

Apple Intelligenceのデータプライバシーに懸念の声も

 従業員が私物端末を職場に持ち込んで使用している企業は、Appleのデータプライバシーシステムの恩恵を受けると、セキュリティの専門家はみている。しかし金融機関、政府機関、医療機関など、規制当局の定める厳格なデータ取り扱い規則を守らなければならない組織は、Apple Intelligenceの利用を見合わせる可能性がある。

 原則として、規制当局の管理下にある組織は「FedRAMP」(米国政府によるクラウドセキュリティ基準)や「HIPAA」(米国医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)などの基準を満たすハードウェアやソフトウェアしか使用できない。

 モバイルデバイス管理(MDM)企業Kandjiのコミュニティ担当シニアバイスプレジデントであるウェルトン・ドッド氏は次のように述べる。「規制の厳しい業界に属する一部のユーザー企業は、自社データがデバイスから外部へ流れるのを抑えたいと考える。たとえそれが高度なセキュリティを備えたAppleのデバイスであってもだ」

 規制の緩やかな企業の中にも、Appleの主張に警戒している企業はある。MDM企業Jamfの製品・セールスエンジニアリング担当バイスプレジデントであるマット・ブラサック氏は「Appleはデータを保持しないと言っているが、このような主張に対してユーザー企業は懐疑的だ」と指摘する。

 Appleは同社のAIシステムをユーザー企業が評価できるようにすると約束しており、こうした懸念は和らぐとブラサック氏は述べる。とはいえ、Apple Intelligenceを評価する間、ユーザー企業は利用しない可能性が高い。

 「Appleが何を主張しても、法務部門やコンプライアンス部門が詳細を十分検討するまでは、クラウドサービス、ましてや、新興のAI技術を活用することにためらいがある」とブラサック氏は言う。

ChatGPTとの連携で浮上する懸念

 Appleは、テキストや画像を自動生成する生成AIツール「ChatGPT」を開発するOpenAIとの提携に関するプライバシー上の懸念にも言及した。Appleは同社デバイスのエンドユーザー向けに、Apple Intelligenceに加え、ChatGPTを使用できるオプションを提供する。エンドユーザーはAppleの文書作成ツールでChatGPTを使用してコンテンツを生成することも可能だ。

 Appleによると、同社はOpenAIに対してエンドユーザーのIPアドレスを匿名化し、ChatGPT側もデータを保存しない。

 一部の企業は、従業員が企業内のデータをChatGPTに入力してしまうのを防ぐ機能がないデバイスの使用に難色を示しかねない。Appleによると、同社のOS「iOS 18」「iPadOS 18」「macOS 15」を搭載したデバイスは、ChatGPTの機能をオフにできるようになる。

 「このような保証がなければ、ユーザー企業は自社のガバナンス、リスク管理、コンプライアンスなどのポリシーをiPad、iPhone、Macの新機能にどのように適応させるかを慎重に検討できない」とドッド氏は指摘する。

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