東京大学 生研の回答「必要なのは保険としてのディザスタリカバリ」ディザスタリカバリ導入事例:EMC Celerra Replicator

2006年、東京大学生産技術研究所は災害対策ソリューションを導入した。金融機関などが求める高いサービスレベルは必要とせず、“保険”としての意味合いが強い。ここでは、一般企業にも手の届く災害対策事例をリポートする。

2008年01月18日 10時00分 公開
[谷川耕一]

災害対策の検討を始めた2つのきっかけ

 東京都目黒区にある東京大学駒場IIキャンパス(以下、駒場IIキャンパス)には、東京大学生産技術研究所(以下、生研)をはじめ工学系の大学院や研究施設が集まっている。生研ではおよそ1700人の学生、研究員、教員が活動しており、それぞれがITシステムのユーザーアカウントを所持している。その大規模なITシステムの管理・運営を手掛ける生研の電子計算機室では、2006年にEMCの災害対策ソリューションの導入を決断した。

 以前、生研は東京の六本木に居を構えており、2001年に現在の駒場IIキャンパスへ移転した。移転の前年となる2000年、生研はEMCとストレージ製品の3年間のリース契約を結び、これまで2003年と2006年に契約更新を行った。2003年時点では災害対策を施しておらず、テープ装置による自動バックアップのみが行われていた。

東京大学生産技術研究所 電子計算機室
助手 林 周志氏

 遠隔地間での非同期レプリケーションを実現する災害対策ソリューション「EMC Celerra Replicator」の導入を決断したのは、2回目の契約更新が行われた2006年のことだ。電子計算機室 助手の林 周志氏は、導入の経緯を次のように説明する。「生研には建築や土木専門の先生が所属しており、災害対策の研究も行っています。ある日、その先生たちから電子計算機室の災害対策について問い合わせを受けたことがきっかけで、対応策の検討を始めました」

 さらに、従来のテープ装置によるバックアップで度々問題が発生しており、それらを改善する狙いもあった。「ディスクよりもテープ装置のトラブルが目立っていたため、2006年の契約更新ではテープバックアップを廃止してディスクバックアップへの切り替えを検討していました。また、せっかくディスクへ切り替えるのですから、遠隔地へのバックアップも考えました」(林氏)

 これまで生研では、何らかの障害が発生してもバックアップテープによるリカバリを実施した例はないという。発生した障害のほとんどが人為的なミスによるデータ消失などの事故で、データの復旧はストレージのスナップショット機能で行っていた。テープによるバックアップはあくまでも保険であり、その保険を適用したことはなかった中での災害対策だった。

高価でシビアなものではなく手軽な災害対策

 導入されたストレージの主たる用途はファイルサーバだ。格納データは各ユーザーのホームディレクトリや計算機室およびそれぞれの研究室が独自に立ち上げたサーバ用のデータが中心で、メールサーバのスプールデータのバックアップも行っている。

 運用サイトがある駒場IIキャンパスではEMCのNASソリューション「EMC Celerra NS702」を採用し、RAID構成時の実効容量はファイバチャネル接続で5.6Tバイト、SATA接続が3.5Tバイト。バックアップサイトの柏キャンパスでは「EMC Celerra NS502」を採用し、SATA接続が3.2Tバイトと、どのディスクも大容量だ。

 格納されるデータは研究において極めて重要だ。しかし、いわゆる金融機関などのミッションクリティカルな止められないビジネスアプリケーションとは異なり、瞬時にシステムを切り替えて継続運用すべきデータではない。必要とされるシステム復旧時間に比較的余裕がある。そのため、採用された災害対策ソリューションも高価でシビアな要件を満たすものではなく、むしろシンプルともいえるストレージのレプリケーションタイプが採用された。

 実際、レプリケーション設定もEMCの初期設定のままだという。600秒ごとあるいは600Mバイトごとの差分データが蓄積された時点でレプリケーションされるよう設定されている。メールのスプールデータについては、メールサーバの仕様上、ファイルサーバにデータを置くことはできない。しかし、IMAPフォルダを含むメールサーバのデータ消失は影響が大きいため、別途バックアップソフトウェアを用意して、駒場IIキャンパスと柏キャンパスのファイルサーバへ週に一度バックアップを行っている。

初期投資の大きさよりも運用負荷の小ささを重視

東京大学生産技術研究所 電子計算機室
室長補佐(助手) 福島 瞳氏

 電子計算機室 室長補佐の福島 瞳氏は、今回の災害対策で重視したのは運用管理の負荷が軽いことだったという。「導入する仕組みが金額的に安いことよりも、運用管理の手間が掛らないことの方が重要でした。バックアップサイトがある柏キャンパスに生研スタッフが常駐しているわけではないですし、機器のパラメータの調整や監視、チューニングを日常的にリモートで行うといった状況は避けたかったのです」(福島氏)

 生研は、FreeBSDなどのオープンソースソフトウェアを用いた廉価なPCサーバを数多く利用している。今回の災害対策においても、バックアップサイトにPCサーバを配置し、UNIXのファイル転送ユーティリティ「rsync」などを用いた自動バックアップも検討したという。しかし、この方法では安価に構成できるものの、バックアップサイトを常に監視する手間が発生してしまう。また、CIFSのアクセスリストの状態が保存されない。

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