手ごろなコストで実現できるディザスタリカバリ対策として仮想化を利用する動きが広がっている。VMwareの製品を導入した事例を2つ紹介する。
米ペンシルベニア州検察局のCIO、ジョージ・ホワイト氏は、同局の150台の古いスタンドアロンサーバを、VMwareの仮想化ソフトウェアを導入した50台のDell製ブレードサーバに置き換え、ミッションクリティカルなITシステムを仮想環境に移行した。
「仮想化はわれわれにとって新しい技術だったため、これは勇気の要る試みでもあった」とホワイト氏。だが、コスト削減とパフォーマンスの面で良好な成果が上がったため、2007年の春に開設した同局のリモートディザスタリカバリサイトに仮想化を導入する計画を進めている。「われわれは仮想化を、ディザスタリカバリの基盤技術として活用しようとしている」
こうした取り組みに乗り出しているCIOは、ホワイト氏だけではない。
6カ月前に仮想化が魅力的な技術として注目されるようになったころには、中堅企業のCIOの関心は仮想化によるIT環境の合理化に集中していたと、Gartnerの中堅企業市場担当アナリスト、ジム・ブラウニング氏は語る。
「彼らは30台のサーバを20台に減らし、コストを5万ドル節約するといった成果を上げて満足していた」とブラウニング氏。「だが、彼らは間もなく、仮想化はほかの目的にも利用できることを理解するようになった」
ブラウニング氏は、手ごろなコストで実現できるディザスタリカバリ対策として仮想化を利用する動きが広がっており、その効果にCIOが非常に満足していることに気付いた。
「以前から中堅企業のCIOにとっては、ディザスタリカバリ対策の向上が重大な課題となっている」とブラウニング氏。「彼らは一部のサーバを仮想化し、リモートサイトとの間でアプリケーションの複製を実行するようになってきている。わたしが聞いているところでは、電子メールやERPがその対象となっているケースが最も多い」
従来の方法によるディザスタリカバリは、中堅企業にとって難題だ。ディザスタリカバリサイトを構築しようとすると、本番環境と同じハードウェアを用意する必要がある。これは当然高く付く。1台のサーバで1つのアプリケーションを運用するというルールを採用している場合はなおさらだ。また、2つのサイトを持つと、保守の労力は2倍以上に増える。例えば、プライマリサイトで行うパッチ作業は、セカンダリサイトでも逐一行わなければならない。大企業向けにディザスタリカバリの負担を軽減するソリューションがベンダーから提供されているが、それらは多くの中堅企業にとって費用が掛かり過ぎる。
IPネットワークやiSCSIストレージ、D2D(Disk-to-Disk)バックアップが手ごろなコストになってきたことで、仮想化を利用したディザスタリカバリ対策の採用が拡大していると、ブラウニング氏をはじめとする専門家は指摘する。「VMwareはユーザーに熱烈に支持されている」と、ブラウニング氏は仮想化市場のリーダー企業に言及した。「実際、仮想化とVMwareはほとんど同義語になっていて、仮想化することを“VMwaring”と言うくらいだ」
ペンシルベニア州検察局のホワイト氏は、従来の方法でも仮想化を用いた方法でも、予算の制約によりセカンダリサイトを利用してサーバ環境を二重化することはできなかった。だが、ディザスタリカバリ対策の基盤整備は進んでいるという。「われわれは州都のハリスバーグにあるプライマリサイトと、州中部のステートカレッジにあるディザスタリカバリサイトで、SANの二重化を行った。ストレージに関しては、プライマリサイトはディザスタリカバリサイトに定期的にミラーリングされている」(ホワイト氏)
また、ホワイト氏は当面の措置として、プライマリサイトにクラスタリングと動的フェイルオーバー機能を導入し、問題が発生すると適切に動作しているホストへ仮想マシンが自動的に移動して回復されるようにした。「このライブマイグレーション機能では、仮想マシンを物理環境間で手動で移行して、ユーザーの業務を中断させることなく日常的な保守を行うこともできる」とホワイト氏。「われわれは、ディザスタリカバリサイトに本格的な仮想環境を構築するまで、ローカルサイトで各種の技術を組み合わせて暫定的なソリューションとして利用していくつもりだ」
一方、自動車部品販売フランチャイズの1-800-RadiatorでCTOを務めるマイク・カルバリョ氏が仮想化の導入に踏み切ったのは、上司の困難な要求に対応するためだった。カルバリョ氏は米国空軍に入隊した1981年以来、IT業務に携わっている。「わたしは従来のやり方にとらわれがちな面がある」と同氏。このため、友人がカルバリョ氏をランチに連れ出し、その席で仮想化技術を盛んに称賛したとき、「わたしは、『あまりピンと来ないな』と言った」と同氏は振り返る。「わたしは1台の物理サーバで1つのアプリケーションを運用するモデルを信奉していた」
だが厄介なことに、1-800-Radiatorは週に2店のペースでフランチャイズ店を増やしており、データセンターでは電力容量が不足するとともにスペースがすっかり手狭になっていた。同社ではフランチャイズ契約の一環として、本社で約200カ所の店舗のIT全体を管理している。「わたしはサーバの追加頻度と台数を踏まえ、会社の成長ペースに対応するためのITコストを分析し、総費用の見積もりを行った。だがCEOから、『そこまでの投資はしない。ほかの解決策を見付けてほしい』と指示された」(カルバリョ氏)
そこで同氏が思い切って選択し、ゴーサインが出た解決策が仮想化だ。VMware製品を利用し、3週間をかけて31台のサーバが仮想化された。これによってデータセンターの消費電力を25%削減できた。さらに、同氏は仮想化のもう1つの用途に着目した。多くの中堅企業と同様に、1-800-Radiatorでも手薄になっていたディザスタリカバリ対策だ。
「われわれはコロケーション施設にMetaFrameサーバを数台設置し、DOSアプリケーションを採用してディザスタリカバリに備えていた」(カルバリョ氏)
同氏はこれに代わる対策を講じるため、物理サーバ台数を抑えることで節約した費用の一部を投じて、VMwareサーバを3台増やした。基幹業務を支援するロードバランサ、Webサーバ、データベースサーバなどだけを複製するようにしたため、「すべての必要な要素を2台のラック内に二重化することができた」と同氏。「ステージング、構築、テストを経て、われわれのディザスタリカバリサイトは、1日24時間・週7日稼働している」。また、リモートサイトが無人で運用できることも、仮想環境の魅力的な特徴となっている。カルバリョ氏はVMwareの管理ツールを使って、サーバとOSを監視、操作しており、「その作業はすべてWAN経由で行っている」という。
高可用性を実現するVMware HA(High Availability)が、本番サイトとリモートサイトのすべてのサーバ上で有効化されている。また、仮想マシンを必要に応じてサーバ間で自動的に移動するVMotionツールが、慎重を期して非基幹サーバにも導入されている。「あらゆるダウンタイムのリスクを回避するためだ」(カルバリョ氏)
カルバリョ氏が1-800-Radiatorのディザスタリカバリ対策で最も気に入っている点は、「常に点検が行き届いていること」だという。同社のITスタッフは、SoftmateのIPSwitcher Proの最新版を使ってネットワークを監視している。ディザスタリカバリサーバは60秒ごとにチェックされている。「われわれのスタッフはWebサイトの稼働を確認しており、わたしはソフトウェアコードが最新の状態に保たれていると確信できている。これらのおかげで、わたしは安心して家に帰れているというわけだ。ディザスタリカバリに関してはもう心配していない」(同氏)
カルバリョ氏は、仮想化によるIT環境の向上に満足しているが、一連の取り組みの第1の目的だったコスト削減の実現は、急成長を続ける同社にとって重要な成果だった。
「仮想化に取り組む契機となったのは、前に述べたようにリソースが足りないという状況だった」とカルバリョ氏。「会社は成長を目標にしている。わたしの仕事は、会社が目指す形で成長できるようにお膳立てをすることだ。従って、『上司がリソースがないと判断しているから、今週は店舗チェーンを拡大しないことにしよう』ということはあり得ない。わたしがそう判断して手をこまぬいていれば、上司は代わりの人を見付けてくるだろう」
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