読めば分かる! Web会議とテレビ会議の違いまる分かりIT基礎解説「Web会議」

社内にいながらにして遠隔地との会議を可能にするWeb会議。一見テレビ会議と同じように見えるが、異なるものである。Web会議とは何か。そのメリット、導入に当たっての注意点とは?

2008年04月09日 08時00分 公開
[宮野 亮,ウェブエックス・コミュニケーションズ・ジャパン]

「Web会議」を正しく理解しよう

 Web会議とは、資料やソフトウェアを共有するための機能に音声や映像、チャットなどのコミュニケーション機能を統合させた、共同作業を行うための新しいコミュニケーションツールである。Webブラウザを利用するため、「Web会議」と呼ばれる。Web会議を正しく理解するには、まずテレビ会議との違いを知ることが重要となる。既に欧米では、一般的な企業活動でWeb会議を使用するほど広く普及している。それに比べ日本国内では、ブロードバンド化に伴ってようやく普及しつつあるという状況だ。Web会議というキーワード自体は、SaaS(Software as a Service)やユニファイドコミュニケーションといったキーワードとの関連性や、シスコシステムズ、Google、IBMといった世界的な大手IT企業によるWeb会議ベンダーの相次ぐ買収により、現在国内でも高い注目が集まっている。また、総務省をはじめ官民での取り組みが進むテレワーク実現のためのソリューションとしても導入が始まっている。では、Web会議について、その効果や用途、注意点などを詳しく解説していこう。

Web会議とテレビ会議の違いは何か?

 Web会議は「テレビ会議の単なるWeb版」ではない。そもそも利用目的(会議において共有する対象)が異なるのである。Web会議の主な利用目的は、実務作業で必要となるデータ(資料)の共有である。例えば、海外の開発拠点と国内の技術研究所間で、3次元のCADデータを共有しながら設計図面の修正を行う場合などはWeb会議が有効だ。

 一方、テレビ会議は、遠隔地間で現場の臨場感をできる限り再現すること、すなわち解像度の高い鮮明な映像データの共有が目的となる。表情をお互いに確認しながら「駆け引き」を行う会議などでは、各出席者の表情がはっきりと確認でき、臨場感が伝わるテレビ会議が適当だろう。Web会議では、表情まで読み取ることは難しい。

 また、Web会議とテレビ会議は出席形態も大きく異なる。Web会議では各個人のPCを使って参加する形態を取るが、テレビ会議では専用端末が設置された場所に、会議に参加するメンバーが集合して参加する形態となる。この出席形態から見ても、適する用途は大きく異なってくる。

Web会議とテレビ会議の比較
主な共有対象 必要機器 出席形態 主な用途
Web会議 データ(資料) PC、インターネット回線 自席 実務レベルの共同作業
テレビ会議 カメラ映像(表情) 専用端末、専用回線 会議室 役員レベルの重要会議

 資料やソフトウェアなどを共有し、共同作業をネットワーク上で行うのがWeb会議の得意分野である。対して、臨場感を再現し表情などに代表される感情共有がテレビ会議の得意分野といえる。どちらも音声や映像、資料の共有はある程度可能だが、その主となる目的に応じて、得意分野が分かれている。

Web会議でできること

 Web会議は統合的なコミュニケーションツールだ。主に、資料や業務に使用するデータの共有機能が使われるが、音声やカメラ映像も標準装備で共有できる。主な機能は以下のようになっている。

Web会議の主な機能一覧

  • ドキュメント共有機能
  • ソフトウェア共有機能
  • デスクトップ共有機能
  • リモートコントロール機能
  • チャット機能
  • テレビ会議機能(Webカメラ映像により)
  • 音声会議機能(VoIPや電話回線により)
  • ファイル転送
  • 会議内容の記録と再生
  • アンケート/集計
photo ドキュメントを共有し、問題や議題のポイントを示しながら会議を進められる
photo デスクトップも共有できる。自席PCの画面を参加者に見せながら説明できるため、データをほかに移す手間は掛からない

Web会議が活用できるのは会議だけではない

 Web会議は会議だけでなく、研修やセミナー、リモートサポート、販促などさまざまな場面で利用できるため、「Webコラボレーション」とも呼ばれる。主な場面を挙げると、以下のようなものがある。

  • オンライン会議:遠隔地や海外との会議
  • オンライントレーニング:社内研修や販売店へのトレーニング
  • オンラインセミナー:製品発表や、マーケティング活動
  • リモートサポート:顧客サポートや遠隔操作
  • リモートセールス:販促やプレゼンテーション

Web会議は本当にコスト削減になるのか?

 ここまでWeb会議の機能と活用場面を説明してきたが、実際に導入するとどのような効果があるのか? Web会議導入のメリットは、主にコスト削減効果と生産性向上の2点が挙げられる。

<コスト削減効果>

  • 移動コスト(交通費など)
  • 印刷コスト(資料など)
  • 運営コスト(会場代、設備費など)

<生産性向上効果>

  • 参加機会の向上(録画データの欠席者への配布など)
  • 制約時間の減少(移動時間など)
  • 正確性の向上(資料やデータの直接的な共有など)

 具体例としてコスト削減効果、特に移動コストに重点を置いてコストを算出してみよう。全国に支店や拠点を持つある企業は、月に2回、各支店における営業成績についての会議を東京本社で行っていた。この年間24回行われる会議をWeb会議にした場合、どれだけコストを削減できるのか? 以下の図を見てほしい。なお、Web会議に掛かるコスト試算は、WebExが提供するSaaS/ASP型「Meeting Center」を使用した場合で算出したものである。

photo Web会議は移動や宿泊に必要なコストが一切掛からないため、出張や移動が多い企業ならば年間数千万円のコスト削減となる可能性もある

 この例でいえば、従来のように東京に営業支店長を全員招集すると、年間でおよそ1584万円の支出が見込まれる。一方、Web会議を利用すると移動費や出張費が一切必要なくなるため、Web会議サービスに掛かるコスト=60万円で済ませることができる。年間コストをグラフで比較すると、その差は歴然だ。

photo

 このように、Web会議の利用はコスト削減という点で非常に高い効果が得られることが分かる。

Web会議の導入のタイプは2つ

 Web会議の導入に当たっては、SaaS/ASP型と自社で構築するサーバインストール型で導入手順が異なる。利用コストに関していえば、一般的には管理する人件費も含め、SaaS/ASP型の方がコストを低く抑えられるのが特徴だ。

photo Web会議の導入手順は、SaaS/ASP型とサーバインストール型でさほど違いはない。ただし一般的に考えて、自社での作業が軽減できるSaaS/ASP型の方がコストや手間は省ける

Web会議導入に当たっての5つの注意点

 Web会議を導入する際に気を付けるポイントは5つある。自社に合ったWeb会議を選択するために、以下の点に注意してほしい。

1.帯域の確保

 社内LANやインターネットへの接続帯域は、Web会議で必要な幅を確保する必要がある。

2.契約形態やコストの確認

 SaaS/ASP型は、同時接続人数や会議の主催者権利数、利用時間などの要素によって月額の料金が決まる。そのため複雑な料金体系になりやすく、目的に応じた料金プランを選択する必要がある。分かりやすいように、利用人数などの上限を決めた定額制の形態を取るサービスが多い。一方、サーバインストール型は、導入時にソフト/ハードウェアを購入するのみだが、保守費や管理のための人件費が継続的に掛かることに注意する必要がある。

3.機器の準備

 音声や映像を共有するために、ヘッドセットや電話、Webカメラといった機器が必要になる。また、これらの機器が、使用しようとする環境で正常に動作するか否か確認するための作業も必要だ。

4.セキュリティ対策

 情報漏えい防止のために、セキュリティポリシーを徹底する必要がある。例えば、Web会議の導入に伴って、情報管理部門やセキュリティを統括する部署との調整や社内ポリシーの変更が発生する。セキュリティポリシーによって、導入する方式(SaaS/ASP型かサーバインストール型)が変わってくることもあり得る。

5.出席者のリテラシーと環境を調査

 自社に合ったサービスを選択するためには、想定するWeb会議参加者の使用環境やITに関するリテラシーについて、あらかじめ確認しておくことが大切だ。ユーザー側で多くのインストール作業などが必要だったり、特定のOSやネットワーク環境からは利用できないといったケースもあるため、ベンダーへの確認や無料体験によるテストを実施するのがよいだろう。

Web会議の導入が効果的な場面とは?

 前述の通り、Web会議は実務レベルで役立つツールソリューションであるため、かなり広範な企業や部署で導入効果を期待できるが、そうでないケースも存在する。簡単にまとめたのが以下の表だが、一般的には利用者数や遠隔地への出張が多い場合は高い導入効果が望める。

Web会議導入の向き/不向き
会議の人数 出張・会議の頻度 出張先・会議対象 主な情報共有の対象 
導入効果が
高いケース
15人以上 頻繁 遠隔地や海外が多い データ(資料)やソフトウェア
導入効果が
低いケース
15人未満 少ない 近隣が多い 表情や臨場感(テレビ会議向き)

Web会議の市場動向

 2007年より、数多くのWeb会議ベンダーが世界的な大手IT企業に買収されており、特に企業内のコミュニケーション/コラボレーションシーンにおいて、より重要な位置を占めるようになってきている。

Web会議ベンダーの買収先
Web会議ベンダー 買収先 買収時期
PlaceWare  Microsoft 2003年4月
Marratech Google 2007年4月
WebEx Cisco Systems 2007年5月
WebDialogs IBM 2007年8月
Interwise AT&T 2007年10月

 さらに、IP技術をベースとしたWeb会議ならではの外部アプリケーションとの連携も進んでいる。その点でも、テレプレゼンスに代表される映像のHD(高精細)化の方向に進んでいるテレビ会議とは大きく異なっている。

photo Web会議との連携アプリケーション例。メールやグループウェアだけでなく、さまざまなアプリケーションとの連携が進められている

 2008年現在、日本国内でのソフトウェアの利用形態としてはSaaS/ASP型とサーバインストール型が同じ割合を占めている。欧米ではSaaS/ASP型の割合が上回っており、今後は日本国内でもIT市場全体におけるSaaS/ASPの浸透とともに、Web会議の利用形態としても増加していくと予測している。

Web会議でも「グリーンIT」がキーワードに

 Web会議の導入理由として、今後は「CO2削減(グリーンIT)」が購買動機の1つになるという予測もできる。Web会議を導入して出張を減らすことで、移動に掛かる化石燃料の節約を実現できるためだ。コスト削減や生産性向上といったダイレクトな経営利益面だけでなく、環境経営の側面からも有効な手段の1つといえる。日本国内だけでなく、世界でも積極的に利用されていくだろう。

 もう1つの世界的傾向としては、「ユニファイドコミュニケーション化」が挙げられる。IP技術をベースとしたWeb会議は、IPフォンやインスタントメッセンジャー、グループウェアといったほかのコミュニケーションツールと統合化して利用シーンを拡大し、コミュニケーションソリューション以外のSFA(Sales Force Automation)やLMS(Learning Management System)などとも連携可能となっている。単にWeb会議だけの導入ではなく、総合的なコミュニケーションインフラの構築といった観点での導入も可能となっている。

 Web会議の導入は、その目的や方法、契約形態などについて、ユーザー側が非常に多くの選択肢を持てるところまできた。スモールスタートして、段階的に機能を拡大していくといった展開も可能であり、以前のように時間をかけて慎重に導入する必要はなくなってきている。Web会議に興味を持ったならば、気軽にテスト利用してみるとよいだろう。

代表的なWeb会議ソリューション

 以下に、代表的なWeb会議ソリューションについて、SaaS/ASP型とサーバインストール型に分けてそれぞれ紹介する。

SaaS/ASP型


ウェブエックス・コミュニケーションズ・ジャパン
製品名 WebEx Meeting Center
画面 ea_webex_sc.jpg
説明 通常のWeb会議サービスのほか、Webセミナーやオンライントレーニング、リモートサポート、リモートセールス向けなどに特化した製品も提供している

富士通
製品名 Join Meeting
画面 ea_fujitsu_sc.jpg
説明 PCからだけでなく、ダイヤルアップ接続やPHS(WILLCOM W-ZERO3)接続の会議参加が可能。PDA(Windows CE)版のクライアントも提供予定

ブイキューブ
製品名 nice to meet you
説明 「Flash Player」を使ったシステム構成を取っており、証券会社など金融系で多数の導入実績を持つ。携帯電話のテレビ電話機能を利用して、携帯電話から会議に参加することも可能

エヌ・ティ・ティ アイティ
製品名 Meeting Plaza
画面 ea_nttit_sc.jpg
説明 NTT研究所から誕生した純国産のWeb会議サービスで、英語と中国語にも対応。マネージドVPNサービスと相互接続したサービスも提供している

ジャパンメディアシステム
製品名 LiveOn
画面 ea_jms_sc.jpg
説明 Webカメラからの映像を20画面同時に表示できる。入室している参加者の映像だけを自動的に並べて表示することも可能。サーバインストール型もある

サーバインストール型


RADVISION JAPAN
製品名 Click to Meet
画面 ea_rvj_sc.jpg
説明 H.323準拠のテレビ会議システムとの連携が可能。Lotus DominoやMicrosoft Officeとの連携機能があり、Lotus Instant Messaging(Sametime)やWindows Messengerなどから直接会議を実施できる機能も搭載。現在は、テレビ会議とWeb会議の融合を目指したソリューション「SCOPIA Desktop」に力を入れているという

沖電気工業
製品名 Visual Nexus
画面 ea_oki_sc.jpg
説明 PolycomやTandbergなど、異なるビデオ会議専用端末を利用してのWeb会議環境の構築が可能。H.323通信における認証、アドレス変換、帯域制御機能を標準搭載

エイネット
製品名 Fresh Voice
画面 ea_einet_sc.jpg
説明 Webカメラからの映像を9画面同時に表示でき、遅延を感じさせないクリアな音声が特徴。周辺機器のレンタルも行っている

シスコシステムズ
製品名 MeetingPlace
画面 ea_cisco_sc.jpg
説明 シスコユニファイドコミュニケーションにシームレスに連携可能な大規模リッチメディア会議ソリューション。会議の予約や録音・録画など、会議前後で必要となる機能も充実している

マイクロソフト
製品名 Live Meeting
説明 パノラマ映像を使った映像共有の仕組みや、マイクロソフト製品との連携が特徴。Microsoft Officeや既存システムとの統合性を重視し、小規模から大規模のグループまで柔軟に対応する

<筆者紹介>

ウェブエックス・コミュニケーションズ・ジャパン株式会社 マーケティング部 マネージャー

宮野 亮

日本国内企業において、1998年よりGIS(地図情報システム)や地図データの販売企画を担当し、1999年にはiモードやWeb上での事業展開を経験する。2004年に現在のウェブエックス・コミュニケーションズ・ジャパン株式会社(当時のイントラネッツ株式会社)に入社し、グループウェアやWeb会議などのコラボレーションソリューションのマーケティングに従事し、現在に至る。


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