ゼロデイは序の口? ユーザーもベンダーも知らないWebからの脅威目に見えない未知の脅威対策

ウイルス対策の定石だったパターン適合型の対策がウイルスの進化に追い付かなくなっている。有効な手だてはあるのか? Webを介して侵入してくる“未知なる脅威”から企業を守るために今、できることを考えてみる。

2008年12月26日 08時00分 公開
[新井源杓,トレンドマイクロ]

 不正プログラム(マルウェア)対策について現在多くの企業が直面している1つの課題は、「未知の脅威(ウイルスなどの悪意のあるプログラムやその活動)にいかに対抗するか」であろう。その背景には、Webからの脅威(後述)による亜種ウイルスの大量発生、特定の対象を狙った攻撃の増加により、セキュリティベンダーがパターンファイルを作成するスピードが新種ウイルスの出現スピードに追い付かず、未パッチの脆弱性を狙うゼロデイ攻撃が発生するケースや、迅速にウイルス検体を入手できないケースが急増していることが挙げられる。その結果、従来のパターンマッチングのみに頼った不正プログラム対策の有効性が低下し、企業において不正プログラム対策が後手に回る状況が発生しつつある。

 本稿では企業が直面する未知の脅威ならびに既存の対策での問題点を取り上げるとともに、具体的に現在どのような対策があるのかを見ていく。

「未知の脅威」とは何なのか

 セキュリティベンダーにおいてパターンファイルを作成するスピードが新種ウイルスの出現スピードに追い付かないケースや、不正プログラムの検体を手に入れられないケースが増えてきたのはなぜだろうか? この点を説明するには、脅威の質が変化してきたこと、そしてウイルスを作成している側の変化を理解する必要がある。

 以下に未知の脅威をタイプ別に分類し、脅威が発生することになった原因を挙げていこう。

ボット型ウイルス

 従来のウイルスは、特定の個人による売名行為などを目的に作成されていた。一度感染活動を開始すると被害が広範囲に及ぶことが多く、ウイルス対策ソフトウェアベンダーもウイルスの検体を取得しやすかった。つまり、ユーザーのセキュリティベンダーへの要望は、ウイルスを効率よく捕獲し、対応したパターンファイルを作成して提供するまでのタイミングを早めること。この時期のウイルス対策製品はパターンマッチング方式でウイルスを検出するものが主であり、実際のウイルス検体からパターンファイルを作成するパターンマッチング方式は誤検出率が低いため、信頼性も高く多くの企業で採用されていた。

 しかし2005年以降、徐々に脅威の質が変わり始める。それまでのウイルスは先述のように売名行為や愉快犯的な傾向が多く見られたのだが、この時期を境にウイルス作成者の目的が金銭や個人情報などの機密情報を効率的に盗み出すことに変化していった。また、ウイルス作成者による単独犯が減る一方で役割分担に基づいて行動する組織犯が増え、ウイルスを作成するさまざまなツールが金銭でやりとりされるようになった。

 この時期に増加したのが、亜種が多く存在する「ボット型」と呼ばれるウイルスである。クライアントPCがボット型ウイルスに一度感染すると、ボットネットワークと呼ばれるボット型ウイルスに感染したクライアントPC同士のネットワークへ参加することになる。その後はウイルスを配布した悪意あるユーザーによってロボットのように操作され、スパムメールの送信サーバとして利用されることが多い。ウイルス作成ツールを使用すれば多機能なボットウイルスを簡単に作成可能であり、大量の亜種を世界中に広めるきっかけになった。

 以下はAV-Test.orgが調査したウイルスの発生数の遷移だ(図1)。この図では2005年前後でウイルスが爆発的に増加しているのが確認できる。ウイルスの爆発的な増加により、セキュリティベンダーはパターンファイルの提供において、スピードと量が増し続けるという課題を解決しなければならなくなった。この結果、従来のパターンマッチング方式による対策では急激なウイルス数の増加に追い付かなくなり、未知の脅威というものが発生したのである。

図1 図1●不正プログラムの急速な増加(マルウェアユニーク検体数の推移 出典:AV-Test.org 2008年調査)

Webからの脅威

 それではなぜ、セキュリティベンダーがウイルスの検体を取得しにくくなったのだろうか? これは、ウイルス作成者の目的が売名行為や愉快犯的なものから金銭や個人情報などを効率的に盗み出すことへと変化したことと関係している。この目的の変化により、以前のように感染したことが目に見えて分かるようなタイプのウイルスは減り、感染したことを気付かせずに静かに潜伏を行い、必要な情報だけを作成者へ送信するタイプのウイルスがここ数年で多く発生したのだ。

 このタイプのウイルスの特徴としては、ウイルス作成者が用意したアクセス先から命令を受信し、自身をアップデートする機能を有している(図2)。例えば、特定の業種の企業/組織のPCへ感染活動を行った後、パターンファイル配布までの間にインターネット上から新しいファイルをダウンロードして自分自身をアップデートするか、新しいウイルスをダウンロードして起動することにより、もしウイルスの検体が捕獲されて自身が検出されたとしても、新しいウイルスを動作させて同様の行動を継続できる。

図2 図2●Webからの脅威

 Webを介して感染するウイルスは、多くの企業でWebアクセスに使用されるHTTP(80番ポート)を利用することから「Webからの脅威」と呼ばれ、感染の連鎖を断ち切らないと永久に活動し続けることになる。代表的なのは、2008年に入って被害が急増しているSQLインジェクションによる正規サイトの改ざんを端緒とする感染活動だ。改ざんされた正規サイトを閲覧したユーザーのクライアントPCへウイルスを感染させ、その後新しいウイルスを次々と連鎖的にダウンロードさせるといったものである。ウイルス作成者は、各社のウイルス対策製品が検出できない不正プログラムをWebサイト上に格納しており、セキュリティベンダーが不正プログラムに対応するパターンファイルをリリースした時点で、Webサイト上に新たな不正プログラムをアップロード・更新することで検出を逃れるといった巧妙な手法を使うため、パターンマッチングによる対応では後手に回ってしまう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

隴�スー騾ケツ€郢晏ク厥。郢ァ�、郢晏現�ス郢晢スシ郢昜サ」�ス

製品資料 パロアルトネットワークス株式会社

セキュリティ運用を最適化し、SOCの負担を軽減する「SOAR」とは?

サイバー攻撃が巧妙化し、セキュリティチームとSOCは常に厳戒態勢を取り続けている。さらにデジタルフットプリントの拡大に伴い、セキュリティデータが絶え間なく往来する事態が生じている。このような状況に対応するには、SOARが有効だ。

製品資料 パロアルトネットワークス株式会社

現在のSOCが抱える課題を解決、AI主導のセキュリティ運用基盤の実力とは?

最新のサイバー攻撃に即座に対応するためには、SOCを従来の在り方から変革することが重要になる。しかし、何をすればよいのか分からないという組織も多い。そこで本資料では、現在のSOCが抱えている5つの課題とその解決策を紹介する。

市場調査・トレンド パロアルトネットワークス株式会社

セキュリティの自動化はどこから始める? SecOpsチームを楽にする正しい進め方

高度化するサイバー脅威に効率的に対処するには、セキュリティの自動化が欠かせない。だが自動化の効果を高めるには、使用ツールの確認、ワークフローの分析などを行った上で、正しいステップを踏む必要がある。その進め方を解説する。

製品レビュー ゼットスケーラー株式会社

AIで脆弱性対策はどう変わる? セキュリティ運用や意思決定に与える影響力とは

脆弱性対策は作業量や難易度を予測しづらく、限られたリソースで対応するのが難しい。さらに、単体の深刻度評価のみとなる一般的なセキュリティ監査ツールでは、包括的な分析は容易ではない。これらの課題を、AIはどう解決するのか。

製品レビュー AvePoint Japan株式会社

Microsoft 365ユーザー必見:情報漏えいの危険性が高い5つのヒヤリハットとは?

情報漏えいを防ぐためには、重大なインシデントになる前のヒヤリハットをいかに防ぐかが重要になる。そこで本資料では、Microsoft 365を利用している組織に向けて、情報漏えいの危険性が高い5つのヒヤリハットを紹介する。

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

繧「繧ッ繧サ繧ケ繝ゥ繝ウ繧ュ繝ウ繧ー

2025/04/23 UPDATE

  1. 繝��繧ソ縺梧シ上∴縺�@縺溘i縲∽シ∵・ュ縺ッ縺ゥ繧後□縺第錐繧偵☆繧具シ溘€€IBM隱ソ譟サ縺ァ蛻、譏�
  2. 縲瑚コォ莉」驥代r謾ッ謇輔≧縲堺サ・螟悶�繝ゥ繝ウ繧オ繝�繧ヲ繧ァ繧「蟇セ遲悶�譛ャ蠖薙↓縺ゅk縺ョ縺具シ�
  3. 繝ゥ繝ウ繧オ繝�繧ヲ繧ァ繧「縺ョ蜊頑焚莉・荳翫′窶懊≠縺ョ萓オ蜈・邨瑚キッ窶昴r謔ェ逕ィ窶補€戊ヲ矩℃縺斐&繧後◆繝ェ繧ケ繧ッ縺ィ縺ッ��
  4. 辟。譁吶〒縲後そ繧ュ繝・繝ェ繝�ぅ縺ョ繝励Ο縲阪r逶ョ謖�○繧銀€懊が繝ウ繝ゥ繧、繝ウ蟄ヲ鄙偵さ繝シ繧ケ窶�5驕ク
  5. 縺薙�繧オ繧、繝域悽迚ゥ�溘€€蛛ス繧オ繧、繝医〒蛟倶ココ諠��ア繧呈栢縺榊叙繧九ヵ繧。繝シ繝溘Φ繧ー縺ォ縺、縺�※縺翫&繧峨>
  6. 縲祁PN縲阪′蜊ア髯コ縺ェ逅�罰縺ィ縲兄TNA縲咲ァサ陦後�蛻ゥ轤ケ縺ッ�溘€€IAM縺ョ荳サ隕√ヨ繝ャ繝ウ繝峨∪縺ィ繧�
  7. 繝ゥ繝ウ繧オ繝�繧ヲ繧ァ繧「髮�屮Black Basta縺ョ莨夊ゥア縺梧オ∝�縲€譏弱i縺九↓縺ェ縺」縺滓判謦�€��窶懈悽髻ウ窶�
  8. 蟆主�貂医∩縺ョ縲郡ASE縲崎ヲ狗峩縺励b�溘€€繝阪ャ繝医Ρ繝シ繧ッ繧サ繧ュ繝・繝ェ繝�ぅ縺ョ窶�3螟ァ蜍募髄窶�
  9. 謾サ謦�€��窶憺裸蟶ょ�エ窶昴€後ム繝シ繧ッWeb縲阪∈繧医≧縺薙◎縲€縺昴�蛻ゥ逕ィ譁ケ豕輔r隗」隱ャ
  10. 縲後そ繧ュ繝・繝ェ繝�ぅ繧ィ繝ウ繧ク繝九い縲阪→縺励※縺ョ驕薙′髢九¢繧九が繝ウ繝ゥ繧、繝ウ隰帛コァ7驕ク

ゼロデイは序の口? ユーザーもベンダーも知らないWebからの脅威:目に見えない未知の脅威対策 - TechTargetジャパン セキュリティ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...