2010年07月21日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】IFRSを会計×業務×ITで理解する【1】IFRS「収益認識」「工事契約」を克服する3つのシナリオ

多くの企業のIFRS適用で課題になると思われる「収益認識」「工事契約」。ビジネスの状況やITシステム環境によって対応方法が異なるだけに、担当者の悩みは深い。会計基準、業務プロセス、ITシステムへの影響を解説し、IFRS適用のための3つの具体的なシナリオを示す。

[原 幹,株式会社クレタ・アソシエイツ]

 日本でのIFRS(国際財務報告基準)への対応が本格化の時期を迎えつつある。現在のところ、2015年または2016年ごろをめどに国内の上場企業における連結財務諸表へのIFRSの強制適用を想定した検討スケジュールが進んでいる。

 2010年3月期においてはIFRS早期適用の開示第1号も出てきた(参考リンク)。IFRS対応プロジェクトについて各社が検討を進めるなか、会計基準そのものへの理解もさることながらその業務への影響、情報システムへの影響について、より実務的に踏み込んだ検討が求められる時期になりつつある。もはやIFRS適用に向けた外堀は埋まりつつあり、待ったなしの状況といえよう。

 本連載ではIFRS対応プロジェクトの本格化を見据え、IFRSの各トピックの解説に加えて「業務サイド」および「ITサイド」にどのような影響があるか、またそれを踏まえてどのような対応をする必要があるかについて解説する。なお、以下の文中における見解は特定の組織を代表するものではなく、筆者の私見である。

 本連載は下記の構成にてお送りする。該当パートを適宜参照されたい。

Part1:会計基準ポイント解説(本稿)

 IFRSのトピックス概要と日本基準との差異を解説する。

Part2:業務へのインパクトと対応(本稿)

 会計基準に対応するための業務サイドへの影響と対応方法を解説する。

Part3:ITへのインパクトと対応(ERP&IFRSへ、無償の会員登録が必要)

 会計基準によるITサイドへの影響と対応方法を解説する。

 第1回は、IFRS対応によるITへの影響が相対的に大きいとされる

  • 「収益の認識」
  • 「工事契約」

について取り上げる。

Part1:会計基準ポイント解説Part1:会計基準ポイント解説

 IAS第18号「収益」においては、「物品の販売」「役務の提供」「利息・ロイヤルティ・配当」に分類して収益の認識基準(どのタイミングで売上取引として計上するのか)を規定している。この基準は「財務諸表の作成にかかる概念フレームワーク」(参考リンク)を基礎にして、「リスク・経済価値移転アプローチ」を中心に認識の要件が規定されている。

 例えば「物品の販売」において収益を認識するには

(a)物品所有に伴う重要なリスクおよび経済価値を企業が買い手に移転させたこと(リスクおよび経済価値の移転)

(b)販売された物品に対して、所有と通常結びつけられる程度の継続的な管理上の関与も有効な支配も企業が保持していないこと(支配の放棄)

(c)収益の額が信頼性をもって測定できること(信頼性のある測定)

(d)当該取引に関する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと(経済的便益の流入可能性)

(e)当該取引に関して発生したまたは発生する原価が、信頼性をもって測定できること(信頼性のある測定)


の5つの要件をすべて満たす必要がある。特に重要なのは「(a)リスクおよび経済価値の移転」だ。すなわち、販売する商品そのものの「価値」と、それにまつわる「リスク」が「売り手から買い手に移転したタイミング」を「経済的便益の移転」と考え、売り手にとって収益を認識するべきとするものである。

 収益の認識において、IFRSと日本基準には実質的な違いはない。

項目 IFRS(IAS第18号:収益) 日本基準(企業会計原則)
認識の基準 収益は、将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、これらの便益が信頼性を持って測定できるときに認識される 売上高は実現主義の原則に従い商品等の販売
または役務の給付によって実現したものに限る
認識の個別要件 5つの要件(上記参照)をすべて満たす場合 規定なし
収益の測定 対価の公正価値による
対価の支払繰延が実質的に財務取引である場合は、将来の入金額の割引現在価値による
明示されていないが通常は取引価額(対価の公正価値)と解される
割賦販売の会計処理 販売基準による
利息部分は区分して期間配分する
販売基準を原則とするが、「回収期限到来基準」「入金基準」も認める
利息の区分処理は行わない
比較表:収益の認識

 IAS第11号「工事契約」においては、建設工事の工事発注者が、契約の施工にかかる利益の測定と、開示を行う場合の収益・原価に関する会計処理を規定している。特徴的なのは、工事契約収益と原価の対応において「工事契約の成果が信頼性をもって見積もることができる」場合に「工事進行基準」を適用する点だ。

 「工事契約の成果が信頼性をもって見積もることができる」とは、具体的には、

(a)工事契約の収益合計が信頼性をもって測定できる

(b)工事契約に係る経済的便益が、その企業に流入する可能性が高い

(c)契約の完了に要する原価と決算日現在の進ちょく度が信頼性をもって測定できる

(d)工事契約に帰属する契約原価が、信頼性をもって見積もることができる


の4つを満たすことを指す(確定価格契約の場合)。

 特に「(c)原価と進捗度の測定」の要件が重要で、進ちょく度を「見積工事原価全体に対する発生原価の割合」「実態調査」「物理的な完成割合」などに基づいて把握することが必須とされる。これらを把握できないなど、「工事契約の成果が信頼性をもって見積もることができない」と判断された場合には、発生した工事原価を上限として収益を認識しなければならない。これは「原価回収基準」といわれ、損益計算書上はいわゆる「利益ゼロ工事」(収益=原価)として計上する。

項目 IFRS(IAS第11号:工事契約) 日本基準(企業会計基準第15号:工事契約に関する会計基準)
収益・費用の認識
(1)工事契約の成果が信頼性を持って見積もることができる場合
工事進行基準 工事進行基準
収益・費用の認識
(2)工事契約の成果が信頼性をもって見積もることができない場合
原価回収基準
回収可能な実際発生原価まで収益に計上。工事完成基準は認めない
工事完成基準
予想損失の引当計上 工事契約に損失が発生する可能性が高い場合は、全額を直ちに費用として認識する 引当金の計上要件に該当すれば、計上すべきものと考えられる
比較表:工事契約の認識

Part2:業務へのインパクトと対応Part2:業務へのインパクトと対応

 収益の認識について、前述のとおりIFRSの基準そのものは日本基準と大きな差異はないが、個別のポイントでは処理の違いが多々見受けられる。ここでは日本公認会計士協会が2009年7月9日に公表した会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)−IAS第18号「収益」に照らした考察−」(参考リンク)に基づき、以下の代表的な検討事項とその対処方針につき解説する。

業務上の検討事項 IFRS 日本基準
1.収益の表示方法(総額表示と純額表示) 収益は「企業が自己の計算により受領し、又は受領し得る経済的便益の総流入だけを含む」とされる
第三者のために回収した金額は企業の持分の増加をもたらさないため、収益から除外される
ソフトウェア取引に限定して瑕疵担保や在庫リスクなどを負っていない場合のみ限定的に純額表示を行う
2.収益の測定(利息相当分の区分) 収益は受領する対価の公正価値により測定する
「現金による対価の公正価値と名目額との差額が利息的性格を有しているような場合には、実効金利法により区分して期間配分する」
取引の対価として受領する「現金」等の額で収益を測定する
3.複合要素取引 取引の実質を反映するために、単一取引の個別に識別可能な構成部分ごとに収益を認識することを包括的に求める 経済的に分割される複数の取引から構成されている一つの取引について限定的に扱う
(ソフトウェアの管理上の区分に基づき取引ごとに収益を認識する、工事契約について実質的な単位に基づき契約単位の分割をするなど)
4. 物品の販売(出荷基準の再検討) 重要なリスク・経済価値を買手に移転したときに収益を認識する 実務商慣習を重視し
・顧客の指定納入場所に到着した時点
・顧客の検収時点
・物品の出荷時点
などのタイミングで収益を認識する
5. 役務の提供 取引の成果が信頼性をもって見積もることができる場合には、取引の進ちょく度に応じて認識する 「対価の成立」
「役務の提供の完了」
を満たした場合に認識する
6. 企業資産の第三者の利用(ロイヤルティなど) 企業資産の利用に対して支払われた使用許諾料およびロイヤルティは契約の実質に従い認識する 特に定めなし
実現主義により判断する
7. 契約内容(権利義務関係)の明確化 収益認識の要件の1つとして、権利義務に関連する事項を定めている 当事者間で合意があれば、
契約書等に記載されていない取引が行われることが多い
収益の認識における業務上の検討事項と比較

1.収益の表示方法(総額表示と純額表示)1.収益の表示方法(総額表示と純額表示)

 取扱金額の総額(物品の販売価額+手数料相当額)を収益として計上するか、純額(手数料相当額のみ)を収益として計上するのかがポイントとなるが、ソフトウェア以外の取引について(例えば商社の取引やシステムインテグレータのハードウェア納品、流通業における消化仕入など)においても、付加価値を生んでいる部分のみを売上(純額)に計上し、それ以外については売上(総額)から外す必要がある。この点は各社固有の事情があるため、自社の商流を分析して結論を出す必要がある。

2.収益の測定(利息相当分の区分)2.収益の測定(利息相当分の区分)

 例えば割賦販売において受領する対価の時価と名目額との差額が利息的な性格であり金額も大きい場合には、収益を区分して期間配分することによる損益の違いが出てくる。

3.複合要素取引3.複合要素取引

 IAS第18号は取引を実態ごとに分解することを包括的に求めているため、ソフトウェア取引や工事契約以外の複合取引について損益の違いが出る可能性がある。またポイント処理のように販売取引と分解可能な構成要素についても処理の違いが表面化する余地がある。

4.物品の販売(出荷基準の再検討)4.物品の販売(出荷基準の再検討)

 実務慣行として定着している出荷基準だが、リスクおよび経済価値の移転を厳密に解釈することで、IAS第18号における収益認識タイミングが異なる可能性がある。

5.役務の提供5.役務の提供

 本質的な違いはないが、日本基準における「役務の提供の完了」要件をより厳格に解釈し、受領した対価に対応する役務の内容・条件に応じた会計処理を行わない限り、IAS第18号と相違が生ずる場合がある。例えば役務提供の開始時に、入会金などを一括して受領した場合に、対価に対応する役務の提供が完了するまでは収益を認識することはできないことになるが、実務上は入会金受取時に収益認識する慣行が定着している。

6.企業資産の第三者の利用(ロイヤルティなど)6.企業資産の第三者の利用(ロイヤルティなど)

 本質的な違いはないが、IAS第18号と相違が生ずる場合があると考えられる。知的財産権の重要性が増してきていることにかんがみ、契約の実質判断に当たって「受領した対価の内容」「関連する権利義務」について十分な検討が必要である。

7.契約内容(権利義務関係)の明確化7.契約内容(権利義務関係)の明確化

 IAS第18号を適用する場合に、実質的な契約に基づいて処理を行うためには契約内容(権利義務関係)が明示される必要がある。具体的には、

  • 「所有権の移転時点」
  • 「債権・債務の発生時点」
  • 「特約(買戻条件、解約条件等)の有無など」

がこれに当たる。

 最後に、これらの業務上の検討事項に対応する対処方針について述べる。下記の表は、横軸には主な業務上の検討事項、縦軸に関連付けられる対処方針をマトリックスとして表現した。○印のある箇所を関連付けて理解されたい。

A.売上の範囲・区分検討 B.売上計上タイミングの検討 C.収益繰延の検討 D.契約条項の検討
1.収益の表示方法(総額表示と純額表示)
2.収益の測定(利息相当分の区分)  
3.複合取引  
4.物品の販売(出荷基準の再検討)
5.役務の提供  
6.企業資産の第三者の利用(ロイヤルティなど)  ○
7.契約内容(権利義務関係)の明確化
主な業務上の検討事項と対処方針の関係

 IAS第18号の適用に当たり、検討すべき内容を以下に示す。

A.売上の範囲・区分検討

 取引実態を詳細に分析して必要であれば売上計上の範囲や区分を見直す必要がある。具体的には、

  • 付加価値相当分とそれ以外の内訳を分解する
  • 割賦販売時の利息相当分を正味の商品部分から区分する
  • 複合要素取引について、取引要素ごとに分解する

などがこれに当たる。

B.売上計上タイミングの検討

 売上計上タイミングについては、リスク・経済価値の移転タイミングを見極めて必要があれば変更を検討する余地が出る。具体的には

  • 割賦販売時の利息相当分の期間配分タイミングを検討する(通常は契約期間に渡って配分)
  • 出荷基準採用時において、実質的なリスク・価値移転タイミングとして妥当と判断されるタイミング(検収時または船積時)を見極め、実務的に対応可能かどうかを検討する
  • 役務の提供やロイヤルティにつき、価値移転タイミングを特定する根拠となる契約実態を精査する

などがこれに当たる。

C.収益繰延の検討

 売上計上タイミングが見直されることを受けて、従前は全額計上していた収益の一部について次期以降に繰り延べる余地が出てくるため、こちらについても合わせて検討が必要となる。

D.契約条項の検討

 上記の取引実態を見直すことにより、取引の相手方との交渉や契約条件の見直しをかける局面が出てくる。特にリスク・経済価値の移転における実質的な内容を契約書面に反映するうえでは、特に相手方との条件面における協議と合意が前提となることから、この対応は慎重に行う必要がある。

Part3:ITへのインパクトと対応へ(ERP&IFRS、無償の会員登録が必要)

原 幹 (はら かん)

株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役

公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)

井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社数社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。

「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。翻訳書およびメディアでの連載実績多数


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