IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月はAICPA(米国公認会計士協会)がSECに対して行った、上場企業にIFRSの任意適用を認めるよう求める提言などを紹介する。
2011年は、MoUによる多くの検討項目が基準化される年であるとともに、アメリカにおけるIFRS導入に関する決定の行方が注目されている年でもある。IFRS Watch第6回は、8月中に公表されたIFRS関連情報より注目すべきものをピックアップしている。今回は、AICPAによるIFRS任意適用の提言や、金融庁による米国基準適用期限撤廃などIFRS導入についての各国の動向を中心に最新情報をお届けする。
【これまでの記事】
ASBJ:企業会計基準委員会
FASB:米国財務会計基準審議会
IASB:国際会計基準審議会
IFRS:国際財務報告基準
MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意
SEC:米国証券取引委員会
IASBは、2011年8月4日に、IFRS第9号(金融商品)の強制発効日の調整を提案する公開草案を公表し、パブリックコメントを募集した。この公開草案は、現在は2013年1月1日であるIFRS第9号の発効日を、2015年1月1日とすることを提案している。
公開草案を公表する際に、IASBは完成しあるいは進行中のプロジェクトの全てのフェイズについて、発効日を同じにするよう調整することの重要性について言及した。
当該コメントの募集期限は2011年10月21日としている。
米国の財務報告システムへIFRSを組み入れるためのフレームワークをSECが検討している中で、AICPAは米国の上場企業に対しIFRSを任意適用できる選択肢を与えるべきだとSECに対し提言した。
この提言はSECが2011年5月26日に公表したスタッフ・ペーパー「Work Plan for the Consideration of Incorporating International Financial Reporting Standards into the Financial Reporting System for U.S. Issuers」に対して行われたもの。AICPA議長Paul V. Stahlin氏、およびAICPA会長Barry C. Melancon氏は、4ページに渡るSECへの手紙の中で「IFRSを米国の財務報告システムの中に組み入れる方法に関し、SECの決断がエンドースメント/コンバージェンス・アプローチであるか否かにかかわらず、米国上場企業に対してIASBによって発行されたIFRSを任意適用する選択肢を与えるべきだ」としている。
その理由としては「米国企業と外国民間発行体(foreign private issuers)に対する取り扱いに一貫性を持たせることができるとともに、IFRS適用を選択した米国企業と、IFRSを採用している外国の競合他社と比較可能」になり、さらに「米国の財務報告システムにIFRSを組み入れるというゴールを達成するための重要なステップとなる」とコメント。
SECは2011年後半において、米国の財務報告システムにIFRSを組み入れる方法やフェイズなどの期限設定に関し何らかの決断を公表する予定としており、これらのコメントを受けたSECの決断がどのようなものとなるのかが世界的に注目されている。
投資会社は、広く投資家からの資金を集め、これを投資目的のみでプールする会社であると一般的に理解されている。しかし、IFRS第10号は投資会社が支配している企業についてもこれを連結の範囲に含めるべきとしている。この点について、投資会社の評価に必要な情報を提供していないとのコメントが寄せられている。これを受けてIASBは、公開草案「投資会社」を発表した。コメント期限は2012年1月5日であり、概要は以下の通りである。なお、本公開草案が採用されると、IFRS第10号に取り込まれることとなる。
投資会社に該当する場合、原則として支配関係が存在しても被支配会社を連結せずに公正価値により評価する。この公正価値による測定は、IFRS第9号「金融商品」に従って収益ないしは費用を通じてなされることとなる。投資会社とされるためには、投資によってキャピタルゲインまたは配当(もしくはその両方)を獲得することを唯一の本質的な活動としていること、そのことを投資者に対して明確にコミットメントしていることなどの6つの要件を全て満たす必要がある。
本公開草案はIASBとFASBの共同プロジェクトであり、両者の見解はおおむね一致している。しかし、FASBは投資会社が投資会社でない会社に支配されている場合にも適用することを提案しており、今後の動向に注視する必要があるといえる。
ASBJとFASBの代表者は、2011年8月18、19日に東京で会合を開催した。この会合においては、IASBとFASBの共同プロジェクトである金融商品、収益認識、リース、および保険契約についての両者の意見交換が行われた。本プレスリリースにおいてASBJは、IASBとFASBの共同プロジェクトと支持しており、今後も共同プロジェクトの内容を踏まえて日本基準とIFRSのコンバージェンスを進めていくことを表明した。
以前から金融商品取引法に基づく開示について、SECに登録している連結財務諸表提出会社は、提出する連結財務諸表の用語、様式及び作成方法について米国会計基準を使用できる(2009年6月30日改正前 連結財務諸表等規則 93条)とされていた。だが、2009年6月30日の改正において、IFRSロードマップが示されたことに相まって、米国会計基準の使用は2016年3月31日に終了する連結会計年度までの間までとされ、適用に期限が定められた(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則 附則《平成一四年三月二六日内閣府令第一一号》2項)。
ところが、2011年6月21日に公表された金融担当大臣の談話「IFRS適用に関する検討について」においては、IFRS適用はその決定から5〜7年の十分な準備期間の設定を行う旨が明示された。それに伴って、米国基準の適用期限も撤廃され、SECに登録している連結財務諸表提出会社は、当該会社の提出する連結財務諸表の用語、様式及び作成方法について米国会計基準を使うことができる(2011年8月31日施行 連結財務諸表等規則 95条)旨の規定が復活した。
2007年3月中央大学法学部卒業。2009年3月北海道大学大学院経済学研究科専門職学位課程修了後、同年11月公認会計士試験合格。2010年2月より仰星監査法人にて法定監査に従事。校正協力に「ベーシック税務会計I・II」(創成社)がある。
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