企業のスマホ導入が失敗する3つの原因Android/iOS端末へのアプリ移行がネックか

業務の効率化を目指し、スマートフォンやタブレットでも業務アプリの利用を解禁する企業が増えている。しかし、単に導入しただけでは思わぬ結末を招きかねない。

2013年09月30日 08時00分 公開
[Mike Anderson,TechTarget]

 数々の課題を前にモバイル戦略の準備が整わず、モバイル化の海に思い切って飛び込めない企業は多い。

 モバイル関連のコンサルティング企業、米VDC Research Groupが最近実施した調査によると、企業が上げる課題のトップ3は「セキュリティ」「無線接続とそのサービス提供範囲」「既存システムのモバイル対応状況」だった。

 この調査では、セキュリティを懸念材料としたのは回答者の62%に上る。無線接続とサービス提供範囲を課題だとしたのは50%。また、「既存システムはモバイルソリューリョンに対応していない」と回答したのは42%だった。

 「機密情報は、Salesforce.comやカスタマーサービスオートメーション、CRM(顧客関係管理)などのプラットフォームで公開されている」とVDC Researchのシニアモバイルアナリスト、エリック・クライン氏は言う。「しかし、モバイルプラットフォームからのアクセスが解禁されたら、リスクはさらに高まる」

柔軟性のないネットワークとアプリがモバイル化の妨げに

 現在は多くの企業がオープンな無線ネットワークを使っているが、これが問題の要因になり得る。無線ネットワークは、利用するユーザーが増えるほど速度が遅くなるし、正規ユーザー以外の人間の不正アクセスを警戒する必要もあるからだ。

 「ユーザーアクセスをコントロールする必要がある。また帯域幅も考慮しなければならない。帯域幅とネットワークアクセス、そしてタブレットやモバイル端末から接続する従業員の数も併せて考えると、ネットワークの混雑は免れない」とクライン氏は説明する。

 しかし、モバイル戦略に対応するために、社内ネットワークをアップデートすることは容易ではない。IT担当者にはネットワークをアップデートする時間はないし、会社にはダウンタイムやネットワークのアップグレード費用を受け入れる余裕はない。

 クライン氏は「ネットワークを使う作業の多くは基幹業務であり、社員がインターネットにアクセスできないという事態は許されない」と話す。

 また、米ITコンサルティング企業J. Gold Associatesの主席アナリスト、ジャック・ゴールド氏は、「企業のアプリケーションがモバイル端末に対応していない場合もある。アプリを変換するには多額の費用が掛かり、変換すること自体が非常に難しい可能性がある」と指摘する。

 「Windowsアプリをモバイル端末向けに変換するのは一筋縄ではいかない。AndroidとiOS端末にどうやってアプリを移植するのか? ユーザーが望んでいるのは簡単に仕事ができることで、それ以外は二の次だ」(ゴールド氏)

 それでも、中には、経費管理や勤怠管理など、比較的簡単に実行できるアプリをモバイルに対応させて、経費報告書やタイムカード、休暇申請などの処理を実現している企業もある。

 「ほとんどの企業は、特定のベンダーとソリューションの標準セットを決めて導入しているが、それらは技術的に業界標準ではない。それぞれの環境に合わせて、アプリケーションは大幅にカスタマイズされている。カスタマイズされたアプリに投資をするのは難しい」と前出のクライン氏は言う。

 「企業はモバイル端末向けにアプリケーションを統合し、カスタマイズできる知識を持つ専門家を探す費用も覚悟しなければならないだろう」(クライン氏)

モバイル化の課題への対応策

 モバイル端末の使用に伴うリスクを従業員に認識してもらうため、全社レベルのポリシーを始めとして、事前の対策が必要だ。

 クライン氏は、ポリシーを用意し、モバイル端末にダウンロードできるデータや端末から送信できるデータをコントロールすることが極めて重要だとする。その上で、端末をロックダウンし、データの漏えいを防ぐ。また、従業員にはプライベート用と業務用の端末のIPアドレスをIT部門に登録させて、管理者がネットワークを使用する端末のMACアドレスを把握できるようにする。

 中には、モバイル戦略の策定をサードパーティーに委託している企業もある。

 「大手のコンサルティング会社やシステムインテグレーターの協力を得て、このような統合のノウハウを獲得している企業もある」(クライン氏)

 モバイルスペシャリストがいるITサービス企業に、モバイル戦略の策定を依頼しているケースもあるようだ。

 また、モバイル端末を保護および管理するためのソフトウェアツールも幾つか市販されている。

 「社有のモバイル端末の管理であれ、BYOD(私物端末の業務利用)であれ、ツールを使うことで、IT管理者はモバイルフォンをある程度コントロールできる。このようなソリューションでは、データ漏えい対策が標準機能になっている」

 あらかじめモバイル関連の問題が起こらないようにする簡単な方法も幾つかある。

 「データ伝送効率を維持し、重要でないデータはアップロードさせない。パフォーマンスを低下させるものを大量にネットワークに置かないようにする。アプリを細かく分割するのも1つの方法だ。一度に少しずつデータを送るようにする」とゴールド氏はアドバイスする。

モバイル戦略の策定

 さまざまな課題はあっても、企業はモバイル戦略を立てなければならない。

 「生き残りたいなら、企業はモバイル戦略を作る必要がある」とゴールド氏は説く。「それを無視すれば、不利な立場に立つことになる。10〜15年ほど前はWebが極めて重要だったが、今はモバイルだ。モバイル化は、企業の根幹に関わる問題だ」

 1つ確かなのは、モバイル戦略にはプランニングが必要だということだ。

 世界的な仏製薬会社Sanofiの米国本社でモバイルエンジニアリングの責任者を務めるブライアン・カッツ氏は、「皆、携帯電話やタブレットへの移行は簡単にできるだろうと考えるが、希望やニーズを見極めなければならない」とくぎを刺す。

 カッツ氏はさらに、「何よりもまず、モバイルポリシーが必要だ」と話す。デバイスとアプリの管理をどうするかを考えるのは、モバイルポリシーを確立してからの話だ。

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