iPadやChromebookで利用、企業はモバイルアプリをどう構築・運用しているか活用される仮想化技術

モバイルアプリケーションを社内で利用するには幾つかの方法がある。仮想化技術を使ってアプリケーションをモバイル対応させ、iPadやChromebookで利用している企業の事例を紹介する。

2012年11月26日 08時00分 公開
[James Furbush,TechTarget]

 モビリティの実現という課題が、「iPadでメールアカウントを設定すれば、それで終わり」というほど簡単でないことには、ITプロフェッショナルも気付きつつある。モバイル端末から社内のアプリケーションやデータにアクセスする方法をIT部門が提供しないなら、エンドユーザーはIT部門を無視して、自分でアプリケーションを選ぶことになるだろう(参考記事:SaaSの勝手導入でIT部門が大混乱、防ぐには?)。

 慎重に計画を立てて、従業員のニーズを正しく把握すれば、IT部門はモバイル環境向けに全面的な再構築を施さずとも、既存のアプリケーションを配布できる。ただし、そのためのプロセスには、何カ月もの計画と開発作業が必要とされ、数万ドルものコストが掛かる可能性もある。

モバイルアプリケーション導入の3つの段階

 API(アプリケーションプログラミングインタフェース)プラットフォームを提供する米Apigeeの戦略ディレクター、サム・ラムジ氏によれば、企業のモバイルアプリケーション導入には3つの段階があるという。

 1つ目は、仮想化技術を用いて既存のアプリケーションをモバイル端末に配布するという段階だ。特にモバイル環境向けに開発されたわけではないWindows 7や各種のアプリケーションに、これまで多くの企業がどれだけ投資してきたかを考えれば、アプリケーションの仮想化はモビリティ対策のつなぎの技術として欠かせないものだとIT部門は考えている。

 その一方で、多くのIT部門は、仮想化がモバイルワークフォース実現のための長期的なソリューションにはならないことを認識している。企業が既にアプリケーションを仮想化している場合に限って、仮想化技術によるアプリ配布のコストが適切に収まることも認識している(参考記事:クラウド/仮想化分野で先手を許したMicrosoftの反撃)。

 2つ目は、既存のアプリケーションをクロスプラットフォーム対応のモバイルアプリケーションに変える段階だ。そして3つ目の段階では、データをアプリケーションから切り離し、使用中のプラットフォームや端末に合わせて適切なアプリケーションを選べるようにする。その上で、IT部門がデータセンターからアプリケーションへとデータを流し込む。

 「最初の2つの段階では、モバイル端末の良さが生かされない。3つ目の段階は、IT部門が直面している現状からすると、実現は非常に難しい」とラムジ氏は指摘する。同氏によれば、モバイル化は企業にアプリケーション導入方法の見直しを余儀なくさせているが、結局のところ、「端末ではなく、データへのアクセスとその活用が重要となる環境」を実現するためには、企業にはまだ数多くの制限があるという。

モビリティが変化の触媒に

 「モバイル化は企業に対し、既存システムの見直しや、そうしたシステムへのアクセス方法の見直しを余儀なくさせている」と指摘するのは、米エンタープライズモビリティコンサルティング会社、Solstice Consultingの創業者、J・シュワン氏だ。同社は2012年8月、それまで社内だけで利用していたモバイルアプリケーションライフサイクルツール「AppLauncher」をリリースしている。

 「モビリティは変化を促す強力な触媒だ。企業は全てをモバイルで行わなければならないというわけではない。だが、私たちは転換期を迎えつつある。モバイル端末は将来のプラットフォームだ」と同氏は語る。

 米カリフォルニア大学アーバイン校医学部付属病院では、医師やシステム管理者から「私物のiPadを業務に使いたい」との強い要望があり、IT部門が一夜にして対応したという。

 同大学のIT部門で最新技術とサーポートサービス担当マネジャーを務めるカーティス・ヘンドリック氏によると、同部門は米AirwatchのMDM(モバイルデバイス管理)ソリューションと米Bradford Networksのネットワークアクセス制御(NAC)ソリューションを組み合わせ、大量のネットワークを抱える各種の端末に対し、ある程度の制御を行えるようにしたという。同部門はユーザーにiOS端末の利用を推奨。同病院では現在、正式な保守契約の下、約1000台のiOS端末が登録されているという。

 ヘンドリック氏は「(iOS端末を選んだのは、)利用しているアプリケーションベンダーの大半が既にiOS版のアプリケーションをリリースしているからだ」と説明している。

 モバイル版が提供されていないアプリケーションに関しては、IT部門は既存の「Citrix XenApp」環境を利用し、「Citrix Receiver」を介して、iPadから仮想化されたアプリケーションにアクセスできるようにした。電子医療記録(EMR)アプリケーションについては、従来のWindows版とiOS版の両方を利用できるという。

 「Citrixのインタフェースはそれほどよくないが、患者データの入力ではXenAppを使った方法の方が、機能が豊富だ。モバイルアプリケーションは、iPadで結果をスピーディーにスワイプ(指を画面に触れた状態で滑らせる操作)するのに便利だ」とヘンドリック氏。

 「IT部門はアプリケーションの配布方法はどれか1つに絞るのではなく、どのバージョンであれ、医師がいつでも必要に応じて必要なEMRアプリケーションを使えるような柔軟性を提供しなければならない」とさらに同氏は語っている。

 中にはモバイル対応の一環として、レガシーアプリケーションをクラウドに移行させている企業もある。その過程においては、同時に仮想デスクトップインフラ技術を用いて自社製アプリケーションを配布している。

 ばら積み貨物輸送業者の米Quality Distribution(QDI)は2年前、Microsoft製品への依存を軽減することを決定した。IT担当副社長のクリフ・ディクソン氏によれば、同社は可能な限り、「Google Apps」などのSaaS(Software as a Service)アプリケーションを採用した上で、イスラエルのEricomが提供するデスクトップ仮想化製品「PowerTerm WebConnect」を使うことにしたという。PowerTerm WebConnectはバックエンドのデータとアプリケーションをHTML5アプリケーションに変えるゲートウェイとしての役割を果たし、レガシーアプリケーションのWeb化を可能にする。

 その上で、QDIは各支社の従業員にGoogleのChrome OSを搭載するノート型端末「Chromebook」を支給し、新しいアプリケーション環境にアクセスできるようにした。ディクソン氏によれば、従業員はこの新しい環境を非常に気に入っているという。なぜなら、自宅のコンピュータからでも、社内の全てのアプリケーションとデータにアクセスできるからだ(参考記事:勘違いから学んだ、Googleの「Chrome OS」と「Chromium OS」の違い)。

 「輸送業務は真夜中にも発生する年中無休の仕事だ。以前なら、自宅で業務に取り掛かる必要がある場合にはコンピュータを立ち上げ、VPNトンネルを構築して、全て問題なく進むよう祈るしかなかった。今ではスマートフォンであれ、iPadであれ、ベッドサイドに置いてある何か最新のWebブラウザを搭載した端末を使って、半分の時間で仕事を済ませられる」と同氏。

 QDIの最終的な目標は、2015年までに同社のデータセンターのスペースとレガシーアプリケーションを削減することだという。

 「当社がこの課題に取り組むことにしたのは、BYOD(私物端末の業務利用)に合わせてアプリケーションを調整し、われわれがモバイルの世界で仕事をしていることを理解しているアプリケーションベンダーを選ぶためだ」とディクソン氏。

 同氏が目指しているのは、IT部門がトラブルシューティングに割く時間を減らし、もっとサービスの提供に注力できるような環境作りだという。モバイル化の推進とレガシープラットフォームからの脱却もそうした構想の一環だ。

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