2009年03月11日 08時00分 UPDATE
特集/連載

PMツール導入のメリットを再考するExcelによるプロジェクト管理では「工事進行基準」に対応できないのか?

IT業界でも2009年4月以降の会計年度から適用される「工事進行基準」。従来のプロジェクト管理とはどう変わるのか? 工事進行基準に対応したプロジェクト管理ツール導入のメリットを考えてみる。

[山崎靖之,サイオステクノロジー]

 システム開発の現場では、専用ツールやMicrosoft Office Excel(以下、Excel)など、さまざまなツールを利用したプロジェクト管理が行われている。TechTargetジャパンが2008年に実施した「プロジェクト管理ツールの利用状況に関するアンケート」では、「導入済みのプロジェクト管理ツールは何か?」という問いに対して、「Excelを使用している」と回答した読者が全体の67.8%を占め、また「Excelで自前のツールを作成している」という意見も多く見られた。

 最近、プロジェクト管理者を悩ませているのが「工事進行基準」への対応だ。工事進行基準は、工事の進ちょく度に応じて売り上げを分散して計上する会計の仕組みである。欧米諸国や日本の建設業界などでは一般的な会計基準だが、IT業界でも2009年4月以降に始まる会計年度から原則として適用される。

 これにより、受託ソフトウェアやシステム開発における「収益総額、原価総額、決算日における進ちょく度」について、合理的な見積もりの実施と当期の工事収益および工事原価を財務諸表(損益計算書)に計上する必要が出てきた。

 工事進行基準では、決算ごとに見積もり額が企業の会計処理に直接影響を与えることになる。これまで、実現主義(※)によってあいまいな見積もりが定着している場合は、特に気を付けなければならない。

※ 実現主義

目的物の引き渡しをもって契約の完了と考える、会計上の収益認識方法。これまでIT業界で適用されてきた「工事完了基準」は、この実現主義に基づいている。一方、工事進行基準は、工事の完成度に応じて収益と原価を会計期間ごとに計上する「発生主義」に基づいている。


 工事進行基準で求められる「プロジェクト進ちょくの実態に即した売り上げの計上」は、人手によって管理すると煩雑になり、計上金額の精度面においても問題が発生する可能性がある。また、Excelや単純な進ちょく管理、情報共有機能のみを持つツールでは、原価計算や会計処理といった細かい分析を行うのは難しくなる。

 できることならば、工事進行基準に対応したプロジェクト管理ツール(以下、PMツール)によって、プロジェクト管理者の負担を減らしながら、プロジェクト進ちょくと整合性の取れた売り上げ計上を実現したいものだ。では、管理者がExcelをベースにして手作業で管理した場合、どのような問題が起こるのだろうか。

手作業での管理による問題

 工事進行基準を適用したプロジェクト管理は、見積もりの時点で始まっている。なぜならば、工事契約に関する会計基準にて「信頼性を持って『工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進ちょく度』を見積もることができなければならない」と定められているからだ。

 また、見積もりの精度を高めるためには「過去の見積もり実績からの工数の標準化、プロジェクト情報の集約と再利用」などが重要となる。集約された過去の健全な類似プロジェクト情報を検索・参照することで、見積もり能力の個人差を埋めることができる。さらに、プロジェクト工数を標準化することで、見積もり精度の安定化を図ることにつながる。

 一方、手作業で過去のプロジェクト情報を管理した場合、その情報の再利用は容易ではなく、工数がかさむばかりか、信頼性維持の実現性も低くなる。さらに、プロジェクト進ちょくと整合性が維持された売り上げ計上処理についても、手作業での信頼性維持は困難だといえる。プロジェクトメンバーの作業実績と個々のWBS(Work Breakdown Structure)の進ちょく状況との関連付けをすべて手作業で行うことになり、正確性の保証が困難になるからだ。

「工事進行基準対応」の定義とは?

 工事進行基準に対応したPMツールを利用すると、前述した手作業の管理による問題を解決できる。そもそも「工事進行基準に対応する」とは、どういうことなのか? 今回は、以下の2つの要件を満たしたツールを工事進行基準に対応していると定義した。

プロジェクトの見積もり精度を向上させる機能を持つ

  • 過去の見積もりデータの検索や再利用
  • 過去の実績工数データの分析
  • 工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進ちょく度の記録
  • 開発工程とそれに対する月次での工数(原価)の消費予定の記録

進ちょく管理と収益計上機能が連動する

  • 決算期における工事進ちょく実績の算出
  • 当期の工事収益および工事原価を抽出
  • 工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進ちょく度の変更時の影響額、工事進行基準により計上される未収入額などの管理

工事進行基準対応ツールの導入メリット

 ここからは、工事進行基準に対応したPMツールの導入メリットを紹介していく。以下にモデルケースとなるプロジェクト管理の流れを示す。

photo プロジェクト管理の概念図《クリックで拡大》

メリット1 過去のナレッジから見積もり精度をさらに向上できる

  • 標準化 + 過去の情報を利用 = 属人的な見積もり誤差を排除できる
  • プロジェクト実績データを蓄積することで、見積もりの精度がさらに向上し、全社的な品質を均一化させる

 工事進行基準への対応の第一歩は、「属人性を極力排除し、より精度の高い見積もり作成を行う」ことだといえる。

 前述した、信頼性を持った「工事収益総額」「工事原価総額」とは、「プロジェクトの計画時点で、より精度の高い見積もりを行う必要がある」ことを意味する。工事進行基準に準じた売り上げ計上を行う場合は、計画(見積もり)と実績の差異を売上額に反映させる必要があるからだ。

 しかし、精度を欠いたプロジェクトが多数存在するような状況では、決算報告のたびに大きな修正を余儀なくされる。そのような企業が市場からどのような評価を下されるのかは、容易に想像できるだろう。

 また、受託ソフトウェア開発では顧客のさまざまなニーズに対応する必要があり、その見積もりを定型的に行うことが難しい。そのため、見積もりの精度が担当者の知識や経験に依存してしまう傾向にある。こうした属人的な見積もりから脱却する方法として、工事進行基準に対応したツールの利用が挙げられる。

 工事進行基準に対応したPMツールでは、プロジェクトの工数パターン登録機能により、見積もりの標準化や再利用を支援することができる。さらに、以下のようなプロジェクトに関するさまざまな情報を一元管理することで、過去の類似プロジェクトの情報を検索することも可能だ。

PMツールで管理できるプロジェクト情報の例

  • プロジェクトの基本情報(概要、目的、対象範囲、前提条件など)
  • プロジェクトマネジャー、参加メンバー
  • 工程、スケジュール
  • 工数、コストそれぞれの計画と実績
  • 発生した課題と解決のプロセス
  • 全メンバーの間でやりとりされたメッセージ記録
  • 成果物

photo PMツールでは標準的な工程を「工程パターン」として登録し、テンプレートとして利用できる(画面はサイオステクノロジーのPMツール「ProjectKeeper Professional」。以下、同)《クリックで拡大》

 こうした機能を利用することにより、プロジェクトの工数見積もりを実施する際の属人性を極力排除し、精度の高い見積もりを実施できる。

メリット2 工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進ちょく度を記録できる

  • 原価をモニタリングし、収益の確保のためのアクションを可能にする
  • 原価の超過を早期に発見でき、計画の修正や業績予想への悪影響を防止できる

 工事進行基準に対応する上では、信頼性を持った「決算日における工事進ちょく度」が重要だ。

 工事契約に関する会計基準にも挙げられている「原価比例法」では、決算日におけるプロジェクトに対する原価がどれくらい消化されているのかを正確に集計し、その額に応じて売り上げを計上する。PMツールを利用すると、プロジェクトの進ちょく報告機能と連動することで、原価がリアルタイムに集計され、予算と実績の比較が容易になる。

 また、これらの金額が売り上げ計上時の基礎データとして利用されるので、プロジェクトの各担当者レベルで正確な作業報告を行うことが重要になる。さらに、PMツールを利用して工程・要員・月別の工数計画を作成することで、収益と原価の総額および決算日における工事進ちょくと計上額を予測することが可能となる。

photo 科目別や月別に原価の予実を表示できる《クリックで拡大》
photo 原価の推移をチャート表示で確認できる

メリット3 プロジェクトの健全度を可視化できる

  • プロジェクトの健全度を作業進ちょくの両面から可視化できる
  • プロジェクト全体の進ちょく度を測る合理的な指標を提供する

 プロジェクトの進ちょく状況はさまざまな要因によって、予定より遅延したり、時には進んだりもする。「プロジェクトは予定通りにはいかないもの」という前提で、プロジェクトを管理している担当者も中にはいるだろう。「予定通りに行かない進ちょく状況を、うまくコントロールする」ことが、管理者の手腕として問われることにもなる。

 原価比例法では、見積もり時点の工事原価総額を分母とした進ちょく率で決算時の売り上げ計上額が決定される。そのため「正確な進ちょく率の把握と管理」が必要となる。

 PMツールには、正確な進ちょく率の把握と管理を実現する手段として、集約したデータの指標化やグラフ表示、原価の予実差異と消化率の管理、原価と進ちょくの状況を指標化できる機能(EVM:Earned Value Management)が搭載されている。

 この機能を利用することで、プロジェクトの健全度をリアルタイムで可視化でき、プロジェクトの遅延や予算超過の兆しを事前に察知して、問題の芽が大きくなる前に摘み取ることが可能になる。

 また、作業の進ちょくを金銭的に表現する「EVM手法」を用いると、計画値に対する実際の原価と作業進ちょくの乖離(かいり)率を示すことが可能になる。

photo EVM手法によって作業の進ちょくを金銭的に表現できる《クリックで拡大》

メリット4 決算期における工事進ちょく実績と工事収益、工事原価を管理できる

  • 原価比例法またはEVM法に準じた進ちょく率から、当期の売り上げに計上すべき金額を算出し、データを抽出できる。これにより、企業の会計システムへの連動を容易にする

 工事進行基準に対応した売り上げ計上を手作業で行った場合、さまざまなファイルやシステムから該当プロジェクトの見積書や計画書、労働時間や労働単価、経費などからかき集めた情報を基にして、表計算ソフトで集計する必要がある。

 一方、PMツールを使用すれば、プロジェクトの計画や労働時間、労働単価、経費などの基礎データが一元管理できる。また、必要なデータは一式整っているため、これらのツールが提供するリポート(エクスポート)機能を利用して、会計システムなどの基幹システムとの連携も容易になる。

photo 会計関連データの管理《クリックで拡大》

メリット5 プロジェクト内のコミュニケーションも円滑化する

 また、プロジェクトの遂行には整理された情報共有が必要となる。メールや口頭によるコミュニケーションではなく、プロジェクトに関する課題、やりとりといった情報を一元管理し、共有できる仕組みが必要である。

 PMツールでは、進ちょく率や課題管理、掲示板・メッセージの機能によって、現場で発生するさまざまな情報を共有して、課題の顕在化やその解決に向けた活動、対応の遅延防止を支援することも可能だ。

悩めるプロジェクト管理者へ

 ソフトウェア開発のプロジェクト管理で重要なことは、日本の製造業で行われてきたQCD管理ではないだろうか。「Quality(品質管理)、Cost(原価管理)、Delivery(納期管理)」の3つが滞りなく遂行されていれば、プロジェクトは成功しているといえる。しかし、これらを円滑に遂行することは容易ではなく、日々プロジェクト管理者は悩んでいる。

 プロジェクト管理の成功は、プロジェクトマネジャーの手腕による部分が大きい。PMツールを活用すると、多種多様なプロジェクト情報の入手と分析、正確な管理に役立てることができる。特に工事進行基準を適用したプロジェクトではPMツールを活用することで、正確かつ迅速なプロジェクト管理の実践をお勧めしたい。

プロジェクト管理ツール・関連ソリューションの紹介

 ここからは、工事進行基準に対応したプロジェクト管理の関連製品を紹介する。

プロジェクト管理ツール


製品名 ProjectKeeper Professional
企業名 サイオステクノロジー
画面 jo_090311_sios.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 情報集約や事実の可視化によりプロジェクトの計画から終了までのさまざまな課題解決を支援し、工事進行基準に対応したプロジェクトの運営をサポート
販売価格 プロセッサコアライセンス210万円(税込み)/サーバCPU

製品名 A-Sign
企業名 デイルート
画面 jo_090311_a-sign.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 ガントチャート上のマウス操作によりスケジュール作成とアサイメントを月単位または日単位で行うことが可能。これにより個別原価管理・EVM・ABCを統合的に実現し、工事進行基準のための各指標を算出できる
販売価格 9万8000円(PC1台のライセンス料。半年間の無償バージョンアップと無償サポートを含む)。PC複数台分を一括購入の場合は、割引価格で提供

製品名 Time Krei
企業名 テンダ
画面 jo_090311_timekrei.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 プロジェクト管理とグループウェアを統合したワンストップ管理によりEVMを用いた管理・分析を容易に実現。UIにはFlashを採用し、直感的な操作が可能。2009年3月よりSaaS型サービスの提供を開始
販売価格 SaaS型サービスは無料で提供。SaaS型5ユーザー以上、またはインストール型を希望する場合は応相談

製品名 @task
企業名 日本アットタスク
画面 jo_090311_task.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 WBS作成やリソース管理、進ちょく管理に加え、課題、成果物管理機能をSaaSで提供。プロジェクトごとの受注額や工数の予実、外注費、経費などを管理し、EVM、原価比例法どちらにも対応
販売価格 エンタープライズ版:7161円、プロフェッショナル版:4405円(いずれも1ユーザー当たりの月額税込み料金。年間/ボリュームによるディスカウントあり)

製品名 Oracle Projects
企業名 日本オラクル
画面 jo_090311_oracle.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 プロジェクトに関する計画、契約、請求、工程進ちょくやリソースなどの情報を一元的に管理することが可能なアプリケーション。最新版では、プロジェクト情報の可視性を強化した
販売価格 ライセンスのみの最小構成(5ユーザー)で250万円(税込み)から

製品名 Microsoft Office Project 2007
企業名 マイクロソフト
画面 jo_090311_ms.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 業務プロセスの標準化や見積もり、標準テンプレート、プロジェクトWBS、リソース計画などの作成ができる。また、EVMによる進ちょく管理や作業時間管理、プロジェクトマネジャーによる承認などが可能
販売価格 ライセンス価格は非公開。パッケージもオープン価格。※ Microsoft Storeでのパッケージ価格は、Project Professional 2007が13万8600円、Project Standard 2007が7万8540円(いずれも税込み)

会計システム連動型ソリューション


製品名 プロジェクト原価管理システム
企業名 NTTデータイントラマート
画面 jo_090311_nttintra.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 複数プロジェクトに対し、リソースごとの単価設定に基づいた厳密な工程単位の原価管理が可能。原価比例法を採用。OSSとの親和性も高く、ソースも公開されている。独自業務要件に合わせたカスタマイズも可能
販売価格 50ユーザー:150万円から(税別)(※ ユーザー数によってライセンス体系が異なる。〜50、〜100、〜200、〜300、〜500、〜1000、〜3000、無制限)

製品名 プロジェクト管理統合ソリューション
企業名 オービック
画面 jo_090311_obic.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 プロジェクトごとに引き合いから受注、外注・仕入・支払、請求・入金、進ちょくや収支などの進行状況を一元管理するERPシステム。進ちょくに応じて売り上げと原価を適切に計上。仕訳処理内包型で工事進行基準に対応
販売価格 1500万円から(システム構成によって異なる)

製品名 J+Project会計
企業名 日揮情報システム
画面 jo_090311_jpro.jpg 《クリックで拡大》
製品概要 営業段階から売り上げ計算までを包括的に管理する。10年以上前から進行基準に対応しているJ-SYSのノウハウを詰め込んでおり、WBS単位での管理、間接プロジェクトの管理も可能。会計システムとの連携も容易
販売価格 企業規模に応じたカンパニーライセンス。100ユーザーまでは640万(基本モジュール:税別)

<筆者紹介>

山崎靖之

サイオステクノロジー株式会社 執行役員 技術部門技術企画担当 兼情報システム担当 兼技術企画部長

専門分野:ITアーキテクト

90年代前半からオブジェクト指向開発にかかわり、その後Rational Softwareにて反復型方法論(RUP)、UMLに基づいたオブジェクト指向分析/設計のコンサルタントとして、大企業への普及活動を経験。現在は技術部門を担当する傍ら、「The Open Group」の認定する「TOGAF8 Certified Individual」認証アーキテクトとしても活動している。


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