IFRSについてのさまざまな新しい動きが予想される2011年。IASBの議長が交代するとともに、これまでの会計基準のコンバージェンスがひとまず終了し、IFRSは海外、国内ともに変化を迎えるでしょう。2011年にはどのような風景が見えるのでしょうか。
「2011年がポイントになる」。IFRSに関心を持つ公認会計士や企業の実務家、大学教授など多くの人からこのコメントを聞きました。IASB(国際会計基準審議会)のデービッド・トゥイーディー議長が2011年6月に退任し、また、日本の会計コンバージェンスも日本基準とIFRSの差異に関する部分は2011年6月までに終了する予定です。2011年はIFRSを取り巻く環境が大きく変わる可能性があります。今回はIASB、ASBJ(企業会計基準委員会)の動きを中心に2011年を占ってみましょう。
トゥイーディー議長の後任はオランダ金融市場局議長のハンス・フーヘルフォルスト氏で、2011年6月に着任する予定です。「金融証券市場の規制担当者として、投資家の保護が私のDNAだ」とコメントしています(参考記事)。金融監督当局の出身なだけに投資家保護の精神が染み渡っているようです。フーヘルフォルスト氏は会計基準設定主体としてのIASBの独立性の確保とともに、難航している米国会計基準とのコンバージェンス(MoU項目)についても力を発揮することが期待されています。
MoU関連項目のコンバージェンス遅延によって、日本の会計コンバージェンスも影響を受けています。ASBJが9月に発表したコンバージェンス進行の計画表では、基準を変更する作業の多くが延期されることが明らかになりました(関連リンク)。「IASB/FASBのMOUに関連するプロジェクト項目」では「財務諸表の表示(フェイズB、非継続事業)」や「収益認識」「負債と資本の区分」「金融商品」「公正価値測定・開示」「リース」で、論点整理や公開草案、基準化の時期が延期されました。IASBとFASBがMoU項目に優先付けを行ない、2011年6月までにコンバージェンスを終了させる優先プロジェクトと、2011年下期に終了させるその他のプロジェクト(財務諸表表示フェイズBなど)とに区別したからです(参考記事)。その影響を受けて国内のコンバージェンスも遅れるという状況です。
また、プロジェクト計画表では「既存の差異に関連するプロジェクト項目」として残っている「企業結合」(ステップ2)、「無形資産」についても基準化を2010年中から2011年6月まで延期しました。
一方で、それ以外の検討項目としては、四半期財務諸表開示の簡素化の検討を行うことが新たに追加され、2011年3月までに基準化することにしました。
日本企業がこれまでIFRS対応として作業を進めてきたのは、主に「既存の差異に関連するプロジェクト項目」でした。しかし、資産除去債務や包括利益表示などの基準化が終了し、プロジェクト項目は終わりに近づいてきたと言えるでしょう。一方で、MoU関連のプロジェクト項目は9つのエリアがあり、まだ先が見えません。IASBとFASBとの議論が進まないことにはASBJも動けないのが現状です。
IFRSの強制適用を仮に2015年とした場合、企業に残された準備時間はあまりなく、MoU関連項目の未確定な情報をベースに作業を進めざるを得ないのが難しい点です。2011年には米国がIFRS適用を決めるかどうかも明確になるとみられます。ASBJの動向に加えて、企業はIASBやFASBの動向にも目を配る必要が、さらに高まっていると言えるでしょう。
それではIFRSフォーラムで9月に掲載した記事のランキングと、ニュース記事のランキングを紹介しましょう。
IFRSを深く理解し、原則主義に基づく判断を行うには必須と言われる英語スキル。新連載は高島亜由美さん、前田潤くんと一緒にIFRSのフレームワークを通じてIFRSで使われている英語に触れていただく企画です。文章の中にもありますが、IFRSの英語はそれほど難しくありません。非英語圏でも読まれることを意識し、初歩的な英語の知識があれば読み解けるようになっています。この記事でぜひ英語の壁を乗り越えて下さい。
2位:IFRS適用第1号、日本電波工業の有価証券報告書を読む
IFRSを任意適用した初の国内企業、日本電波工業の有価証券報告書を解説する記事です。英文のアニュアルレポートでIFRSによる開示を行ってきた同社はIFRSの初度適用には該当せず、関係する開示がこの有価証券報告書には記載されていません。しかし、収益認識、有形固定資産など日本基準からIFRSに変更したことで大きく変わった項目もあります。IFRS適用による影響度分析などを行っている企業にとっては必読の記事です。
この記事もIFRS適用についてです。しかし、ここで登場するディーバが変わっているのは任意適用ではなく、IFRSを「自主適用」した点です。任意適用の条件に合致せず、IFRSが強制適用されるまで本来は待たざるを得ない同社ですが、連結パッケージなどIFRS関係のソリューションを展開することもあり、自主適用を決断。記事ではIFRS適用プロジェクトを展開するうえでの困難なども語られています。
公認会計士や財務経理部門の方に向けて最新のIT用語をコンパクトに解説する記事です。今回は「クライアントPC」についての用語を解説します。最も身近なIT製品と言ってもいいPCはその進化が速く、新しい用語が次々に登場しています。基本的な用語に加えて、「デスクトップ仮想化」「パワーオンパスワード」「リモートデスクトップ/リモートアクセス」などを解説します。
引当金の認識と測定、偶発負債、偶発資産の開示について定めたIFRSの基準書であるIAS第37号を解説します。日本基準との比較を行ない、その相違点を明確にします。「排煙ろ過装置の設置」など実際に想定される事例を挙げているのが今回の特徴です。
9月のニュース記事ランキングは以下です。
それではまた来月、お会いしましょう!
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