IFRSの英語原文を読み始めた前田くん。今回は高島さんの指導を受けながら、IFRSの特徴である「資産・負債アプローチ」を学習していきます。原文を読むことで資産・負債アプローチの概念が明確になります (フレームワークの掲載はFair UseとしてIASBの承認を得ています )。
前回のおさらい:中堅の製造業企業(東証一部)で経理部に勤める前田潤くんは会社のIFRS推進プロジェクトのメンバーに任命されました。IFRSの理解を深めるにはIFRSの原文を読んでみるのが一番と上司の高島亜由美さんに勧められた前田くん。高島さんに指導役をお願いし、IFRSフレームワークの原文を読んでみることにしました。
高島さん:前田君、もうそろそろお昼の時間だけど食べにいかないの?
前田くん:実は、最近、弁当を持ってきてるんです。
高島さん:もしかして、いま流行の弁当男子?
高島亜由美さん:経理部の係長。昨年まで香港の子会社に駐在していた
前田潤くん:高島さんの部下。経理部に配属されて4年。IFRSと英語を勉強中
小田隆夫さん:経理部の課長。IFRS推進プロジェクトのリーダーを務める
前田くん:いや〜。1回試しに作ってみたら、予想以上に上手くできたので、それからどんどん凝り出しちゃって。いつもお世話になってますから、今度高島さんの分も作ってきましょうか?
高島さん:お気持ちだけありがたく頂戴します。だいたい男性に自分の弁当を作ってもらうなんて、ちょっと……。
前田くん:女性が家事で、男性が仕事なんていう固定観点は一度リセットしたほうがいいですよ。IFRSだって、僕らがいままで普通に使ってきた「収益・費用アプローチ」ではなく、「資産・負債アプローチ」を採用しています。時代は常に変化していて、僕たちはそれに対応していかないと時代の波に取り残されますよ。
高島さん:IFRSが例えに出てくるところをみると、勉強は順調に進んでいるようね。前田くんの言う通り、IFRSは、資産と負債が先に決まり、それらの前期と当期との差額が損益となるという「資産・負債アプローチ」を採用していると言われるけど、期間損益計算を重視する日本の会計基準に慣れ親しんだ私にとっては、まだこのIFRSの資産・負債重視の考え方がすんなりと受け入れられないのよね。
前田くん:さっきは、偉そうなこと言いまいましたけど、実は僕もまだ「資産・負債アプローチ」をきちんと理解できているとは言えません。
高島さん:IFRSでは、投資判断に必要なStatement of Financial Position(財政状態計算書、日本基準では貸借対照表)を適正に表すことに重点が置かれていて、Statement of Comprehensive Income(包括利益計算書、日本基準では損益計算書)は、財政状態計算書の期首と期末の差額を説明し、分析するためのものという位置付けになっているわ。
いま原文を読んでいるフレームワークで、財務諸表の各構成要素(資産、負債、持分、収益、費用)がどう定義されているかを見てみれば、「資産・負債アプローチ」について何かわかってくるんじゃないかしら?
前田くん:そうですね。やってみます!
高島さん:では、まずは、資産から見てみましょう。
前田くん:An asset is a resource (1)controlled by the entity as a result of past events and (2)from which future economic benefits are expected to flow to the entity. (Framework.49)
訳:資産とは、(1)過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、(2)将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。
高島さん:“economic benefit”(「経済的便益」)という言葉は、耳慣れない言葉だけど、どういう意味なのかしら?
前田くん:The future economic benefit embodied in an asset is the potential to contribute, directly or indirectly, to the flow of cash and cash equivalents to the entity. (Framework 53)
訳:資産に具現化された将来の経済的便益とは、企業への現金および現金同等物の流入に直接的または間接的に貢献する潜在能力である。
高島さん:つまり、企業のキャッシュを生み出す能力ってことね。
前田くん:フレームワークの資産の定義に従えば、将来企業のキャッシュを生み出すことが期待できないものは資産に分類できないことになります。
高島さん:なるほど。では次に、負債はどう定義されているのかしら?
前田くん:A liability is (1)a present obligation of the entity arising from past events, (2)the settlement of which is expected to result in an outflow from the entity of resources embodying economic benefits. (Framework.49)
訳:負債とは、(1)過去の事象から発生した企業の現在の債務で、(2)その決済により、経済的便益を有する資源が当該企業から流出することが予想されるものをいう。
高島さん:さらっと流してしまいそうだけど、債務がなければ負債として認められないとなると、日本基準で負債に計上されている修繕引当金は負債ではなくなるということになるわね。
前田くん:そうなってしまいますね。フレームワークの資産、負債の定義は、目新しく感じますが、過去・現在・未来における要件がそれぞれ整理されていて、とても分かりやすいです。
高島さん:では、持分はどうかしら?
前田くん:Equity is the residual interest in the assets of the entity after deducting all its liabilities. (Framework.49)
訳:持分とは、企業のすべての負債を控除した残余の資産に対する請求権である。
高島さん:フレームワークでは、持分は、資産から負債を控除した差額であり、資産と負債が決まれば、自ずと決まるものとして定義されているのね。では、次に……。
前田くん:すみません。ちょっと休憩してもいいですか?
高島さん:また休憩のリクエスト? もう一踏ん張りなんだから、がんばりましょう。最後に、収益と費用がどのように定義されているのか一気に見てしまいましょう。
前田くん:Income is increases in economic benefits during the accounting period in the form of (1)inflows or (2)enhancements of assets or (3)decreases of liabilities that result in increases in equity, other than those relating to contributions from equity participants. (Framework.70)
訳:収益とは、当該会計期間中の(1)資産の流入もしくは(2)増価または(3)負債の減少の形をとる経済的便益の増加であり、持分参加者からの出資に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるものをいう。
前田くん:Expenses are decreases in economic benefits during the accounting period in the form of (1)outflows or (2)depletions of assets or (3)incurrences of liabilities that result in decrease in equity, other than those relating to distributions to equity participants. (Framework.70)
訳:費用とは、当該会計期間中の(1)資産の流出もしくは(2)減価または(3)負債の発生の形をとる経済的便益の減少であり、持分参加者への分配に関連するもの以外の持分の減少を生じさせるものをいう。
高島さん:なんだかとってもシンプルな感じがするわ。収益と費用は、資産と負債の変動のうち資本取引以外のものと定義されているのね。まとめてみると、フレームワークでは、資産と負債の定義を重視していて、収益と費用は、決定した資産と負債の変動分であるとして積極的に定義していない。つまり、ここからIFRSの「資産・負債アプローチ」を読み取ることができるわ。
前田くん:はい。高島さんのおかげで、頭の中でもやっとしていた「資産・負債アプローチ」がクリアになってきた気がします。ありがとうございました。フレームワークの原文を読んでいると、いろいろと良いことがありますね。
高島さん:いろいろって?
前田くん:IFRSプロジェクトが思ったように立ち上がらず、小田課長には怒られるし、眠れない日々が続いていたんです。でも最近、寝る前にフレームワークの原文を読んでいるので、あっという間に眠気が襲ってきて、気が付くと夢の中なんですよね。
高島さん:なるほど。フレームワークは、英語と会計の勉強のためだけでなく、睡眠薬としても使えるってことね。じゃあ、その調子で次回も頑張りましょうね。
前田くん:はい。
高島さん:では、今日のおさらいです。5つの例文を毎日、英語でつぶやいてみましょう。
出典:「2010 International Financial Reporting Standards IFRS as issued at 1 January 2010」
国際会計基準委員会財団[編]/企業会計基準委員会[監訳]/公益財団法人財務会計基準機構[監訳]「国際財務報告基準(IFRS)2009」(中央経済社:2009年12月)
国内大手監査法人にて主に日本を代表する自動車メーカーおよびそのグループ会社の監査を担当した後、米国留学。会計学修士取得。帰国後、日本アイ・ビー・エムに入社し、M&A、子会社・関係会社戦略策定に関わる。2004年よりリソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパンにて外資・日系グローバル企業への会計・経理・内部統制のプロジェクトに多数携わる。共著に「IFRS経理規程の実務マニュアル」(中央経済社)。
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